明日はどこかで
大きな自動ドアが開く。
すると、すぐさまストレッチャー(担架)の車輪の音が機内に鳴り響く。
「救急班!手術室の準備は!?」深瀬隊長を乗せたストレッチャーを勢いよく運び込む秋が言う。
救急班が「はい!」と、返事と共にストレッチャーを受け取ると「準備は出来とるぞ。」
救急班の後ろからマスクを着け始めた小柄なおじさん横田 繁が、秋の目の前に現れる。そのタイミングと共に反対側のドアが開き、若い女性も颯爽と駆け寄り、驚いた表情を見せる。
「横田さん、深瀬の腕が、、、。」トーンを
落ち着かせた秋は言う。
「こりゃ大変だ。。大出血しとるぞ。傷口が深すぎる。」腕を見た医学、兵器技術の
エキスパートの横田が言う。
「急いで手術をしましょ。」横田の隣に医学、生物科学のエキスパートのおばさん
山谷 由紀が突如現れ、横田と一緒に
手術室へ向かおうとする。
「ちょっと待ってッ!」秋は言う。
「なに?」由紀は素朴な表情を浮かべながら
秋に言う。
「実は、、もうひとり、、、手術してほしい人が、、、。」秋が言うと同時に、後ろの大きな
自動ドアが開き、もう1台のストレッチャーが
運ばれる。
そのストレッチャーに乗せられていたのは、
津軽ダムの上から飛び降りた全身が濃いライト
ブルーの色をした人間に似た生物だった。
「これは!、、、まさか、、」驚いた表情で由紀は言う。
続けて若い女性もその姿を見てムッとした表情を見せる。
「新生物の、、、。ライトヒューマン!?」
つづけて横田は言う。
すると、コクりと秋が真剣な表情でうなずく。
◼️
2時間後、手術室の赤いランプが消える。
ライトヒューマン(Light Human)が目を覚ますと、
目の前にある薄暗いライトが
銀色の天井を照らす。
辺りを見渡すと誰もいなく、物もあまりなく、ただ横にある大きなモニターが、身体中に
貼られた電線から何かを検知して緑色の文字や記号で表情している。
反対側の横にある窓の外を眺めようとするも、電線が邪魔になって動けない。
トンットンッ。左側にあるドアの方から音がなる。
「だっ誰ですか?」ライトヒューマンは寝起きの
声をあげる。
「食べ物を持ってきたわ。入っても良いかしら?」ドアの向こうから女性らしき人の
声が聞こえる。
「はい、、、。」ライトヒューマンは少し不思議な顔で返事をする。
『ガチャッ』ドアノブの音が鳴ると食べ物と飲み物が乗ったトレーを手に取った
ハート型のショートの黒い髪型をした1人の女性が
入ってくる。
片手で部屋の電気のスイッチを入れると持っていたトレーをベッドの前のテーブルに置き、
ベッドの隣の椅子に座った。
「目が覚めたみたいね。あなたは丸2日間ここで
治療を続けていたのよ。
血液の流れも徐々に順調のようね。」ベッドの
モニターを見ながらショートの女性は言う。
「あの、ここは、、一体、、、」ライトヒューマンは言う。
「ここは機密機地のA·Bation。私達、脱社会一派、通称NOGAの
航空機。簡単に言えば空飛ぶ秘密基地みたいなものよ。」ショートの女性は言う。
ライトヒューマンは明かりがついたグレーの内装の部屋を大きく見渡す。
「新生物ライトヒューマンは私たち人間とは違い、動物細胞内に細胞壁や液胞が発達して
葉緑体を持っている。よって二酸化炭素と水を口
から取り込み、これらを日光の光エネルギーで
合成して、デンプンと酸素を合成する。
その光合成で余った酸素を呼吸で外に放出してるから、ここの部屋はとても居心地が良いわね。
小学生の頃に習ったとおり、「ライトヒューマンを大切にしましょう。」というのは
本当よね。」持ってきたトレーのコップに水を
注ぎ、スプーンでお椀の中をかき混ぜながら
ショートの女性は言う。
「だから、食べ物は糖分が主な栄養源になる。
天然の角砂糖を食べやすくお湯で少し割ってみたわ。どうかしら?」ショートの女性は
砕けた角砂糖にお湯が入ったお椀を手渡す。
ライトヒューマンは、そのお椀の中身をじっと
覗いて、スプーンを手に取り、
ゆっくりと食べ始める。
「今、世界でライトヒューマンはあなたただ1人。
ライトヒューマンは人工子宮でたくさんの昆虫、
動物などに自身の血液を融合させた種である
新人類アンダーンヒューマン(Undone Human)を
産んだ後、30年前に絶滅したと考えられていた。
