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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月26日(月)☁️/☀️
89/279

8-3 乗用車と小型マイクロバス


 バーチャの話を整理すると、こういうことだ。


 今の理事長は、次の理事長選挙でも勝ち残りたい。

 その為にはいろいろな派閥と言うか、いろいろな考えの方々に支援を貰う必要がある。

 雇用促進と派遣を組み合わせたプランを描いた奴らは、自分達が描いたプランで事を進めたい。

 けれども実際の農家は高齢化も考えて、派遣を使わなくても可能な作物に切り替えたい。


 この両派から支援が欲しい理事長は、派遣をやりたい派には人手の掛からないサツマイモの事を隠し、高齢化が進んでいる農家にはサツマイモ栽培を進めた。


 こんなの『隠し玉』でも何でもない。

 馬鹿が自分で首を絞めてるだけだ。


「まったく。あの原口は昔から馬鹿じゃ。」


 原口?


 思い出した。

 あの理事長って旧姓原口さんに似てるんだよ。

 逆か。旧姓原口さんが理事長に似てるんだ。


 もしかして理事長って、原口さんの親族?



 畑に置いてけぼりにした耕耘機は、誰にも盗られず元のままに置かれていた。


 バーチャんはその耕耘機でニラを収穫した畝の土を全て耕せと言う。


「これ、根っ子が残らないの?」


 バーチャんの畑のニラは畝に直植えしているので、収穫後も畝に根が残っている可能性がある。

 前の作物の根や葉などが残った状態で耕すのは、次に作る作物に影響が出ることがある。


「今日はそれも兼ねて耕すんじゃ。根も拾うぞ。次も同じじゃ。」


 なるほど、耕して根っ子を拾う。

 次に耕したときも拾う。

 それでニラの根っ子を排除するんだ。


 俺は緑の無くなった畑で耕耘機を動かす。

 小型エンジンの音が畑全体に広がる。

 2時間ほど前までニラの繁っていた畝は、耕耘機が通ると壊れて行く。

 耕耘機が通って壊れた畝をバーチャんが歩きながら見て行く。

 バーチャんはニラの根っ子を見つけては袋に入れて行く。


 ひととおり畑全体を耕した。

 整備工場のオヤジさんが運転するトラクターでやった時とは違い、耕耘機で耕すのはそれなりに時間を要した。


 俺もバーチャんを習い、耕した後を歩きながらニラの根っ子を拾って行く。


 陽は天井まで登り気温も上がっている。そろそろ昼時だろうか。


「石灰は撒くの?昔と同じで50kg持ってきたけど。」

「どうするかのう。ちと測るか。」


 バーチャんはそう言うと、畑の脇に置いていた農業用コンテナから何やら取り出した。

 2個取り出したそれの1つを俺に渡して説目を始めた。


「酸度計じゃ。5.5より下なら撒くぞ。」

「へぇ~ この先を畑に差せばいいの?」


「畑に差して少し待つんじゃ。」


 バーチャんに言われたとおりに、耕した畑に差してみる。

 差し込んだ反対側にアナログメーターのような物が付いており針が動く。暫く待つと『5.8』付近で針が止まった。


「畑の端まで4~5回差せば十分じゃ。」


 バーチャんの指示に従い畑の中を歩き、拾い損ねた根っ子を拾いつつ酸度計を差して行く。

 先程のニラの収穫は、しゃがんだままの作業が続いて最初は辛かった。

 畑を耕した後の根っ子を拾うのは、しゃがんでは立ち上がるのが辛かった。

 今の酸度計は、歩いてはしゃがむなのでまだ辛くない。


 こうした坦々とした作業を、農協組合の若手の派遣にやらせたら直ぐに音をあげそうだ。

 そんなことを考えつつ、畑全体の酸度計測を終えた。


「バーチャん。大丈夫そうだね。5.5より下は出なかったよ。」

「ワシもじゃ。これなら今日は石灰入れんでも良かろう。」


「じゃあ、今日はこれで終いかな?」

「終わりじゃ。二郎は耕耘機を積んでくれるか。ワシはゴミをまとめとく。」


 バーチャんに言われたとおりに、俺はショッキングピンクの軽トラに耕耘機を積み込む。

 積み込み終わった頃には、バーチャんもゴミをまとめ終わり畑の脇に寄せ終わっていた。



 実家に戻る途中、淡路陵の前を通ると乗用車と小型マイクロバスが駐まっているのが見えた。

 淡路陵に目をやれば、一般の人が入れない垣根の中に作業服を着た作業員らしき人物が何かをしているのが見えた。


 俺は様子を見ようとショッキングピンクの軽トラの速度を落とした。


「なんじゃ。二郎。どうした?」

「ちょっと気になって。」


 作業服を着た人物は、敷き詰められた砂利を熊手で整備しているようだ。


「何人かで来てるようじゃのう。」

「何人かで来てる?」


「眼鏡と一緒に来た連中が調べとるのかも知れん。」


 眼鏡スーツの顔を思い出しながら、ここを調べているであろう人達の心情を考えてしまう。


 サンダースさんや若奥様を見たことも会ったこともないだろうに、月曜の早朝から駆り出される。

 もしかしたら盗聴に関わっていた人達で、数日前からこの付近で頑張っていたのかもしれない。

 結果として何も盗聴できず、今は淡路陵の森の中に入っているのかもしれない。


 そんなこと考えているとバーチャんがつぶやいた。


「これで掃除か草むしりでもすれば良いんじゃ。」


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