はじまり
聖花暦1985年の夏、大陸の南西に位置する大国ムトスの王都アースの上空を禍々しい黒雲が覆った。
人々は、空の神ザイオンの強い怒りを感じ、何か悪いことが起こるに違いないと囁き合った。
予感は、当たった。
一つ目の災厄は、稲妻だった。
ザイオンの怒りか、単なる自然現象だったのか。
空から放たれた光の刃は、強力な落雷となって、轟音と共に王宮の一角に直撃した。
落雷によって木端微塵になったのは、白磁宮と呼ばれる美しい建物だった。
白磁宮は、神様を祀る処、つまり神殿である。
ようするにザイオンは、自分で自分の神殿を叩き壊したのである。
二つ目の災厄は、皇太子の訃報であった。
ムトスの北方領土で起きた一揆の鎮圧に赴いていた皇太子が、何者かの手によって、殺害されたという報せが届いたのは、白磁宮に雷が落ちた三日後だった。
なぜ、神々の末裔である王家に次々と災厄が降りかかるのだろうか。
ムトス国内では、様々な憶測が飛び交い、大きな不安が渦巻いた。
混乱の中で生まれた疑念は、やがてムトスを根底から揺るがす争いを引き起こすことになる。
ムトス
大陸の南西に位置する大国・王都アース・王制・多神教国家
白磁宮
ムトスの神々を祀る神殿
ザイオン
空の神・空の支配者