第三王子は慄いた
暇潰しになれば幸いです。
※いっぱいの誤字報告ありがとうございます。
多すぎてびっくりしました。
きらびやかな装飾に色とりどりのドレス。輝くシャンデリアには最近発明された遠隔操作できる光の魔導具を使用。
軽食を用意したテーブルはなかなか充実してる。オードブルには甘エビとアボカドのゼリー寄せ、ポテトと生ハムやサーモンとオリーブのカナッペ。味付けは素材を生かしつつきちんと下拵えをし、ハーブや調味料を絶妙に使い分け調理法も駆使した逸品たち。
ちょっと小腹の足しにはきゅうりやたまごのサンドイッチなど、もちろんマヨネーズを使ってる。
けして転生チートをかましたかったわけじゃない。
異世界お約束の塩や香辛料の固まりみたいな料理が食べれなかったんだよ!飢え死にするよりいいじゃないか。
そしてそろそろ和食が食べたい。異世界あるあるで東の島国なんかを調べるべきかな。
そうやって転生者はみんな墓穴を掘るのか。いや、僕は大丈夫だ。なんてったって地味だから(キリッ)
あ、どうも皆様ご機嫌麗しく、私は第三王子トム・クリスフォード・アデュールと申します。
いや、王子なのにトムってなに?
娘が欲しかったのにまた息子だったがっかり感が半端ない。
全世界のトムさんに謝れ。
そりゃ僕は地味だ。
この世界は薄い色素、金髪やら銀髪、金目やら淡紫の瞳。
前世で言えばアルビノと呼ばれる白髪なんかが尊ばれる中【濃茶髪に濃青目】
父上の髪色と母上の瞳の色なんだけど、まぁ言えば両者の地味な色味を受け継いだ
地味王子、空気王子と呼ばれてる。
将来は王家直領の目立たない領地をもらって地味に過ごそうと思ってた。
そう特色のない存在。
しいて言えば、前世の記憶があるくらい。
まぁ、誰にも言ってないけど。
今日は王家主催の夜会なんだけど、伯爵家以上の尊い色素が多いにもかかわらず埋没してる不思議。
偵察と言う名のサボり(陛下公認)で王族のくせに会場に早乗りしてても誰にも見咎められない。
泣いていいかな?
いや、ベンネ公爵令嬢のエリザベス嬢だけは気付いて、黙礼してくれた。
彼女はいつも気が付いてくれた。
初めてのお茶会で、兄二人の側に席がなかった時も
目の前にいるのに侍女に探されてた時も
首席入学したはずなのに、最下位のクラスに席が置かれた時も。
いつも声をあげてくれた。
さすが淑女の鑑として名高い気遣い。惚れてまうやろ。
さて、なんでこんな自己紹介ともつかないことをつらつらと並べてたかといえば、
現実逃避に他ならない。
先程も言った通り今日は王家主催の夜会。しかも、他国の貴賓もいらしてる。
その方々に粗相の無いようにするのが僕の使命だったんだけど。
実の兄(第二王子)がやらかしてくれやがりました。
招待された伯爵家以上の貴族がほとんど来場し、王家が登場するまでの歓談の場で
堂々とダンスホール中央に陣取り宣いやがったあのヤロウ。
「エリザベス・シルフィ・ベンネ公爵令嬢、我第二王子の名において
貴様との婚約を破棄する!」
第一王子(王太子)は、ザ王子って感じの気品漂う柔和さに
ほんのり腹黒さを持つ尊敬できる上兄上で
今回やらかした第二王子下兄上は良く言えば正義感が強い熱血漢。
ただの猪突猛進脳筋ヤロウなんだが。
両親もそこがわかっていたから、思慮深いエリザベス嬢を婚約者に据えてたわけで。
それが今無に帰したのだ。
金髪碧眼の黙っていたら王子に見える端正な顔はドヤ顔で歪んでいて、
その右腕には、ピンクブロンドのふわっとした肩口までの髪に
空色を思わせる大きな瞳を潤わせてる一見庇護欲をそそる少女をぶら下げている。
一方エリザベス嬢はシルバーブロンドに薄紫の瞳、背筋を伸ばし凛とした表情で口元を扇で隠している。
いやなんだか、ラノベっポイよね?
