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(11)演技的

 悲しくもないのにその場を誤魔化すために流す演技的な涙がある。要は演技的な涙である。芸能界の方なんかがそうだが、涙を流すためには相当、キャスティングされた役柄になりきる必要があるに違いない。それが出来れば、涙は目薬をささなくても流せるということになる。ということは、流せない方々は、失礼な話だが、まだまだ…ということになる。^^

 とある撮影所である。

「君ねぇ~! 目薬ささないで出来ないのっ!?」

「すみません…。この本、ちっとも悲しくないので…。むしろ、笑えるんです」

 女優は素直に監督へ謝った。

「笑える? …そういや、少しプロットがベタで滑稽(こっけい)過ぎるな。よしっ! このシーンは思い切ってカットしようっ!」

「そんなことしていいんですか? 監督!」

「ああ、撮ってる私が悲しくないんだから、君が涙を流せんのは当然だ。脚本家には書き直してもらうように言っとくよ、ということで、今日はこれまでっ!!」

 監督の一括する大声が響き、その日の撮影は中止になった。

 次の日、監督は脚本家にプロットの一考を頼み込んだ。

「ぅぅぅ…そこをなんとかこのままでっ!」

 脚本家は精一杯の演技力で訴えた。悲しくもないのに涙を流すその演技力はなかなかのもので、監督は、そのまま引き下がった。実は、脚本家には次の映画の台本の締め切りが迫っていたのである。要するに書き直す時間がなかっ訳である。

 事情が差し迫ると、涙は演技力以上に流れるようだ。^^ 


                  完

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