2 隠れ家から始まる生き残り計画
錬金術師アリエルが用意してくれた隠れ家は、正確には家じゃなくて――塔だった。
扉に手を触れると、「ぎぃっ」と木の軋む音。見た目は普通の木の扉だけど、アリエルの魔力が宿っていて、錬金術で強化されている。鉄より硬いはずだ。
とりあえず、人間や獣の襲撃からは守ってくれそうだ。
塔の最上階まで上がって窓の外を見ると、森の奥だけど、意外と街は近い。遠くに時計塔も見える。国の外かと思ってたけど……近すぎて逆に緊張する。
「師匠、なんでこんなに街の近くなんですか!?」
思わず声に出す。もっと安全な場所がよかったのに。
けど、ここは電気も水道もない。自然しか頼れない。
正直、こんな場所知らなかった。森の入口に結界でもあるのかもしれない。
「師匠、せめてサバイバル術くらい教えてほしかった……それに、塔の中は真っ暗で何も見えないし!」
とにかく、食べるものをなんとかしないと。錬金術は自然の力を借りる術だから、この森の環境なら何とかなるはず。
壊れかけた箱からジャガイモの種芋と豆の種を取り出し、育成促進キットをセット。澄んだ湖から水を汲んで注ぐ。
傷だらけの体に水を含ませて、一息ついた。
魔力が土に染み込んでいくのを感じる。さすが師匠の隠れ家。きっとよく育ってくれるはず。
畑を耕す時間はないから、数日は様子見だ。
ふと、師匠のことを思い出す。
あの人は命の恩人で、私の親代わりだった。
小さな頃、貧しい農村で育ち、娼館に売られそうになっていた私を、全財産をはたいて買い取ってくれた。
「お金なくても、錬金術で野菜作ればなんとかなるんだよ」
そう笑って、店を大きくしていった師匠。
塔の中を見回す。古くて壊れそうだけど、石造りで獣や風は防げそうだ。
ただ、蔦がびっしり絡まってて日の光が入らないのが惜しい。
屋根はところどころ傷んでるけど、雨漏りはしなさそう。時間があれば直したい。
錬金術の本は揃ってるけど、師匠の書き置きは見当たらない。
埃がひどいから換気しなきゃ。
転移先に着けば、何か師匠の言葉を残してるかと期待したけど、何もなかった。
一人になった。
これからどうしよう。
お金もないし、錬金術も師匠には遠く及ばない。
なんで何も言わずに駆け落ちしたんだろう?
恋愛に反対なんてしてなかったのに、どうして私に相談してくれなかったの?
この塔には錬金道具が揃ってる。形を変えて街に出れば売れるかもしれない。
でも、それは足がつくリスクもある。
どうすればいいか分からないまま、日が沈み、夜の森を見つめる。
「なんとか街にバレないように、お金を稼がなきゃ……」
震える声で呟いて、心の奥の覚悟が少しだけ固まった気がした。