しかも普段の両者の行いから鑑みて、悪役令嬢のエリザベス嬢がざまぁする感じの。
なにそれ面倒臭い。
第二王子がなくなったら王太子にこき使われるの僕じゃないですかね。
しかも公爵家と王家との間にヒビが入っちゃうし。
第二王子が個人の資産で慰謝料払える気がしないから、王家の資産も目減りする。
ここは最小限の被害にするべきではなかろうか。
と言うよりこれ以上大事にされたらこっちにまで飛び火するよね。
しょうがない、頑張れ僕!自分の被害は自分で防げ!
そうやって自分を奮い立たせてる間にも事態は進んでいた。
「…我の寵愛するこのセシリアに嫉妬し陰湿な虐めをしたあげく階段から突き落としたと聞いた。
その様な者が王子妃になれるはずがあるまい!潔く罪に服せ」
「第二王子殿下に申し上げます。婚約破棄、承知いたしました。
ですが虐めやまして突き落とすなど身に覚えございません」
「貴様、セシリアが偽りを申したと言うのか!」
「ひどいですエリザベス様!私すごく辛かったのに!」
「ああ、可哀想にセシリア!この様な悪女に虐げられて。
これからは、我がそなたを守る!」
「ジークフリート様!」
…なんの茶番かな?
ここで第二王子の名前初出しどうせなら最後までいらなかったのに。
名前が立派なんて悔しくなんかないんだからな!
しかしバカたちとエリザベス嬢との温度差がひどい。
なんなら会場にいる人たちとも。
ほとんどの人が「なにこんな所で騒いでいるんだバカ共」って白けた視線を向けてる。
ちらっと舞台袖を見ると宰相閣下が顎をしゃくってる。
早く収めろってことですか?
閣下が収めてくれていいんですがね。
僕が収めた方が角がたたない?
そうですか。どうですかね。
第二王子の尻拭いで大分頭にきてるんでガッツリやっちゃうかもですが。
被害最小限に?
うんまぁ善処しますよ。
宰相閣下とのアイコンタクトを終えて人混みを掻き分け三人がいる中央へ。
王族が通るなら皆避けないかって?
しょうがないだろ、気付かれてないんだからちくしょう。
エリザベス嬢の横に並んだら直ぐ様カーテシーしてくれた。
ありがとう嬉しいな。
っていうかバカ二人は怪訝な顔。
「ジーク兄上お久し振りです」
「あ、ああ」
おいこら、今誰何?しようとしてただろう。
しかも
「誰なの?」
「弟の第三王子トムだ」
「うそ、地味!っていうかトムってダサっ」
ってこそこそしてるが、聞こえてるからな。
お前本当世界中のトムさんに謝れ!
こほん、気を取り直して。
「兄上ここは我が王家主催の夜会の場、その様な個人的な事は後程別室にて
陛下や公爵を交えて行いましょう」
家臣や貴賓の前で恥さらすな(意訳)
「ならん!エリザベスは姑息なのだ、皆の前で知らしめねばならん!」
そしてまたドヤ顔。ピンクブロンドはカッコいいとうっとりしてる。
つうか、さっきから思ってたんだけどなんでそんなになんちゃって
こむずかしそうな偉そうな喋り方してるんだ?
いかん、意識したら笑えてきた。
耐えるんだ僕!
「ですが第三者から言わせてもらいますが、兄上は王家主催の夜会にもかかわらず、婚約者をエスコートもせず、婚約者でもない令嬢をぶら下げて非常識にも家同士が取り決めた婚約を破棄すると宣った。
今並べただけでもどこに正当性がありますか?」
「では、そなたは虐められても泣き寝入りしろと言うのか!」
「ひどいですトム様!私すごく辛かったのに!」
本当何言ってんだ、問題すり替えやがって。
僕はわざと不機嫌そうに額に手をやりため息をついた。
「僕はその令嬢に喋る許可を与えていなければ、名前を呼ぶ許可も与えていない」
そしたらピンクブロンドはわざとらしくもビクっと肩をふるわせ、
第二王子の腕に胸を押し付け抱きついた。
「なにを言うかトム、我が許している!」
庇う様に抱き込んで僕を睨み付けた。ピンクブロンドはまたうっとりしてる。
「秩序の問題ですよ。大体その令嬢は伯爵家以下の者ですよね?
