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紅に朽ちる  作者: ANONYMAS
4/5

温かさ

放課後の生徒会室。


机の上には大量の帳簿と書類が積み上がり、朽葉は黙々と電卓を叩いていた。


「……数字、合ってるな。」


呟いた声が静寂に溶ける。

こんな場所、自分には無縁だと思っていた。


「お疲れ、朽葉。」


低く穏やかな声に顔を上げる。


そこには副会長の**霧島きりしま 理央りお**が立っていた。

無造作にかきあげた前髪と、知的な雰囲気を纏う眼鏡。

けれどどこか飄々としていて、近寄りがたい冷たさはない。


「会計って地味で面倒だろ? でもお前、黙々とやるから助かるわ。」


「……別に。仕事だから。」


「素直じゃねぇな。」


理央は苦笑すると、自分の分の缶コーヒーを机に置いた。


「糖分足りてるか? ほら、ミルクティー。砂糖多め。」


「……いらない。」


「まあ、受け取っとけって。」


無理やり渡された缶を見つめる。

缶の温かさが、指先にじんわりと沁みた。


「……」


(なんだこいつ……普通だな。)


恐怖も嫌悪も、過剰な親切もない。

ただ“人”として接してくる。


「朽葉くん。」


今度は書記の水嶋紗耶が、小走りでやってきた。

丸メガネにまとめ髪の小柄な少女だ。


「これ、生徒会だよりの修正箇所です。一緒に確認お願いします。」


「ああ。」


紗耶は嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます。会計さんが入ってくれて本当に助かってます。」


頭を下げる彼女を、朽葉は黙って見つめた。


(……なんだ。ここには……普通に、ちゃんとした人間がいるじゃないか。)


自分は、誰からも必要とされない存在だと信じていた。

けれど、この二人の瞳に映る自分は“ただの道具”ではなかった。


「朽葉くん。」


背後から凛とした声。


振り向くと、生徒会長・如月紅葉が立っていた。

隙のない制服姿に冷たい瞳。


「作業は終わった?」


「ああ。」


「なら次は、この備品購入計画書に目を通して。」


無機質に書類を渡す紅葉。

一切の甘さも、優しさもない。


「副会長、書記。無駄話ばかりしてないで各自業務を進めて。」


「へいへい、会長。」


理央は笑いながら背を向ける。


「はい、会長。」


紗耶も頷いて自席へ戻った。


朽葉は缶ミルクティーのプルタブを開け、一口飲む。

甘さが舌に広がる。


(……不思議だな。)


ここにいると、ほんの少しだけ呼吸が楽になる気がした。



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