(5)求める
鳥尾は感涙を求めていた。それも無性に、である。なぜかと言えば、それは鳥尾の深層心理に訊ねるしかない。その深層心理に分け入ってみよう[国営放送の某歴史番組のナレーション風^^]。
『どうも最近、感涙を流せることがない。怒ることは嫌になるほど多いが…』
という心理である。先だっても、こんなことがあった。
「おい鳥尾っ! ウクライナで、また民間人が虐殺らしいぜっ! 涙が出る…」
同級生の牛毛が学生食堂のテーブルで食べながら話し出した。
「そうか…(むご)いなっ!」
鳥尾は一応、そう返した。一応というのは、鳥インフルエンザで殺され埋められる大量の鶏は涙が出ないのかよ? …という疑問を、ふと抱いたからである。
人は時には残虐で野蛮な行為をやってのけてしまう。そしてそれを正当化して自らの非を認めない…というのが鳥尾の深層心理の主張だった。
「涙が出るだろ?」
「ああ…」
牛毛に同調を求められ、求めるなっ! と内心で怒れながらも同調する自分が嫌になる鳥尾だったが、反発するほどのことでもない…とは深層心理で思えた。ああ、本当に気分よく流せる涙が…と鳥尾は感涙の涙を求めていた。
どうせ涙するなら、悲しい涙より感涙の方がいいに決まっている。鳥尾に限らず、私だって、その方を求める。^^
完