そもそもこの夜会は伯爵以上の者しか出席できないのですが」
「我が許している!」
えー、バカなんですか?バカなんですね。
どうしよう、全く話が通じない。
チラっとエリザベス嬢を見やると僕を心配そうに見上げてた。
上目遣いかわいい。
じゃなくて、なんか本当面倒臭い。
「だったらもうすぐ陛下がいらっしゃいますから、俎上に上げては?もちろんベンネ嬢がやったという証拠も揃えて。ああ、その令嬢本人の証言だけでは話を聞いてももらえませんが」
「なっ、なぜだ!」
すっげぇ驚愕って目を見開いてるよ。ピンクブロンドは陛下を出したとたん顔色変わってるし。
証拠の捏造すらしてないのかな?それだけ簡単に第二王子が引っ掛かったてことか。
よしそんじゃあちょっと追い討ちかけて夜会の最中大人しくしといてもらおう。
「我が国は王政とはいえ法はあるんです。被害者だという本人の証言だけで罪に問われるのならそこら中犯罪者だらけになってしまいます。
きちんと状況証拠やら第三者の証言もなければ裁かれません」
「そんな…、セシリア…証拠は?」
「ジークフリート様、私を信じてくれないのですか?」
狼狽える第二王子、目をうるうるさせてしがみつくピンクブロンド。
うーん、これ以上醜態さらすのもよくないな。
僕はそっと近づき耳打ちした。
190cmに届きそうな第二王子に耳打ちするには、170cmない僕では背伸びしなきゃいけないけどな。コンチクショウ。
「ジーク兄上別室で少し休まれた方が。
勝手に婚約破棄した事、夜会を乱した事陛下のお耳に届いているかと…」
おっ、顔色なくして固まったな、よし今のうち。
「それとお前、王族に対する不敬罪、公爵令嬢に対する冤罪名誉毀損あげたらきりがない。覚悟しとくんだな」
ピンクブロンドが今にも泣き崩れそうになったので、第二王子の腕を添えてやる。
それから近くに控えていた侍従に二人を別室に連れていってもらって一丁上がり。
すっげぇ仕事した疲労感が半端ない。まだ夜会始まってないんだけど。
しかしなんであんなにバカになったんだか。猪突猛進脳筋ヤロウだったけどあそこまでじゃなかったはずだ。
確かにエリザベス嬢とのお茶会を剣の練習が楽しすぎて忘れたりしてたけど。
やっぱり学園に入ってあのピンクブロンドに会ったからかな。
エリザベス嬢と僕は同い年で第二王子とピンクブロンドは二つ上。僕たちが入学した時にはもうすっかり出来上がってた。一年半ほど前からエリザベス嬢とのお茶会に来なくなったし、贈り物や手紙もなし。聞いたところによると割当てられた婚約者予算でピンクブロンドに貢いでたらしい。今日着てたショッキングピンクのヒラヒラプリンセスラインのドレスもそうだと。
おまけにここ半年ほど顔を見てなかったんだ。二人で高級宿を渡り歩いてたらしい。学園には来てたからあんまり気にしてなかったけど。今思えばエリザベス嬢に冤罪かける為に来てたのかな。でも学園にいる時ずっと二人で一緒にいたんだからどのみち無理じゃね?詰めどころか最初から最後まで甘すぎだ。
本当なにやってんだよ、破滅まっしぐらじゃねぇか!
兄弟が破滅するなんて嫌すぎるだろう。国王陛下や王妃殿下はなんとか丸め込ん…ゲフンゲフン説得できるだろうけど、王太子殿下はどうかな。ただでは無理かな。
その内やろうと思ってた活版印刷提案してみようかな。あ、そうなると紙が必要だったな。この世界は一般的に木の皮や木板に文字を書く。重要なものは羊皮紙に。最初見た時は感動したけど、使いにくすぎ。羽ペン使用で間違えたら削るって想像以上に大変だ。小さい時から乳母や侍従に手伝ってもらってなんとかざらばん紙みたいなものは出来てるからそれと一緒に提案しよう。そんで機嫌が良くなったら第二王子のことをマシに暮らせる様に頼んでみようかな。まぁ、権力は持たせない方がいいだろうけど。
そんなことをつらつら考えてたら、鈴をころがす様なかわいい声が聞こえてきた。
「あの…、トム殿下?」
やべっ
「ベンネ公爵令嬢、兄が大変申し訳ない事をしました。詫びて済む事ではありませんが…」
「トム殿下頭をお上げ下さいっ。王族が簡単に頭を下げてはなりませんわ」
「はい、ですから弟として」
エリザベス嬢はぐっと押しとどまり受け入れてくれたので、僕はそっと右手を差し出した。
「この様な事があってご気分を害されたことでしょう。よろしければお屋敷までお送り致します」
エリザベス嬢は指先を重ねながらわずかに近づいて少し声をおとすと
「実はこの様な事になりそうだとは思っておりましたので覚悟はしておりましたし、思ったより平静ですの。それよりもわたくし王族方が主催する時にしか味わえない甘味を楽しみにしておりまして…」
後半は周りに聞こえる程の音量に戻して、少し顔を赤め上目遣いにいたずらっ子の顔した。
かわいいがすぎる!