しかし、今、あなたはここにいる。」ショートの
女性は言う。
続けて、
「あなたの存在は、人類に危険を脅かさないとされてはいるが、あなたが無防備で外にいる状態は、
あまりにも人類に惑わされて危ない状況と判断し、私たちはここであなたを保護することにしたの。
そして、ライトヒューマンが絶滅したとされ貴重な存在になった今、あなたは闇の組織DIGUMA
(ディグマ)に狙われる可能性が高い。」真剣な
眼差しでショートの女性は言う。
「闇のそしきディグマ?」一瞬手を止めて
ライトヒューマンは言う。
「そう、闇の組織DIGUMAは世界各国に密かに存在し、地球のみを守ろうとする組織。
地球を脅かす人間、動物は処罰し、30年前に突如
現れた新生物ライトヒューマンによって
産まれた新人類アンダーンヒューマンを利用して
世界の基盤、そして世界の主導者を今の
猿から進化した人間ではなく、新たな主導者に変えるため、それぞれの地方に生存する
アンダーンヒューマン達にRM1、戦闘服を与えて
地球の主導者争いで彼らを競わせ、
地球、そして人類を1からやり直そうとする影の組織よ。」ショートの女性は言う。
「彼らが影で行っていることはこれだけではない。本当に闇深い組織よ。」
ショートの女性は言う。
「ライトヒューマンの確証のない噂を大きく広げ、あなたが人間に狙われるように仕組んだのも。その
DIGUMAの仕業ともいわれている。DIGUMAは
ライトヒューマンを恐れていた。
通常の人間の何十倍もの能力があり、突如誕生したいきさつの詳細は、今だ不明だからよ。
しかし、彼らにとって幸いなことにライト
ヒューマンは産まれてから25年間しか
生きられない。」ショートの女性は言う。
「ゴクリッ。」ライトヒューマンは驚いた表情を
見せて、大きく息を飲み込む。
「それに、ライトヒューマンは自分達の愛の形
として、未熟な動物、昆虫などを人間体にして
自分たちの子孫を残そうと考え、人間から
人工子宮の装置を奪い、男女のライトヒューマンの血液とその子供の身体を形成する第3の
元となる生物で新人類アンダーンヒューマンを誕生させた。その全てをDIGUMAは
利用しているのよ。そして、子孫を残した
ライトヒューマンは静かに死んでいく。」
ショートの女性は言う。
「カキッン!」ライトヒューマンは、強くテーブル
スプーンを置いた。
「んじゃあ、どっちが正義でどっちが悪かわからないよ。」ライトヒューマンは強く声をあげて言う。
「見てよ、外の景色を!」隣の小さな窓を指さす。
「僕はこの景色の中で育ったんだ。僕はこの景色の中で産まれたんだ。」
僕たちはただ、幸せに生きていたかっただけ
なんだ。この世界をこのように創り上げてしまったのは君たち、人間の方ではないか!」
ライトヒューマンは声を大きく上げる。
「勇気や、意思を強く持ったものは個人で報われるが、この世界は報われてないじゃないか。」ライトヒューマンは言う。
「あなたは何もわかっていない。人間もただ人間で生きていきたいだけ。」
ショートの女性は言う。
「その答えはここにいても何も見つからない。それ、食べたら外に行ってみましょ。」
ショートの女性は席を立ち、ドアを開けた
とたんに。
「あっ。そうだ。自己紹介忘れてた。」ショートの女性は言う。
ライトヒューマンも、とたんに少首をかしげる。
「私の名前は丹紅 凛実。一応、
みんなは凛実って呼んでるわ。」
凛実はそう言うとドアの向こうへと消えていった。
◼️
「地上に参ります。」エレベーターの音声が
流れる。
「ガチャッ」エレベーターの扉が左右に開くと同時に凛実を先頭に、
ライトヒューマンも乗り込む。
エレベーターのメーターが徐々に下がりゆく中、
凛実は自分の右手を軽く見たあと、
じっとドアの前を向いて呟く。
「今の時間は、私たちNOGAがこの地方に住むごく少数の原住民のために、炊き出しを行っている時間よ。」と呟くと、左側にいたライトヒューマンの
顔を見て続けて
「当然、あなたにも食べてもらうわ。」
凛実は言う。
「えっ、さっき食べたばっかなんだけど、、、」
ライトヒューマンは戸惑った顔で言う。
「なに言ってんのよ。あなたは人間より何倍も強いんだから。砂糖以外も食べられるはずよ!」と、
ライトヒューマンの右腕を叩き、少し吐き捨てるように凛実は言う。
