無能追放
練習作です。
粗い部分もあるとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
「ああ、風は穏やかだな.....」
故郷の土地に入ってすぐの見晴らしのいい丘。
俺は心地のいい風に吹かれながら遠くをぼんやりと眺めていた。
余裕そうに見えるが、全然余裕ではない。
何故なら絶賛失業中だからだった。
「最近ただの荷物持ちになってたからな...」
実は一週間ほど前、俺はパーティーをクビになったのだ。
しかもただのパーティーではない。
勇者のパーティーというとても名誉なご一行の一人だった。
今までは勇者本人と幼馴染という強い縁で持っていたわけだが...戦闘中に俺を庇って勇者本人が大怪我をするという事態に陥ってしまった。
そう、俺は弱いのだ。
魔王を倒し、世界を救わんとする勇者パーティーの一人としては圧倒的に足りない戦闘力。
普通の冒険者より強い自信はあるが、勇者パーティーの一人として見るならばなんでお前がいるの?という状況である。
だからこそ戦力外通告をくらったのだ。
自身のステータスプレートを見る。
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アルフレッド 人間 男
レベル22(限界)
職業 武器使い
スキル 剣術 槍術 短剣術 弓術 投石術
調合 小道具作成 身隠し 逃走術 料理
盾術 回避術 火術 水術 気配察知
疲労軽減術 治癒術 虫の知らせ 挑発
称号 熟練の荷物持ち 妨害の達人
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レベルには人それぞれ限界値というものがある。
大体は40が最低値で99が最高値というのが一般的なのだが...。
俺は22である。
できることを模索しているうちに称号にもあるように妨害は得意になった。
だがそれもある程度までで、限界が来てしまい役に立たなくなっていった。
器用貧乏という言葉が似合いすぎるステータスに溜息がでる。
「いつまでもこうしてるわけにもいかんよな...」
村に帰ってできる仕事を探そう。
少しだけ残っていた水筒の水を飲み干し、立ち上がってその場を後にした。
故郷の村...と言っても俺には家なんてない。
両親は幼い頃に死んでしまっていて、俺はこの村の孤児院で育ったのだ。
村に着くころには日も沈みかけており、村の入り口には壁に背を預けて居眠りしている守り人がいた。
「ジンのおっちゃん...おっちゃん!」
いくら平和な方だとは言え無警戒が過ぎる。
俺は良く見知った顔の居眠りこいているジンのおっちゃんの肩をゆすって、起こした。
「ふがっ!ん、おお...アルフか.....おっちゃん今仕事中だぞ...」
「がっつり寝てんじゃねえか!!!」
相も変わらず居眠り魔は平常運転らしい。
寝ぼけているのか昔と変わらない感じであしらってくる。
「ん~、あるふ?アルフ!!?」
大きく伸びをして目を覚ましたジンのおっちゃんは、ようやく俺に気づいたらしい。
目を大きく見開いて暑苦しいほどの勢いで顔を確認してくる。
「帰ってきたのかアルフ!えらく立派な顔つきになったな~!!!」
「痛え...相変わらず力強いなおっちゃん」
嬉しさ全開で人の肩をバシバシ!と叩くおっちゃん。
昔よりも体はしっかりしているので痛いだけだが、それでも尚変わっていない力の強さに少し安心する。
「こりゃあ村全体に伝えた方が良いな!」
「あ、え、ちょっ」
言うが早いか...おっちゃんはそう言った時には村の中に走って行った。
早いなおっちゃん...止める間もなかった。
昔より歳をとっているはずなのに全然衰えてない。
あれよあれよという間に村中からわらわらと村人たちが集まってきた。
基本的に娯楽が少なく、村を出て行った人間は帰ってくる方が珍しいので、それはもう見事な早さで集まってきた。
田舎の連携力の高さが遺憾なく発揮されている。
「おかえり~」
「おお、アルフだ!」
「えらくがっしりしたな~」
皆それぞれが別々の言葉で温かく出迎えてくれる。
「無事に帰ってきてなによりじゃのう...」
「村長!?まだ生きてたのか!」
「おう、これこの通りじゃ」