そして同時に気遣いも。
「では、甘味が並ぶテーブルまでエスコートさせて下さい」
「まぁ、喜んで」
そして二人でゆっくり和やかに歩きだした。周りによく見える様に。
そう、先程の事はなんでもなかったかの様に。
この様子に海千山千の高位貴族の方々は空気を読んでそれぞれの会話に戻っていった。
「ありがとうございます」
呟く様に言うと「なんのこと?」と小首をかしげられ心の中で悶絶した。
ことさらゆっくり歩いたのにあっという間にテーブルに着いてしまって、離れる手に寂しく感じた。ひどい目に遭わせた奴の弟なんかに可能性なんてないのに、というかこんな地味王子なんて淑女の鑑といわれる彼女に相手にされるわけがない。やさぐれそうだ。
「まぁ!」
本当に嬉しそうに瞳を輝かせてる。
そう「王族主催の時にしか味わえない」もの。
この世界がメシマズなのと同じ様に甘味も砂糖の塊の様な焼菓子しかなかった。こんなもの食えるかと憧れの(?)ちゃぶ台がえしをしそうになった。それからなんとかクッキーやプリンやらアイスクリームやらを作った。あ、定番のポテチもね。ラノベを読んで気になったレシピをググッといてよかった。余談だけどコーラやカレーは作れてない。調べた事はあったけどうろ覚えだしなんちゃっては頑張ればできるかもだけど偶然の産物では無理だ。同じ理由で醤油や味噌も。これはやっぱり東の島国に…。なんてことは今は置いといてエリザベス嬢の話に耳を傾ける。
「わたくし知っていましたもの、トム殿下がご兄弟を大切にされてたのを。ジークフリート殿下の事もなんとかなさろうとされていたのにお力になれませんでした」
甘味のことかと思ったら僕の事でした。なんか鼻の奥がツンとして言葉につまる。
ジーク兄上が茶会を忘れる度に僕がご一緒してフォローして、学園で下位貴族に無茶を言えば収める為に一緒に奔走してくれてた。自分の為にじゃなく僕の為に頑張ってくれてたのかな。そんな訳ないと思いつつ自惚れてしまいそうだ。
「あの…、こちらのお菓子はトム殿下がお考えになったと聞きました。トム殿下の様にとても優しいお味ですわね」
下手くそか。
脈絡もなく一生懸命慰めようとしてくれてるのかな。そう思うとなんだか可笑しくなってきた。
「ふふっ」
「ひどいですわ、笑うなんて」
そう言いながら彼女も微笑んでる。
うん、ありがとう。元気でた。
◇ ◇ ◇ ◇
それにしても王族の登場が遅いな。宰相閣下が覗いてたから終わったのはわかってるだろうし。
「そういえばベンネ公爵夫妻を見かけませんね?」
「ええ、会場までは一緒に来たのですが陛下に呼ばれたのです」
「陛下に…」
いれば第二王子が叫んだ時点で王族相手でも報復してたはず。
ベンネ公爵はエリザベス嬢の親にしては割りと苛烈な人で、武人の様なゴツい体なのに厚生大臣をしている。早朝鍛練が趣味だそうだ。腹が六つに割れてて密かに憧れてる。
僕が公爵と知り合ったのは5歳ぐらいの時だった。
この国にも四季があって寒くなり始めた頃に王都で病が拡がった。聞くと昔から寒い時期によく猛威をふるい上級回復薬でも効かない時があるほどで皆うつらない様に病人は隔離するしか対策がないという。症状はありえないくらいの高熱と関節痛、倦怠感などだそうで、10日程で治る人もいればそのまま亡くなる人もいるという。その年は例年になく拡がっていて何千という人が亡くなると予想されていた。
素人判断は良くないけど、インフルエンザっぽいよね?薬はないけど対策はある。手洗いうがい、マスク着用、高濃度アルコールはないからなるべく酒精の高い酒で消毒。かかった人には塩と砂糖を混ぜたスポドリ風で水分補給。栄養価の高いものをスープにしてでも取り入れてもらって、脇の下なんかを冷やす。この時ばかりは焦ってまくし立ててしまった。たかが5歳児の戯れ言に耳を傾けてくれたのは家族とそして当時厚生副大臣だったベンネ公爵だけだった。なにもせず手を拱くよりもと王家の個人資産とベンネ公爵の資産で実施した。承認をとったりする時間も惜しかったから。そのかいがあってか重症化して亡くなってしまった人もいたけど数十人にとどまった。食事前やトイレの後に手洗いの習慣がなく、消毒の概念もなかったからか結果は劇的だった。決定的な薬もないのによく収まったと思う。
