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鳥籠の中で

「おかえり、想羽汰」

つい先程電話越しに聞いた声が鼓膜を震わせる。

どこか温かさを感じさせる声色なんだけれども、その顔は物凄くクールビューティーを保っていて異様なチグハグ感が否めない。


「ただいま(うぐいす)

彼女の名前は仮屋鶯(かりや うぐいす)

ネストの技術屋でソフトウェアだけでなくハードウェアにも詳しく彼女が作ったもののおかげで俺達はかなり楽ができている。

俺たちが使っている携帯にも鶯特製のアプリがいくつも入っている。

しかし足が悪く車椅子生活なので普段は本拠地でサポートに徹してもらっている。


「何か変わった状況は?」

「だめ、今日はもう終わり。明日も学校だし無理して体壊したらどうするの?」

「相変わらずしっかりしてることで」

「想羽汰が自分の管理出来ないから、私がしっかりしないといけなくなってるの!リーダーなんだからそこもしっかりして!」

「いや俺はリーダーじゃないし」

「それは表向きの話でしょ?全くああ言えばこう言う…」


そう自警団にはルールがあり、その一つがリーダーは18歳以上でなければならないというものだ。

俺の年齢は17なのでまだリーダーにはなれない。

なので別でリーダーがいるんだけども、生憎その人は自由人過ぎてリーダーに向かなかった。

その結果リーダーの役割を俺に押し付けて、今日も好き勝手にふらついている。

そのせいで、もはやネスト内だけでなく他の自警団や街の人達にも俺がリーダーとして認識されてしまっている。

どうしてこうなった。


「とにかく!今日はおしまい、お疲れ様」

「わかったよ…お疲れさん、今日もありがと」

「あっ、待って想羽汰!」

そう言って部屋を出ようとしたところで鶯に呼び止められた。


(しのぶ)君、まだ帰ってきてないみたいだから笛忘れないでね」

「うわまじか、危なかったー…というかいい加減携帯持ってくれよ…」

ネストの現在のメンバーは6人。

つまり最後の一人がこの忍という男だ。

鴇田忍(ときた しのぶ)

ネストの最年少組より少し上の中3で15歳。

ちなみに携帯は電波などで隠密中に見つかる可能性があるとかで任務中は持たないらしい。

そして俺はある事情で忍が一番苦手だ。


ひとまず居間に向かい炬燵で会話していた学人と童伽の二人を横目にベランダの窓を開けた。

北風が部屋に入り込み、二人が同時に「寒い!」と感想と同時に不満も込めた叫びを上げた。

もちろん俺も寒いのに変わりないので即座に持っていた笛を吹く。


しかし思いっきり笛を鳴らしても何一つとして音は聞こえない。

だけれど一応鳴ってはいるらしい。どうも特殊な訓練で可聴域を広げないと聞こえないのだとか。


そんな一瞬の間に夜の暗い街中の宙を何か小さなものが動いているのが見えた。

その小さな物体は次第にこちらに近づいてきて部屋を目掛けて飛び込んできた。

「殿!忍、ただいま馳せ参じました!」

そう言って部屋に入るなり片膝着いて傅く如何にもな忍者口調の子供、彼が鴇田忍だ。

口元を覆っているものの端正な顔立ちがわかり、知らない人が見れば体格も相まって女子に間違えるがれっきとした男子だ。

口調だけでなく格好も忍装束なので洋風の部屋とのミスマッチ感が凄い。


「とりあえず窓閉めて、窓!」

「はっ!失礼致しました!」

即座に自分が入ってきた窓を忍は閉めた。

「して用件は?」

「いや、今日の活動は終了って話」

「かしこまりました、殿!」

「だからその殿っていうのはやめてくれって…」

「忍びは殿に仕えるもの。ならば拙者が仕える想羽汰様も殿であり、そう呼ぶのは当然かと」

「いやまず前提の上下関係を無くしたいって話なんだよ!」

「それは無理です!」


はい、これが苦手な理由です。

慕ってくれるのは嬉しいんだけど、強情で自分の意見を曲げないんだよなぁ…特に忍びが関わると。


「想羽汰さん、忍さんを説き伏せるのは無理ですよ。もう何度もこのやり取りやってますし。」

「そんな事よりしのさんも炬燵入りなよー寒かったでしょ?」

「いや、童伽様の許しがあるとはいえ、殿がまだ立っているのに先に入る訳には…」

もうすっかり周りも慣れてしまっているせいか最早次の展開に移っている。


「はぁ…わかったもういいから、もう今日は休もう。炬燵入りな。」

「はい、ありがとうございます!」

「忍君、おかえり」

「あっ鶯さん、ただいま戻りました!」

恐らく今での騒ぎを聞いて忍が戻ってきたことを知った鶯が居間にやってきた。

「体冷えてるだろうからお茶淹れようと思うんだけど、皆も飲む?」

「「「「飲みまーす」」」」


そうして長いようで短い一日を終えた俺達はまるでさっきまでの事件が無かったかのように平穏に過ごした。

昔では考えらんない事だろうけど今の時代はこんな一日が日常茶飯事でみんな慣れてしまった。

世知辛いね。

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