契約と血の記憶
「ねえ氷山君、今月のサッカー部の部費の費用なんでこんなに上がってるの。私、部費を上げていいなんて許可した覚えないんだけど。」
そういうのは、この私立葵城学園高等学校生徒会長の如月紅葉だ。
「ああ、それは俺が勝手にしたことだから気にすんな。」
……こんなことを何度も繰り返していれば、そのうち俺はここから解放される。
そう思ってた。
「あのね、氷山くん。こういったお金が関わってくる問題は勝手な独断で決めちゃならないの。しっかりと先生方や学校運営に携わってくださっている方たち…」
如月が言い終わる前に俺は言った。
「あっ、そうか。そうだった、わすっかり忘れてた。あー俺やばいことしちゃったなあ。これは生徒会を首になってもおかしく無…」
そう俺が言い終える前に…
「まあ今回の件は私が事前にしっかり先生方とお話ししてすでに可決済みだったからいいけど、次からはしっかりしてくださいね。」
と如月が言い放った。
「えっ、ああそうなんだ。ありがとう如月。」
……やれやれ、また失敗だ。
昼休み、俺はいつものように一人で昼飯を食べていた。
ほかの生徒たちは、楽しそうにグループを作って弁当を広げている。
そんな光景を横目に見ながら、俺はコンビニで買ったサンドウィッチを机に出し、ひとり黙々と食べる。
「うわ、またあの人一人で食べてる。」
「一人なら席取んなよな。」
そんな声が後ろから聞こえてくる。
軽蔑の視線も、もう慣れた。俺は顔を上げず、無言でパンをかじる。
──仕方ないことだ。
ここ、私立葵城学園高等学校は、由緒正しき名門校。
今まで数々の著名な政治家、企業家、学者を輩出してきたこの学校は、他校とはレベルも規模も違う。
最高級の施設とサービスが整えられ、制服一つ取ってもオーダーメイド。
生徒たちは当たり前のように寄付金を積み、校内は華やかさで溢れている。
そんな世界に、俺は特待生として無償で入学を許された。
つまり、外部から学力だけで滑り込んだ身だ。
人より頭はいい。テストでは毎回トップ3に入っている。
……だが、それだけだ。
この学校に通う生徒たちの大半は、資本家や政治家、裕福な家の子息たち。
俺はその中で、ただの「貧乏人」でしかない。
でも、俺がここに入ったのには理由がある。
単刀直入に言おう。俺は貧乏だ。それも筋金入りの。
両親は貧しかったが、幸せだった。
米に大盛りのもやし炒めを乗せただけの質素な食卓だったが、両親はいつも笑っていた。
俺が腹を空かせないようにと、自分たちの分を少なくしてでも食べさせてくれた。
俺はそれで十分だった。あの頃は、それで。
「ああ嫌だ嫌だ。あんな暗い過去思い出したくねえよ。」
俺はそう言ってまた一人黙々とパンを食べだした。