何よりも驚いたのが俺がガキの時から爺さんだった村長がまだ存命していたことだった。
村を出たのが十五歳、俺は今二十九なので十四年も経っているのにだ。
しわっしわの力こぶをむきっと見せてくる姿は相変わらずである。
「アルフくん、お久しぶりです!」
「先生...はあんまり変わってないな」
孤児院の先生...クラリス先生も変わらず元気そうだった。
クラリス先生はエルフである。
長命な種族なため見た目は全然変わってなかった。
「ほっほっほ...めでたいことじゃ!皆の衆、今日は宴を開くぞ~!!!」
「え!村長そこまでしなくても」
「「「「「おお~~~!!!!!」」」」」
老若男女...といっても老人比率八割の村人とは思えないほどの元気の張りっぷりだ。
そんなにされるほど立派な理由で帰ってきてはいないのに、帰ってきた理由も聞かずにややテンション暴走気味で宴の準備に取り掛かる村人たち。
そうだ...そうだったよな。
この村は元気なんだった。
十四年前と全く変わらず元気な村人たちに少しだけ涙がでる。
連携力の高さと情報の拡散力の高さ...そしてこの村の村人特有の行動力により、そこから一刻もしないうちに宴の準備が出来上がった。
村の中心にはデカい焚火が作られ、狩人のおっちゃんが狩ってきたばかりの獲物を惜しみなくだし、村長が大事にとってある酒をジンのおっちゃんが遠慮なく飲む。
孤児院の子供たちも流石に顔ぶれは全員が変わっていたが、なつっこく寄ってきては遊んで遊んでと可愛い子たちが多かった。
折り合いはついていたとはいえ、若干傷心気味だった俺の心を優しく治してくれたのだった。
この村の村人たちは行動力がある。
昨日宴で酔いつぶれてたはずなのに、次の日の夕方にはもう俺の家が準備されていた。
何を言っているのか分からないと思うが、俺もよく分からない。
村長曰く。
「かなり前からあった空き家を修理してもらったんじゃ」
にしたって修理は早いし、あんだけ騒いだ次の日で準備ができるというのも凄すぎる。
こうして着実に村で暮らすための準備は、村人たちの手によってどんどんと行われていった。
結果一週間ほどで完全に村で暮らせるようになった。
仕事もできた。
村で便利屋のようなことをして生活するというものだ。
冒険者だったこともあり、体力もあり力もある。
レベルの限界値は低いがそれでも十四年勇者パーティーにいたので、ある程度までなら戦いもできる。
畑を手伝ったり、狩りを手伝ったり、現れた魔物を倒したり...。
他にも家事や孤児院の子供たちの遊び相手、お年寄りの話し相手など、その他もろもろ村での困りごとを解決する仕事だ。
正直、冒険者時代よりも楽しい。
冒険者時代も楽しかったと言えば楽しかった。
年々パーティーの実力についていけなくなり、風当たりが強くなり始めた八年目くらいまでは...。
だが、村での暮らしはそれとはこう...違った楽しさがある。
ほのぼのとしたような、ゆっくりと時が流れるような...小さな幸せや楽しさを見つける。
そんな優し気な楽しさだ。
平和な幸せというのはこう、何物にも代え難いものなのだな...としみじみと思う。
ハイレベルな戦いと仲間達からの強めの風当たりを考えれば、孤児院の子供に泥団子を投げられるくらい可愛いものだ。
「兄ちゃん早すぎるよー!」
絶賛、孤児院の子供たちの遊び相手を務めている最中である。
「ふははー!そんな遅い玉に当たってやるほどお人好しではない!当てたければ工夫するんだな!」
「「「これならどうだー!!!」」」
三人組がまとめて泥団子を一斉掃射してくるが、簡単に当たってやる俺ではない。
大人げないとか言われたらそれまでだが、これはある意味訓練も兼ねていたりするので、下手なやさしさはこの子たちのためにならない。
投石というのは比較的スキルとして習得しやすいスキルだ。
使い続ければ弱い魔物なら討伐、普通の魔物なら牽制や気絶にも使える優秀なスキルである。
対人戦では魔法の詠唱妨害なんかにも使える。
物を投げていれば習得できるので、早いうちから覚えられるなら覚えた方が良い。
が、少々調子に乗っていたのがいけなかった。
避ける方向を考えていなかったので後ろに干してあった布団に思いっきり泥団子が命中してしまった。
「やばい!...」
「どうしよう...」
