10 武器職人少女は危険地帯でも目が輝く
だいたい位置は掴めた。
ここは樹海の奥――外部からの襲撃は、まず心配ない。
この場所を知っているのは、関係者の中でも相当上の立場の連中だけ。
樹海防衛部隊の定期巡回のコース上でもない。
よほどのことがない限りここに来る奴は、いないだろう。
……むしろ心配なのは、ミレイユが迷子になるか、魔物に遭遇するパターンだな。
塔の上から見える範囲は、だいたい確認し終える。
よし、降りて――
ついでに、試し切りでもしておくか。
少し離れた場所に、開けた空間がある。
あそこなら多少暴れても問題ないはずだ。
「じゃあ、ミレイユはここで待って――」
「た、試し切り……見たいです!!」
目がキラッキラしている。
完全に犬が「散歩行く?」って言われた時の反応だ。
「危ないからダメだ」
「邪魔はしません! その武器の効果がどうで、何が足りなくて、どこが厳しいのか……間近で見られるチャンスなんて、一生に一度あるかないかですよ! 特に武器は!」
職人魂か……。
気持ちはわかる。
わかるが――
「後で説明するが、ここは魔物の巣窟だ。危険すぎる」
「だからこそです! ここの素材も把握しておきたいし、防御用の道具も作らなきゃいけない。レオンハルトさんがいる間に!」
ぐいっと詰め寄ってくる。必死だな……。
まあ、近くだし、護衛すればなんとかなるか。
「身を守れるものは? 短剣は俺が持ってきたやつがあったな。防具や魔物避けの忌避剤は?」
「薬は……お店ごと壊されちゃって、持ち出せませんでした。防具も元々なくて。でも棚になにか残ってるかも。
昨日もハイポーションがあったので、それでなんとか耐えました」
「……ハイポーション!?」
おいおい、給料三か月分だぞ。下手したら俺の剣より高い。
「素材さえあれば作れます。ポーションの延長みたいなものですから。もしここで作れそうなら、お礼に作ります」
いや、それは「ありがとう」で受け取れる品じゃない。
でも……材料次第では、悪くない取引かもしれない。っていやいや!
そんなことを考えつつ塔を降りていくと、二階に棚があるらしく、ミレイユが「ちょっと待ってて」と走って行った。
棚を漁るミレイユの横に、古いベッドが見える。……見てはいけないものを見た気がして、目線を床に移動すると。
床には血痕。
思わず息が詰まる。どれほどの折檻をしたんだ?
家族の横領で……?
ハイポーションが必要になるほどの怪我なら、ただの取り調べでは済まない。――何か別の意図があったはずだ。
「解毒剤と、忌避用の鈴がありました。これを鳴らすと、魔物の三半規管が狂って、だいたい一時間は近寄ってきません」
「おっ、それは助かる。……って、魔物だけか? 人間に影響はないのか?」
多分、疑問が顔に出ていたのだろう。
「人間とは作りが違うんですよ。魔物って、小さな音でも聞き分けられるので……そこをピンポイントでずばっと」
楽しそうに魔物への対処法を語る。
この可愛い顔でそんな物騒な話をされると、普通の男は確実にドン引きだろう。
……俺は嫌じゃないが。
今になって、ダリウスや師匠が彼女の将来を案じて縁談を持ち込んだ理由が、少しだけわかる気がした。




