8-7 決算短信
「バーチャん大丈夫なの？」
「ドワーフが酔うわけ無かろう。」
確実に酔って寝てましたよ。
それより今なんて言った？
『ドワーフ』とか言わなかったか？
「ドワーフ？」
「そうじゃ。二郎は知らんか？」
そのときスマホにLINEが入った。
「お風呂に入って寝ますね。おやすみなさい。」20:45
「ほぉ～彼女さんは入浴か。」
バーチャんはそう言って、再び俺のスマホを覗き込む。
俺はバーチャんから逃げるように彼女に返信を打った。
「おやすみなさい」20:47
さて、さっきのバーチャんの話の続きだ。『ドワーフ』って何だ？
「バーチャん。ドワーフって言ったよね？」
「言った。」
バーチャんは別世界から来たと言っていた。
日本人じゃないと言っていた。
別世界の人間を『ドワーフ』とか言うのか？
「ごめん。バーチャん。理解できない。」
「ワシはドワーフのクオーターじゃ。」
「バーチャん。酔ってる？」
「だからドワーフは酔わん！」
バーチャんはそう言って、氷が半分溶けたハイボールを飲み干すと空のジョッキを俺に突き出した。
「バーチャん。今日はここまで。これ以上はダメ。」
「そうか。わかった。今、何時じゃ？」
「もうすぐ9時だけど？」
「いかん！見たいテレビがあるんじゃ。」
そう言ってバーチャんはテレビをつけた。きっとテレビドラマでも見るんだろう。
「シャワーだけ浴びてくる。」
「ああ、そうせい。」
俺はバーチャんのジョッキと自分の湯呑み茶碗を台所で洗い、新たにお茶を入れ直して仏間のバーチャんに渡した。
俺の出したお茶を啜りながらも、テレビドラマに見いるバーチャんを見て少し安心した。
けれども、これからは飲ませ過ぎないようにしよう。
俺はそう思いながら、シャワーを浴びる支度をするためにスマホとPadを持って寝泊まりしている部屋に向かった。
◆
「バーチャん。お風呂空いたよ。」
仏間のバーチャんに声をかけたが、未だにバーチャんはテレビドラマに見入っていた。
これなら大丈夫そうだと思い、『おやすみなさい』を告げて寝泊まりしている部屋に引き上げた。
布団を敷き、Padとスマホを持って潜り込む。
少し酔いも覚めてしまった。
日記に取りかかる前に、バーチャんの言っていた『ドワーフ』をスマホで調べてみる。
Wikipediaの記載を読んでみたが、今一つピンと来ない。
試しに、「ドワーフ 別世界」で検索してみると『小説』とか『ファンタジー』、『異世界』などの検索結果が出てくる。
「ああ、ドワーフってこれか。」
俺は大学時代に条件付きのデートに誘った『赤い縁のメガネな彼女』を思い出した。
俺では受け入れがたい彼女のBLな趣味の中に、髭の小柄な男性が出てくる話があった。
多分だが、あの話に出てきたのが『ドワーフ』で大凡間違いないだろう。
『ドワーフ』の男性像は、それとなくだが理解できた。
バーチャんは女性だ。『ドワーフ』の女性はどんなものだろうと「ドワーフ 女性」で検索して思わず笑ってしまった。
半鎧を身につけ手には大きなハンマーか斧を持つ姿。
「これで斧やハンマーが鍬だったらバーチャんだろ（笑」
そっくりとは言わないが、雰囲気がバーチャんに似ているのだ。
俺は面白くなって「ドワーフ 酒」でも検索してみると、検索結果は俺の予想どおりだった。
酒が大好物
酒豪
滅多に酔わない
はいはい。
もっとバーチャんに飲ませろと言うことですね。
『国の人』に知られたら、きっと毎日接待で飲ませてサンダースさんや若奥様の話を喋らせそうで怖いな。
バーチャんの正体を知られないようにしないと。
あ、そうだ！
自社製品の事を調べるのを忘れていた。
会社のHPはスマホでも見れたよな？
俺は自社名で検索して自社のHPを開いたが、前のメンテナンス中から変わりリニューアル予定のページが表示された。
前に見たメンテナンス中の表示では月曜の朝＝今日の朝までだったが、新しいリニューアル予定の内容では今週の金曜日になっている。
メンテナンス中に何かあってリニューアルに切り換えたか？
それともメンテナンスと言いながら、リニューアル予定だったが何らかの問題が起きたのか？
確か自社のHPは、社内システム部が担当しているはずだ。
あの自社製品の資料が消えたファイルサーバーのバックアップも、同じ社内システム部が担当しているはずだ。
もしかして、社内システム部で何かあったのだろうか？
そう言えば、そろそろ決算短信が出される時期だ。
もしかしてリニューアルと共に決算短信を公表するのか？
だとしたら、社内システム部はデスマーチ中かもしれない。
少し気になって、自社の決算短信が遅れるようなニュースが出てないかも検索してみた。
さすがにそうしたニュースは見当たらなかった。
この自社の決算短信に関する検索で、過去の公表時期が、GW明けの平日であることがわかった。
ついでとばかりに、過去の決算短信を読んでいたら強烈な眠気が襲ってきた。
