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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月27日(火)☀️/☁️
98/279

9-5 明るいネット会議


 社内メールには未読が2通入っていた。


 1通は部長から俺に宛てたメールだ。

 このメールをよく見ると、Cc:に俺以外の課員全員と人事部長と総務部長が入っている。

 この形式で出されてしまっては、業務命令としての意味合いが強く、有給休暇中だからとの理由だけでは断れない。


 もう1通は部長から彼女に宛てたメールだ。

 そのメールもよく見ると、Cc:に彼女以外の課員全員と人事部長と総務部長が入っている。

 これも文面的には俺に宛てたのと大差は無く、業務命令としての意味合いが強い。


 俺としては行って帰ってくるだけなので、2日ほどの有給休暇中断は苦にはならない。

 けれども、ここ数日の部長の行動が気になり素直に従えない気分だ。

 しかし、この状況で俺一人がアスカラ・セグレ社への訪問を断ると、彼女が窮地に立たされる可能性が高い。


 気分的には、部長の巧妙な作戦に嵌められている感じがする。

 だが迷っていても時間の消費だけだ。


 そこで俺は決断した。


 俺は仏間に戻り、バーチャんに事態の説明をした。


「バーチャん。仕事で30日の金曜日に大阪に行くことになった。」

「ほう。じゃあ。こっちにいられるのは30日までか?」


「いや、日帰り…泊になるか?30日と1日の2日間だけ仕事で大阪に行って、また戻ってくる。」

「また戻って来るんじゃな?」


「うん。遅くとも1日の夕方には戻ってくる。」

「そうか。行ってこい。」


 バーチャんの理解を得られたので、彼女にLINEを打ちながらお爺ちゃんの部屋に戻る。


「ネット会議に参加してください」11:51


 自分のノートパソコンを開き社内ネットに繋ぐ。ネット会議用のソフトを起動して彼女からの反応を待つ。

 程なくして、インカムを着けた彼女の顔が画面いっぱいに映し出された。


「門守です。見えますか聞こえますか?」

「秦です。見えてます聞こえてます。」


「部長からのメールを読んだ。大阪に行くと返事しようと思う。良いね?」

「グッ!」


 彼女が笑顔でサムズアップでする。

 やっぱり彼女は出張扱いと旅費に釣られているんだろう。


「部長に承諾の返事を出して良いね。」

「はい!是非ともお願いします♪」

 はいはい。満面の笑みですね。


「あの文面と宛先だと正式な業務命令だから、秦さんからも部長に返事するのが良いと思う。」

「そうですね。わたしもそう思います。」


「そういえば課長は出勤してるの?」

「いえ、あれから休んだままです。」


「そのままでメール開けるかな?」

「ああ、課長宛の件ですね。」


 やはり彼女の勘は鋭いものがある。

 直ぐに放置していた課長宛のメールの件だと気がついている。


 俺はネット会議の画面を縮めて、隣に社内メールを開く。

 課長宛に問い合わせが来ているメールへの対応を彼女と話すためだ。

 課長にこのまま休まれては、課としての対応が悪いと社内で評されてしまう。


「まず、4通あるのは確認できるよね。」

「はい、私でも4通は確認してます。」


「これって誰か返信してる?」

「いえ、誰も返信してないです。」


「俺と秦さんで分担するか?」

「私とセンパイ、それに鈴木さんと田中君の4名で1件ずつはどうですか?」


「既に手を着けてるの?」

「最初のは田中君が取り掛かってます。3件目は鈴木さんが返信まで準備してます。」


「秦さんは?」


 俺がそう聞くと、画面の中の彼女が微笑んで軽く手をふったが、直ぐに仕事の話しに戻った。


「私は最後のに手を着けてます。」

「じゃあ、2件目も鈴木さんに頼めないかな?」


「ちょっと待ってください。鈴木さーん。」


 彼女が同僚で2年後輩の鈴木さんに声をかけた。程なくしてネット会議の枠に彼女と一緒に鈴木さんが映る。

 二人して軽く手をふって笑顔だ。

 彼女がインカムを外して音声をオープンにしたのか、鈴木さんの声が聞こえる。


「門守さん。お久しぶりです。」

「鈴木さん。元気そうだね。」


「はい。課長も山田も居ないから元気ですよぉ~(笑」

「そこまで言うかぁ?(笑」


「もう返信まで準備してるんだって?仕事が早いねぇ。」

「はい。課長のチェック待ちで止めてます。」

「鈴木さんに2件目も頼めないかな?」


 ネット会議の枠内で彼女と鈴木さんが会話を始めた。


「2件目は、実は手を着けてます。もうすぐ返信も書き上がります。秦センパイ、後で見て貰えます?」

「すっごぉ~い。もうやってたんだ。」

「…」


 鈴木さんは既に着手済みだと言う。

 改めて頼むまでもなかった。

 俺の出番は無さそうだ。少し安心した。

 彼女と鈴木さんは、ネット会議の枠内で会話を続けている。

 こうした明るい雰囲気な職場は久しぶりに見た気がする。


「いいかな?」

 俺は二人に声をかけた。

 二人がこちらを見て軽く手をふる。


「じゃあ、鈴木さんは継続してお願いします。課長のチェックは直ぐに取れないだろうから、秦さん鈴木さん田中くんの3人で相互にチェックしたら発信して。それと秦さんは田中君の進捗も気にしてあげて。」

「門守さん。さっきから手をふってる後ろの方って、ご親族ですか?」


 鈴木さんの声に俺は慌てて振り返った。

 そこには笑顔で手をふるバーチャんがいた。


「二人とも美人じゃのう。どっちが二郎の女じゃ?」

「こっちでぇ~す。」


 鈴木さんの声にネット会議の枠を見れば、鈴木さんが彼女を指差して笑っている。

 彼女はキョトンとして自分を自分で指差している。


「二郎。飯じゃ。」

「「私たちもランチに行ってきま~す。」」


 バーチャんの声に彼女と鈴木さんも反応した。

 呆気に取られた俺はノートパソコンの前で一人呆然としてしまった。


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