そんな十年余り前の事を思い出していると漸く王族が登場するらしい。
ファンファーレが鳴り宰相閣下が登場のアナウンスをする。この時いつもこっぱずかしいなぁと思い会場に早出して逃げてしまうんだけど、諦めてるのか誰も何も言わない。気付かれてないかもとか思ってても言わないで(泣)
さてまずは、王妃殿下をエスコートした国王陛下が。
父上陛下は髪色が僕と同じ濃茶なのに精悍な顔立ちに厚みのある体つきでさすが威厳がある。でもその実態は家族大好きパパで母上の尻に敷かれ子供に甘い。ジーク兄上のやらかしもある意味これの弊害だ。
母上王妃は、透ける様な金髪に僕と同じ濃青の目は大きくてあどけなさを残している。普段はおっとりしてるけど怒らせたらダメな人。ジーク兄上が王宮に帰ってこなかったのも無意識に母上が怖かったんだと思う。
続けて登場は王太子である第一王子アルフリート。兄二人の名前からせめてトムフリートとかにしてくれればと何度思ったことか(血涙)
風貌はジーク兄上と色合いは同じ金髪碧眼なのにちょっとゴリマッチョ風味なジーク兄上と違い一見優男風。でも騙されてはいけない。僕的に母上より怒らせたらダメだと思ってる。
そしてエスコートされてきたのは婚約者の隣国の王女様。完全な政略だそうだ。約一年後に結婚予定。
あと実はもう一人三歳になる待望の王女がいる。(パパママ頑張った!)名前はアンナネッタ。さすがに夜会には出ないけど。めっちゃかわいいんだ!ポテポテ歩きながら「トムにぃたま~」ってよってくるの!絶対嫁にはやらん!
そんで思わずこの世界にないロンパースやらベビーキャリアやらあげくベビーカーまで作っちゃったもんね。もちろん離乳食やミルクボーロなんかの安心安全なお菓子もね(ドヤァ)今の趣味は知育玩具作りですが何か?
いかんいかん。また思考にふけってしまった。
陛下の開会の言葉が始まってるよ。めっちゃ短いのに。
「…遠路ようこそ。今宵も珍しいものを取り揃えたので大いに飲み食いし楽しんで欲しい。
楽しむと言えば先程我が愚息たちが余興をしておったが、いかがだったかな。まだまだ未熟者なので大目に見て欲しい。では乾杯!」
家(国)に帰ってからベラベラしゃべるなよ。(意訳)
わー!言っちゃったよ。しかもこれ打ち合わせになかったみたい。
一段下にいる宰相閣下がにこやかな笑みを称えながら胃を押さえてる。
エリザベス嬢も口をぽっかりあけて慌てて扇で隠してるし。
「ハッハッハー、さすが陛下にしかできないお言葉だ」
腹の底に響くかすれ声。背後に巨人が現れた。
じゃなくて
「ベンネ公爵…、夫人もご無沙汰しております」
公爵は胸に手をあて、夫人は膝を軽く曲げ挨拶してくれた。親しい間柄だしいまはこれでいい。
しかしいつ見ても美女と野獣の様だ。2mありそうな岩の様な巨体と妖精姫と言われる小柄姿。でもしっくりくるんだよな。
「第三王子殿下にご挨拶申し上げます。して、先程我が娘を助けて下さりありがとうございました」
「いやあれは兄上の事だから、こちらが詫びる事ですよ」
「それこそお気になさらず、あの茶番のおかげで例の話が進みました」
「例の話?」
なんの事だか解らず小首をかしげてエリザベス嬢を窺うと彼女はわかっている様で、珍しく目元を赤らめている。
「いやぁ、こちらも願ってもないお話でいちもにもなく了承致しました」
「えっと…、なんのことでしょう?」
知ったかもできないのでたずねると、それをエリザベス嬢に遮られた。
本当に珍しい。
「あの!わたくし少し外しますわっ!」
そう言ってあり得ない速さで会場を出て行く。
ちょっと待って!独りで行かないで。
「公爵、夫人私も失礼します」
慌てて後を追う耳に「若いっていいわねぇ」と言う夫人の言葉が聞こえたけど本当なんのこと?
