(7)埃(ほこり)
埃が目に入って涙が止まらなくなる・・ということが、たまにある。何も悲しくないのに止まらないのだから、これはもう、どうしようもない。^^
とある町役場の総務課である。
「か、課長! ど、どうされたんですっ!!」
突然、涙を流し始めた総務課長の堀田を見て、課長補佐の山芋が驚いて声をかけた。
「い、いや、なんでもないんだ。ははは…ちょいと埃が目に入ってね」
堀田は山芋に取り繕った。というのも、実は堀田が埃で涙したタイミングが悪かったのである。堀田は春の人事異動で次長の呼び声が高かったのだが、生憎、人事異動はなく、そのまま据え置かれた翌日だったという経緯がある。
その数日前、二人の間にはこんな遣り取りがあった。
「ははは…もう二年ですから、必ず次長ですよ、課長!」
「そうかな、ははは…」
堀田は、満更でもない照れた顔をしながら、よくぞ、言ってくれた…と、内心で山芋を褒めた。ところが三日後は、まあ、そんな結果だった訳である。山芋としても、どう慰めていいものか…と思案していた矢先だった訳である。
「夜桜が眺められるいい店がありますから、今夜辺りどうです、課長っ!?」
山芋は擂り粉木で下ろしたような声で堀田を元気づけた。
「ああ、有難う…」
いいねっ! という気分で直に返した堀田だったが、涙を流しながら言ったものだから、他の課員達からすれば、落ち込んだ課長の言葉・・と、見て取れなくもなかった。
埃の涙は、時として誤解を招くのである。^^
完




