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(2)辛(つら)い
他人には分からない辛いときに出る涙がある。当の本人には辛いのだが、他人から見れば、どうして? と首を捻りたくなるような疑問の涙だ。
とある中堅企業に勤める坂巻は春の人事異動でそのまま異動もなく据え置きとなった。その坂巻が内示のあと、執務中のデスクで泣き崩れた。
「ど、どうされたんですかっ、課長補佐代理っ!」
係長の雲上が訝しげに坂巻を窺った。窓際の課長席から一段下に課長補佐の席がある。そのまたもう一段下に座るのが課長補佐代理の坂巻である。さらに下の段は係長の雲上の席だ。
「… いや、ふと昨日観たドラマを思い出してね、ははは…」
場当たり的な理由づけをして暈した坂巻だったが、内心ではこの課の仕事が自分向きでなく、どこでもいいから異動をっ! …という深層心理の願望があったのである。異動がなかったこと自体、嫌ではないものの、なぜか辛い気分に苛まれたのである。
他人には分からない辛い涙のお話だ。^^
完




