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(56)願いごと

 願いごとをして、その願いが実ればいいが実らなければ涙することになる。

 深夜、地方のとある神社である。一人の女性がお百度参りをしている。お百度参りの願いごとが実るのは、お参りする姿を人に見られないのが条件とされている。誰がそのような条件を決めたかは定かではないが、まあそのようだ。^^

 国営放送の某テレビ番組のように、女性の心境に分け入ってみよう。^^

『どうか、(もど)りますように…』

 何が戻ればいいのか? までは分からないが、何かの良からぬ変化があったようだ。女性は裸足(はだし)で祈りながら、神社の境内(けいだい)を行ったり来たりしてお参りをしている。そして時折り、涙するのが、見るからに(あわ)れを誘う。ただ、神社の境内は深夜だから漆黒の闇に閉ざされ、哀れむ人影すらない。

 やがて女性は、お百度参りを踏み終え、神社の境内から立ち去ろうと、静かに神社の外へと出た。

「豚の豚子、無事、戻るかしら…」

 そのとき、ふと、女性が涙しながら漏らした言葉である。豚で涙するくらいだから、余程(よほど)愛着のあるペットだったのだろう。

 人の願いごとで流す涙には、いろいろな場合があるというお話でした。^^


                  完

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