泥団子を投げた獣人の女の子が泣きそうだ。
「よっしゃアルフおじちゃんに任せろ...こういう時は速やかに洗い場へだな」
孤児院時代俺もよくやらかしていたので二人してシーツをまとめて、こっそりと移動する。
クラリス先生は今の時間は村に買い物に行っているので鬼はいない。
「ア・ル・フくん...」
「「ひぃやっ!!?」」
が、俺の見通しは甘かった。
どうやらもう戻ってきていたらしい。
泥団子を投げた獣人の子と一緒に、小一時間説教をくらう羽目になったのだった。
そんなこんなで俺の生活は安定していた。
収入こそ少ないが、それでも満ち足りた生活に満足していた。
そんなある日、村に良くないことが起きそうだということを察知した。
俺のスキルである虫の知らせの効果だ。
大概は予感のまま終わったりするが、俺の長年の勘が良くないことは確実に起こると告げていた。
これが何なのかは分からない。
俺は早速、村長に報告しておくことにした。
「村長、村によくないことが起きそうなんだ」
我ながらもっと上手い言い方はなかったものかと思う。
漠然とし過ぎていて自分でも言われれば信用できないだろうな...と思ったくらいだ。
「お主が言うならそうなんじゃろう...わしらはどうすればええんじゃ?」
だが、村長は俺の言うことをしっかりと信じてくれた。
「具体的に何が起こるかは分からない...ただこれから先三日ほどは村の守りを固めて、何かに備えて欲しい」
「あいわかった!」
村長夫妻は俺が言った不確かなことを信じてくれた。
そこからの対応は迅速だった。
村人たちは誰一人として疑うことなく、行動してくれた。
普段は居眠りなジンのおっちゃんも、装備を点検し全身に着こんでいた。
他にも比較的若い村の男衆も武装して周囲を警戒していてくれたりもした。
俺は俺で、村を守るために村の周囲を冒険者時代の装備を着こんで見回っていた。
何が起こるかは分からない。
何も起こってくれない方がありがたいし、その方が絶対に良い。
だが俺の勘が確実だ!備えろ!と警鐘を鳴らしてくる。
冒険者時代に何度かあった本当の危機の感覚だ。
「アルフくんだけに負担はかけませんよ~」
「クラリス先生!?その格好は...?」
見回りの最中、最も意外だったのはクラリス先生も武装して、ついてきてくれたことだった。
エルフの戦闘衣装だというちょっときわどい身軽な格好をしていて、古ぼけてはいるがよく手入れされている弓が、クラリス先生の実力はただものではないと語っている。
「でも何が起こるか分かりませんよ?」
「何かあった時のための先生です~」
相変わらず少し間延びした喋り方だが、その雰囲気は普段の先生とは考えられない程鋭かった。
「先生を危険に晒す訳には...」
「アルフくん、一人で背負いこみすぎないでください...何が起こるか分からないのなら、戦える人間は一人でも多い方が良いはずです」
「...分かりました、でも危なく成ったらすぐに逃げてくださいね」
「はい~先生もこう見えて歳なので無理はしません~」
「歳っていくt「野暮ですよ」あ、はい」
クラリス先生の気配が、一瞬滅茶苦茶怖くなったのを感じだので深く触れないようにした。
ともあれ、村の周囲の見回りにはクラリス先生が同行してくれることになった。
それから三日目の夜。
それまで、村の周囲でも特に大きな異変は起こらなかった。
「...このまま何事もなく...!!?」
村の周囲を見回っていた俺の気配察知に、とんでもない数の気配が引っかかった。
この感じは冒険者時代何度か味わった感覚。
「.....」
「先生...今すぐ村に戻って戦闘態勢をとるように伝えてください」
「...魔物の大量発生ですね...分かりました、伝えてきます」
先生もどうやら感じ取っていたらしい。
やっぱりただものじゃない。
「絶対無理だけはしないでくださいね」
「分かりました」
先生は短くそういうと即座に村目がけて走って行った。
その速度は一流の冒険者と比較しても引けをとらないほどだった。
絶対ただものではない。
俺の虫の知らせと勘は当たってほしくはなかったが当たってしまったらしい。
俺の気配察知には、村からそう遠くない場所に大量の魔物の気配があることを告げている。
村で戦えるのはクラリス先生と、ジンのおっちゃん、それと狩人のおっちゃんだけだろう。