◇ ◇ ◇ ◇
会場を出て後を追う先はきっとレストルーム。何事もなければいいんだからな、僕が怪しいわけじゃない。
あの角の先でエリザベス嬢の声が聞こえる。
なんか妙だな。ここまで衛兵も侍従たちも見かけない。不思議に思いながらも追い付いた先を見て思わず柱の影にかくれる。
「ちょっと!悪役令嬢のあんたが何もしないせいで捕まったじゃない!」
「え?え?」
エリザベス嬢は何もわかってない様子。というかなんでいるんだよ、ピンクブロンド!
貴族牢までじゃなくてもどっかに隔離されてるはずだろ?抜け出したのか?
王宮警備ってそんなにザルだったっけ?
「今日この夜会でジークフリート様と結ばれて、あたしが王妃になるはずなのに!こんなのおかしい!」
「あの、ジークフリート第二王子殿下とたとえ結ばれたとしても、第一王子のアルフリート王太子殿下がいらっしゃるので王妃になるのは無理ですわよ」
エリザベス嬢も呆れながら訂正するととんでもない事を言いやがった。
「それは大丈夫なのよ。だってアルフリートは今日毒殺されるんだもん!」
はいっ!アウトー!
僕は大きくもない声で命令する。
「確保」
するとやっぱりいたのか、何処からともなく現れた衛兵が素早くピンクブロンドを引き倒し猿轡を噛まして、他者がエリザベス嬢を庇う様に立ち塞がった。
僕は速やかにエリザベス嬢に公爵の下へ戻る様に言い含め衛兵に守られながら立ち去ってもらうと転がって「うーうー」唸ってるピンクブロンドに声をかけた。
「知ってる事を洗いざらい喋ってもらう」
それはもう低い低い声が出た。
◇ ◇ ◇ ◇
近場の部屋を確保して防音の魔導具を起動。扉の前は衛兵二人、室内にはピンクブロンドを押さえてる警備副隊長、僕の背後に僕の近衛二人に、念の為お願いした母上の女性近衛騎士一人を配備。警備隊長筆頭に他の人たちはアルフ兄上や陛下の周りをより厳重にでも気取られない様に堅めた。
膝をつく形で、未だに唸りながら僕を睨んでるピンクブロンドの前に簡易の椅子を持ってきて座ると副隊長に猿轡を外してもらう。すごく躊躇ってたけど、そんな場合じゃない。
「ふざけんじゃないわよ!ヒロインのあたしにこんな事していいと思ってんの?!」
ガンッ!
側にあったローテーブルを蹴り上げたらビビって後ずさる。
逃がさねぇよ。
やっぱりこいつも僕と同じく前世の記憶があるのか。
足を組みその上に片ひじをついてさらに低い声で忠告する。
「お前はすでに僕に対して不敬罪、ベンネ公爵令嬢には冤罪に名誉毀損、さらには王族主催の夜会を荒らしてるんだ。その上王太子を毒殺とのたまった。国家反逆に等しい大罪だ。お前だけじゃなくお前の実家の男爵家も一族郎党極刑は免れない」
「家族は関係ないでしょ!」
っお、家族を庇うんだな。思ったよりは、マシなのか?
よしそこをついてみるか。
「この世界は貴族社会なんだ。家族いや一族皆関係してくる。知ってる事をすべて喋るなら減刑してもらえる様に掛け合ってやる」
そう言うとピンクブロンドは目を見張ってから一度うつ向き、なにか決心した様に口を開いた。
「あたしが知ってるジークフリート様ルートは今日エリザベスを断罪してヒロインが婚約者になるの。それで祝福ムードの中アルフリートが倒れるの。そして翌日死んだから繰り上げでジークフリート様が王太子になって…」
「ちょっと待て!肝心の毒殺はいつ誰がするんだ?」
「ああ、それはアルフリートの婚約者の悪役王女が恋人の国の大使を使って赤ワインを贈るのよ。でも無味無臭の遅効性の毒だからすぐには倒れなくて犯人は判らず仕舞いなの」
部屋中の皆が皆息を呑む。
ちょっと重要ワード多すぎ!無味無臭の遅効性の毒に犯人が婚約者の隣国の王女と大使って!それも恋人とか!
アルフ兄上はもう毒を飲んだってことか?
振り返って、近衛に目で指示を出すと音もなく部屋を出て行った。
頼む!間に合ってくれ!
