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(4)訳
顎川は訳もなく涙を流していた。当の本人にも流す訳が分からなかった。だから、止めようもない。このままでは健康面の危険がある。そう察知した顎川はどうすればいいだろう? と目を閉じ、考え始めた。目を閉じても涙は頬を伝った。悲しときに流れ出る涕ではなく、ただ溢れる涙、そして泪だった。
『そうだっ! 寝りゃ止まるんじゃないか…』
顎川は、顎へ手をやり、頬杖を突きながら、すごく単純に思った。思ったが吉日・・という故事めいた言葉が顎川の脳裏を一瞬、掠めた。顎川はすぐに寝室に入り、眠ろうとした。だが、眠くないのだから眠ろうとしても眠れるものではない。顎川は弱った。箱のティッシュ紙が瞬く間に減っていった。時刻は夜も更けた十時過ぎである。そのとき、夜泣き蕎麦屋のチャルメラの音が微かに顎川の耳に聞こえ出した。すると、どういう訳か涙が突然、止まった。涙は食べ物に弱いな…と顎川はまた、単純に思った。
涙が出る訳は案外、単純なのである。^^
完