村の男衆もある程度は戦えるだろうが、そもそも戦闘経験があまりないので頭数として考えない方が良い。
そうなってくると俺一人でかなり頑張らないといけない。
この辺の魔物は弱いとはいえ、弱い魔物の大量発生は数が多いことが多く長期戦になりやすい。
「気合入れるか...」
俺のレベルでどこまで持つか分からない。
このあたりの魔物が弱いとはいえ数が多ければ死ぬことすらあり得る。
だが...。
脳裏に浮かぶのは村での平和な日々。
それをぶち壊すものは絶対に許さない。
覚悟を決め、ありったけの爆弾を構える。
目の前には弱いとはいえ尋常じゃない程の魔物の群れがいた。
「お前らにあの平穏を壊させるかよお!!!!!」
俺が爆弾を放り投げることで、戦いの火ぶたは切られた。
「おりゃあっ!!!」
連続で響き渡る轟音。
俺はとにかく攻撃の火力が少ない。
それをなんとかしようと考えた結果、錬金術師に調合を教えてもらった爆薬や毒薬を使った道具頼みの戦い方だ。
勇者たちのような高レベルの戦いになれば、この戦い方では精々敵の妨害をする程度にしかならない。
だがこのあたりの魔物はゴブリンやコボルトと言った低レベルな魔物が多い。
爆発は数十体ずつを即死させ、数十体ずつを負傷させる。
それをすり抜けた魔物には石を投げたり、スキルの挑発を使うことで村への侵攻を食い止める。
爆弾だけじゃない。
毒薬をまき散らす煙幕、鋭く研いだ投げナイフ、炸裂する爆竹、強力な音が鳴る音響玉。
たまにいる魔導師ゴブリンやコボルトの妨害をしつつ、村へ行かないようにとにかくヘイトを稼ぎながら派手に戦う。
だが魔物たちの勢いは衰えることはなかった。
次から次へとやってくる。
次第に爆弾も尽きる。
たまに打ち漏らした魔物が村へと向かっていく。
追いかけて殺し、またヘイトを稼ぎ戦う。
槍で薙ぎ、突き、戦う。
槍が折れ、残った柄で近くにいた魔物の眼球を、刃を投げて魔導師ゴブリンの詠唱を妨害する。
短剣でかく乱しつつ戦う。
一本が折れ、もう一本を打ち漏らしへ投げる。
剣で戦う。
消耗し、斬撃は打撃へと変わっていく。
盾で戦う。
攻撃や魔法を防ぎ、時には殴り盾ごしにタックルをかます、
距離を稼ぎ弓で戦う。
遠くの魔導師系の魔物を殺してはいくが、やがて矢が尽きる。
徐々に、徐々に魔物たちの勢いに圧され後退する。
次第に疲労がたまり、攻撃への被弾も増えていく。
「アルフくん!!!このっ!」
途中、クラリス先生が同時に矢を何本も放ち加勢してくれたことで気持ち的にも戦力的にも少し楽になった。
「クラリス先生!」
「打ち漏らしは任せてください」
しばらくは二人で共闘するが、盛り返した勢いも魔物の勢いにやがて圧されだす。
クラリス先生も矢が尽き、俺が殺し損ねた魔物をナイフで距離をとりつつ一撃必殺のヒットアンドアウェイの戦法へと切り替わる。
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!お前らの敵は俺だあああああ!!!!!」
やがては剣も折れる。
俺は雄叫びを上げ、盾と肉体で殴り掛かった。
「ファイアアロー!てめえ行かせるか!!!」
すり抜けようとしたゴブリンの頭をひじ打ちで弾き沈める。
だが魔物たちの勢いは未だ衰えず。
盾もついには持ち手が衝撃の負荷に耐え切れず折れて壊れた。
気づけば背後にはもう村がある状態だった。
「クラリス先生...逃げてください!」
「アルフ君!」
先生も疲労で魔物を一撃で仕留めることができなくなってきていた。
このままではやがて魔物の勢いに飲まれてしまうだろう。
「大丈夫です!俺は必ず生き残りますし、村も助けます!」
「...っ分かりました!絶対に生き延びてください!矢を補充したらすぐに加勢します」
先生はそう言うと村へ走って行った。
それからも挑発しては殴り、へし折り、捻り、蹴り殺す。
先生と入れ替わりで今度はジンのおっちゃんが走ってきた。
「アルフ!受け取れ!」
ジンのおっちゃんが投げてくれたのは古ぼけてはいるがよく手入れされている剣だった。
「俺も加勢するぜ!.....まあ、俺だけじゃないがな!」
村には武装した男衆が立っていた。
それだけじゃない。
フライパンを構えたおばあちゃんたち。
