16 隠された樹海の真実
レオンハルトさんが、見捨てずに戻ってきてくれた。
「ご、ごめんなさい……レオンハルトさん……」
声が震え、言葉が途中で途切れる。
やっぱりどんなに自分を奮い立たせても、不安で仕方ない。
手で顔を覆い、止まらない涙を必死にこらえようとするがうまくいかない。
師匠がいなくなってから、ずっと張り詰めていた緊張の糸が一気に切れたみたいだった。
「大丈夫だ、怒ってなんかない……」
レオンハルトも自分の口調を反省する。
普段は男ばかりの職場で、肉体労働も多い。つい物言いがきつくなってしまうのだ。
こういうとき、抱きしめるのが正解か……?
いや、特別な関係じゃないし、一定の距離を取るべきか……
頭の中で悩む。
カイルなら……いや、あいつは参考にならない。押し倒すからな。
そうだ、まずはそっと肩に手を置くことにした。
「怒ってはいないが、もっと危機感は持つべきだ。
君は、俺と君の間に縁談があった関係だって知っているか?」
ミレイユは涙でぐしゃぐしゃの顔をあげて、「へっ!」と驚いた声を出した。
「おい、へっ!とはなんだよ、まったく」
レオンハルトは優しく、涙まじりの彼女の顔を手にしていたハンカチでそっと拭う。
「君の知らないところで、勝手なことを考える奴はたくさんいる。君にその気がなくても、今の服装でよからぬ想像をする奴もいるんだ。
服の手配はしてきた。明日には手に入るはずだ。だけど、自分を守る術は、ちゃんと身につけないといけない」
その言葉に、ミレイユはわずかに頷いた。
ーーー
2階のベッド脇に腰を下ろしたレオンハルトは、深呼吸をひとつ。
目の前のミレイユが不安そうにじっと見つめている。
「ミレイユ、君は街の南にこんな森があるって知ってたか?」
彼の声は静かだけど、強い意志が込められている。
ミレイユは首を振った。
「いえ……こんなに大きな森があるなんて知りませんでした。もし知ってたら、きっと良い素材を集めるのに冒険者さんたちを使っていたと思います」
レオンハルトは、ベッドサイドのテーブルの上で手元の紙に簡単な地図を描きながら説明する。
「ここはな、街から近いのに誰も知らない秘密の場所だ。阻害魔法で隠されていて、国王直轄の“魔力樹海”って呼ばれてる」
ミレイユの目がほんの少し大きくなる。
「魔力樹海?」
「そうだ。普通の人間や冒険者は入れない。ここを守るのは“樹海防衛部隊”だけ。国王が直接指揮してるんだ」
レオンハルトは地図に今の自分たちの場所、街の位置、そして防衛部隊の拠点を丸で囲って示した。
「この樹海のはるか先に霊峰山がある。ここのふもとは魔物が多い。潮の満ち引きや月の満ち欠けで活発になる魔物もいる。もしスタンピードが起きたら大変なことになる。だからここを中心に防衛部隊は活動しているはずだ。」
ミレイユは少し顔を強ばらせた。
「わ、わかりました……」
レオンハルトは優しく微笑んで、彼女の肩にそっと手を置く。
「今は君が国から不自然に目をつけられてるから、絶対に防衛部隊と接触しちゃいけない。ここはまだ巡回がない安全なエリアだ。だから、この周辺だけで活動してほしい」
ミレイユは深くうなずき、覚悟を決めたように言った。
「はい、わかりました。絶対に気をつけます」
「よし、いい子だ」
レオンハルトは優しくミレイユの頭を撫でた。