僕の内心に気付かず続きをペラペラ喋ってる。
「それでも地道に捜査してジークフリート様の弟が犯人を見つけたんだけど二人とももう隣国に帰った後で。復讐の為にジークフリート様が国を上げて戦争を起こして隣国を制圧するのよ。それで仇をうち領土を広げたことで英雄になったジークフリート様が国王になって、あたしと結婚してあたしは美しい王妃様になるの!」
最後は自己陶酔してうっとりしてる。
なんだそのご都合主義は。
そして今度は僕の事をじっと見てる。なんだと問おうとしたら指差して大笑いし始めた。
「犯人見つけたジークフリート様の弟ってあんたじゃない?!
なにこれ地味すぎ!ゲームでもシルエットしかでなかったモブだから気が付かなかった!実物も地味で影薄いって笑えるっ、お腹痛い!」
これもう怒っていいのかな?泣けばいいの?
僕以外の皆はわからない言葉がいろいろあったけど僕がバカにされてるのは判って殺気が出てるし何このカオス。
「とりあえず母上の近衛は彼女をもとの部屋へ。沙汰が降りるまで今度は厳重に見張ってて。残りの皆はワインの確保と警備隊長に合流して最大限の警戒よろしく!」
気を取り直して簡潔に指示を出す。
さぁ、大捕物だ、間に合ってくれ!
◇ ◇ ◇ ◇
結果から言えば事なきを得ましたよ。
あの後、アルフ兄上が王女と離れた隙に詳しい事を報告して、夜会が終わる頃には毒入りワインを確保して、王女と大使を捕獲した。二人とも惚けてたけどそのワインを飲まそうとしたらあっさり観念した。チョロすぎ。二人は真実の愛で結ばれてるのに無理矢理引き裂かれて思い余ったと。
いやいや、アルフ兄上の優秀さに目をつけた隣国が強引に婚約を迫ったはずだけど?こちらの都合がいい条件附けてきたから打算的に受けたって言ってたし。
翌日午前中には、議会でいろいろ決定して婚約破棄と「この落とし前どうするんだ?」という意訳の書状を早速隣国に送ったらしい。
で、その午後お茶をしながらアルフ兄上から事の顛末を聞いてる今ココ。
「結局兄上はワインを飲まなかったと……」
「まぁね。向こうから申し込んできた割に態度悪すぎて怪しかったから関係者全員に見張りをつけといたんだ。そしたら隣国大使館の使用人が毒を入手したのが判っていつ盛るのかなと手ぐすねひいて待ってたらジークまでなにかやらかし始めたから、ついでに解決しようと思ってあのお花畑男爵令嬢を泳がせてたらおかしな事言い出すしで、おかげで手間もそうとらずに解決できて良かったよ」
結局アルフ兄上の掌の上って事か。本当どっからどこまでわかってたんだか。
婚約破棄でさらに好条件を引き出そうと最初から狙ってたのか?
僕がジーク兄上やエリザベス嬢のフォローするのもわかってそうだ。
ジーク兄上とピンクブロンドは結局ジーク兄上の王位継承権を剥奪し男爵家に婿入りが決まった。
僕やエリザベス嬢が減刑を求めたのもあって、諸々たいした罪はなかったけど婚約者の予算を横領してた事は許されず分割で払っていくらしい。
ピンクブロンドは王族になれないのは不満がってたけど、意外にもジーク兄上のことは本気らしく前世からの推しだったそうだ。ジーク兄上もピンクブロンドと確実に一緒になれる為納得した様だ。エリザベス嬢にも謝ってた。
優雅に紅茶を飲む兄上に恨めしそうな目を向ける。
「そんな顔するなよ。政略結婚する覚悟もしてたし、ジークを助けたいとも思ってたよ。あんな結果になったけど。お前が裏方としていろいろ動いてくれてるのも感謝してる」
ムゥとするけどしょうがない。丸く収まったんだから。
僕もホッと一息ついて紅茶を飲む。
「ところであの男爵令嬢はトムと同じ転生者なのか?」
「ブォッ」
紅茶を吹き出さなかったけど気管に入った。
え、どういうこと?!