大量に石を構えた孤児院の子供たち。
矢を補給し矢を構えたクラリス先生と狩人のおっちゃん。
村人総出で戦う覚悟に満ちていた。
「ははっ...皆」
余計に負けるわけにはいかなくなった。
「お前ら...」
まだも押し寄せる魔物たちへ剣を抜きながら殺気を飛ばす。
「絶対に...」
体の奥底から、闘志が湧き上がる。
「殺す!!!」
疲労、負傷、防具の故障。
折れかけていた心。
それらは全て村を守る意思と、それに合わせて漲ってくる力にかき消された。
俺は再度、魔物の群れへと斬りかかった。
今度は村人たちもついている。
幾分か負担も減った分、より戦いやすくなった。
疲れているにも関わらず、何故か冴えていく技。
速くなっていく動き。
無限に湧き上がるかのような力。
俺は戦い始めた時よりもより動けるようになっていた。
やがては魔物たちの勢いも少しずつ落ち始め、やがては目に見えて少なくなっていった。
だが、最後の最後でとんでもない強敵がやってきた。
竜がいたのだ。
かつて勇者パーティーに居た頃に攻撃が通らなくなってきていた相手でもあり、このあたりの魔物とは一線を画す強さがある。
「お前がボスか...」
だが不思議と俺にはなんの焦りも生まれなかった。
「お前を殺せば戦いは終わる」
竜に対してむき出しの殺意をぶつけると、竜もむき出しの殺意をぶつけてくる。
不思議と落ち着いた感覚だった。
俺は剣を鞘にしまうと、竜へ向かって駆けだした。
駆けている最中、世界が少しずつ遅くなっていく感覚があった。
意識はより研ぎ澄まされ、まるで俺自身が剣になったような...そんな感覚だ。
ふと俺の脳裏にある技の名前が浮かんできた。
使ったこともない。
使えるはずもない。
勇者だけが使える剣術の奥義が一つだったからだ。
だが不思議と使える気がした。
「.....神閃・八裁!!!」
瞬間、俺の姿は八つに分かれ、竜を八つに斬った。
竜を斬ったと同時、更に閃いた閃光は残っていた魔物へと奔った。
剣が砕け、一気に世界の時間が元の進み方へと戻っていった。
気が付けば夜は明けており、陽光が辺りを照らし始めていた。
俺は立ったまま後ろを振り返る。
見れば村人たちは怪我をした様子の者が居る程度で誰一人としてかけることなく、後ろに立っていた。
「良かっ...た」
安堵した瞬間。
どっと一気に疲労が押し寄せた。
直後、俺の意識は暗転していった。
「アルフ君!!!」
先生が折れの名前を呼びながら駆け寄ってくるのが見えた気がしたが...俺は意識を手放すのだった。
「アルフは無事かクラリスちゃん!」
村長が老体に鞭打って走ってくる。
クラリスは倒れたアルフの胸に耳を当てて、泣いている。
「生きてます...生きてまずぅ~~~!!!良かったあああ~~~!!!」
いつもはおっとりとして穏やかなクラリスの見たこともない姿に村人たちも少し驚いた様子だが、アルフレッドが無事だったことを全員が喜ぶのだった。
「とりあえずアルフを治療しなきゃなんねえ!足が速いやつは町まで行って神官を呼んで来い!怪我してない男衆は俺と一緒に魔物の死体の後片付けだ!」
ジンが瞬時に次の行動を指示する。
「じゃあわしはまだ警戒しとるわい」
狩人のおっちゃんが弓を構えて即座に村の周囲を警戒しにいった。
村人たちは相変わらずの連携力で、事後処理へと走っていくのだった。
とにもかくにも、勇者パーティーを追放されたアルフレッドは、無能と言われたにも関わらず村を守り切った。
気絶中のアルフレッドの顔もどこか穏やかだった。
村の安全な場所まで運ばれていく最中、アルフレッドのボロボロになった服の破れた隙間からステータスプレートが落ちた。
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アルフレッド 人間 男
レベル30(限界突破)
職業 武器使い
スキル 剣聖術 槍術 双剣術 弓聖術 真・投石術
調合 小道具作成 隠密 縮地法 料理
真・盾術 回避術 火炎術 水術 気配察知
疲労遮断 治癒術 予知 強挑発 闘志解放
称号 熟練の荷物持ち 妨害の極み 小さな村の英雄
神閃の使い手
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