(39)別れ[2]
(24)に続き、また別の別れ話である。^^
人とは妙なもので、再会したときや思わぬ出会いがあったときには喜ぶが、別れとなればどういう訳か悲しむ性質を有している。まあ、人の性だと言ってしまえばそれまでだが、別れるというただそれだけの理由で涙する知的動物なのである。別れというだけで涙を流さずともいいだろう…と思えるのだが、今日もそんなお話である。
蕗川は五月晴れの一日、日課にしている家庭菜園の手入れをしていた。日々、見ている菜園だから、どの位置に何が植えられているか・・は、頭の中に細かくイン・プットされていた。
「おやっ!? こんなところに植えたかな…?」
ふと見れば、昨日までは気づかなかった植物が芽吹いているではないか。蕗川は疑問に思いながら訝しげに首を傾げた。ただ、過去にもそういうことがあるにはあったから、鳥が落とした糞の中の種子が芽生えたに違いない…と推測した。ただ、何という名の植物かは分からなかった。
「まあ、育ててみるか…」
そう呟くと、蕗川はいつもの植栽管理の見回りを続けた。
そして半月ばかりが過ぎ去ったとき、自然と生えたその植物の名が判明した。なんと、その品種は世界でも超レア[過少価値]な品種で、我が国ではどういう訳か育たない・・とされている梅干草だと判明した。
「う、梅干草だ…」
蕗川は図書館の植物図鑑の写真をマジマジと見ながら確信した。さてそうなれば、これからこのまま育てていいものかどうかが気になる。蕗川は植物園に電話をしてみた。
『ええっ!』
はい、で、どうしたものかと…」
『わ、分かりました。ご住所はどちらですか?』
植物園の職員はコトの詳細を蕗川に訊ねた。
その後、蕗川はテレビ出演などを経て世間に知れ渡る人物となっていった。ただ、その頃から蕗川は時折り涙するようになった。理由は、超希少価値のある梅干草を自宅の家庭菜園から半強制的に持っていかれた・・というものだった。
『没収されるくらいなら、黙って育てていた方がよかった…』
蕗川にとって悔いが残るのは、ただその一点だった。そして今もまた、蕗川は梅干草を思い出しながら、時折り涙しているということである。
有名になるだけが、最良の道ではない・・という涙するようなお話でした。^^
完