「なんだ、気付かれてないと思ってたのか?」
「…なんでですか?ってかいつから?!」
言葉使いも乱れて冷や汗が出る。アルフ兄上はそんな僕にお構い無しでまた紅茶を飲んでから麗しく微笑んだ。
「言葉を喋るのが早かったのもあるけど固形物を食べられる様になってからは、何気に料理やお菓子の味を変える様にもっていってただろ?しかもレシピまで教えて。あと今のアンナネッタと同じ年頃の時すでに足し算引き算どころか簡単な掛け算までしてたろ?バレない様にしてたみたいだけど迂闊すぎ。王家に伝わる伝承の転生者と重なる所が多すぎだった。で、極めつけがお前が5歳の頃に解決した流行り病」
今椅子に座ってなかったら膝をついてるどころかきっとごめんねポーズでうなだれてるはず。そうはできないので膝の間に顔を埋めた。
「あれだけいろいろやってたのに気付かれてないと思ってたのか?」
ううっ…
顔見てないけど声が呆れてる。
「嘘だろぉ、名前も色味も存在さえ地味な空気扱いされてたのにぃ…」
「空気扱いなんかされてたか?」
「だって初めてのお茶会の時席がなかったし」
「あれはお前が小さすぎて母上が膝だっこすると言われてたからな」
なにそれ、公開処刑ですか?
「目の前にいても気付かれてなかったし、昨日だって会場に前乗りしたのに大丈夫だった」
そうだよ、人込みもかき分けないと進めなかった。
「それは初めはお前がかくれんぼみたいにこそこそしてたから、皆微笑ましく観てたんだ。でもそのうちちょっとしたトラブルとか解決してくれたから暗黙の了解でそのまま気付かないフリをする事になったんだ」
なんと?!
もうこれ穴があっても入るどころの恥ずかしさじゃない。
顔どころか頭まで膝に埋めた。
あれ?でもまてよ。
「じ、じゃあ学園入学の時首席だったのに最低クラスになってたのは?」
勢い良く顔を上げ前のめりで問いただす。
アルフ兄上は初めて眉間にシワを寄せ吐き捨てる様に言った。
「あれはすでに男爵令嬢に唆されてたジークが、自分は首席どころか中の下辺りの成績なのをかっこ悪く思って学園長やらを脅したんだ」
なんてこった!
ジーク兄上ひでぇ!減刑願うの早まったか?
そういえば入学したての頃学園の人事異動があって不思議に思ってたなぁ。
ムムム…と腕を組んで頭をひねってるとアルフ兄上がポツリともらした。
「本当は私が王として、ジークに武力面、トムには内政面で共に国を支えていきたかったんだがな」
それは本当に本心の様で、僕もそうありたいと願っていた事だった。
しんみりして、アルフ兄上にかける言葉が見つからず、残り少ない紅茶を飲み干した。
「まぁでもお前たち二人とも好いた相手と結婚できそうでよかったな」
突然変なセリフが聞こえてきて喉がつまった。
「なっ、なっ、なっ」
言葉が出ない、顔に熱が集まってるのがわかる。
誰かの顔が浮かんでないったらない!
「ああ、まだ聞いてなかったのか。大分前からジークの素行が問題になっていたが、王家はベンネ公爵との縁は欲しかったから婚約者をお前に変える話が出てたんだ。昨日のジークのやらかしで婚約破棄だけでなくお前とベンネ公爵令嬢との婚約が決定した」
頭がまわらず勝手に否定的なセリフが出てくる。
「こ、公爵家との縁が欲しいなら婚約者がいなくなったアルフ兄上の方がよろしいのでは…」
そう言いながらも拳に力が入りすぎて白くなってる。
紅茶を飲んだばっかりなのに口の中がカラカラで喉がはりついてる様だ。
だって諦めていたことだったから。こんな地味王子には無理だ、まして第二王子の婚約者だったんだから。
でもそうだった…だ。
アルフ兄上が考える素振りをして口を開く。
心臓の音が耳まで届く。
「う~ん、私の場合今の情勢からいって妃は他国から迎えた方がいいからね。それにそうするとトムはベンネ公爵令嬢の為にももっと頑張ってくれるだろう?」
もう決まった話だしねとなんだかご機嫌だ。
そういえば公爵が言っていた【例の話】とはこのことか…。
「願ってもない。いちもにもなく了承した」って言ってなかったっけ?
ちょっと待って、それよりもあの時エリザベス嬢は顔を赤くしてなかったか?
思い出してさらにパニックになってる僕にアルフ兄上は追い討ちをかけた。
「何よりもトム、ベンネ公爵令嬢のこと好いているものな」
気が付いてたんですか、そうですか。
もうそろそろ言っていいかなぁの言葉。前世含めて初めての。
『ぎゃふん』
おしまい。
ありがとうございました。
※本当に誤字が多い様で読みにくかったと思います。
重々のお詫びとそれでも読んで下さった感謝を。
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