ライトヒューマンは、凛実の感情がうっすら見えた気がして、驚いた表情をする。
「地上です。」エレベーターの音声が流れる。
ガチャッ」エレベーターの扉が左右に開くと「ザァーザー」と外は雨が降っている。
外は薄暗く、周りには、屋根が剥がれ落ちた空家がある中、たくさんのNOGAの文字が描かれたテントの先に古びた茶色い神社が立っている。
すると、頭に手を添えて勢いよく凛実は古びた神社の前にあるNOGAのテントへと
走り込む。同時にライトヒューマンもその後ろを
走り込み、テントの一番後ろに並ぶ。
テントの中では巨大な炊き出しの釜が複数あり、
おいしそうな匂いがただよっている。
テントの前で並ぶ原住民の前に1人、大きな声で呼び掛けている女性がライトヒューマンの目に写る。
「そこ、ちゃんと1列で並んでー!配膳は間に
合いますからぁー」
水色と白の縞模様のエプロンを着たボブパーマの
女性が配膳に並んでいる人々の前に1人、
大きな声で列に呼び掛けをしている。
すると、子供と一緒に配膳に並んでいた母親らしき人が子どもの分のお菓子を
子どもから奪おうとしている。
「ちょっと!そこっ!何やってんのよ!」
ボブパーマの女性が指を指して強く言う。
「それ、子供の分のお菓子でしょ!いい大人が何やってんのよ!」ボブパーマの女性は
母親らしき人に強く言うと、後ろから新しいお菓子を取り出して子供に寄り添うように
背の高さまでしゃがみこむ。
「いい?欲しいものがあるのならすぐさま掴み取りに行くのよ!これはあたしの分」
ボブパーマの女性は、子供にお菓子を手放す。
「あんたも、たったお菓子ごときでと思っているのかもしれないけど
子供にとっては毎日が長くてひとつひとつの出来事が大きいんだからね。
今度は子供じみたことはしないよーに!」
ボブパーマの女性は母親らしき人に強く言う。
それを聞いた母親らしき人は、驚いた表情を見せると顔を下に向けて颯爽と子供と一緒に
その場から離れていく。
「ったく、いい大人が何してるのよ。あっ!席は
こっちにもありますよー!」
その様子を後ろからみていたライトヒューマンは
凛実と一緒に配膳の豚汁セットのお椀を
手に取ると凛実はボブパーマの女性の元へと
駆け寄る。その後ろをライトヒューマンも
ついていく。
「あ!凛実ちゃん。」ボブパーマの女性は手を振ると、隣にいたライトヒューマンをみて
言う。
「やっと起きたんだ!あなたが新人君の
ライトヒューマンね!」ボブパーマの女性は言う。
「新人?」ライトヒューマンは言う。
「そうよ!あなたはこれからNOGAの一員になるの。ほーら襟をちゃんとかけて。」
ボブパーマの女性はライトヒューマンが着ていた
NOGAのロゴマークが入った部屋着の
襟を両手で直す。
ライトヒューマンは戸惑った顔でボブパーマの女性の方を見る。
「新人?」ライトヒューマンは言う。
「凛実ちゃんから話聞いてないの?あなたは今、
狙われてるのよ!
ふつーに1人で歩いてたら今度こそディグマに捕まっちゃうよ。だから私たちとこれから一緒に暮らしていくのよ!野宿するよりマシでしょ!」ボブパーマの女性は言う。
ライトヒューマンは納得した表情を見せるが、終始戸惑った顔になる。
「それにしてもどう!この特性豚汁!隠し味にすったりんごをいれてみたの!
ここの地域は皆、りんごを食べてるみたいだからね!」
「うん。おいしいよ!」スプーンで豚汁を頬張りながら凛実は言う。
「だよねー!っていうかあんたさっきからほとんど何も言わずに食べてるけど!
一言ぐらいなんか言いなさいよ!」ボブパーマの
女性は言う。
「いや、、、あの、僕は、その」ライトヒューマンは言う。
「グチグチ言わないの!ちゃんと最後まで食べるのよ!おかわりもあるんだから!」
ボブパーマの女性は強く言う。
「はぁー。これだから最近の若い子は。あなた歳いくつ?。」ボブパーマの女性は強く言う。
「僕は今年で25歳。」ライトヒューマンは言う。
「そう。まぁこれからいろいろあると思うけど
お互いよろしく!
私の名前は梅宮 茉侑香。歳は28歳よ。」茉侑香は言う。
「歳そんなに離れてないじゃん」ライトヒューマンは言う。
「いいのいいの、小さいことは気にしない!
んじゃあ洗い物の準備があるからまたねー!」
茉侑香は言うとテントのある向こうに走っていった。
少し冷めたその豚汁の湯気は次第に消えていった。