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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月26日(月)☁️/☀️
88/279

8-2 5Kgを10袋


 青空の下、バーチャんの指示で畑に繁った全てのニラを収穫した。


 畑から随分と緑が消えてしまった。


 残る緑は今週に収穫予定の新玉ねぎだが、それも既に全ての葉が倒れている。

 これなら数日後には収穫できそうだ。

 この新玉ねぎも収穫したら、畑から全ての緑が無くなるだろう。


「二郎。一旦、組合に納めに行くぞ。」

「畑はこのままでいいの?」


「後で全部返すぞ。次に作るのはサツマイモじゃ。」


 なるほど。

 バーチャんとしては全ての畑をサツマイモにする気なんだ。


 耕耘機を降ろしたショッキングピンクの軽トラに、収穫したニラの詰まった農業用コンテナを積んで行く。

 軽トラの中はニラの香りで埋まった。


 バーチャんを助手席に乗せ、いざ軽トラを出そうとして畑に置かれた小型の耕耘機が気になった。


「バーチャん。置いてって大丈夫?」

「今まで盗られたことはないぞぇ。」


 何とものんきな話だ。

 これが都内だったら、あっという間に盗られてるだろう。


 これも田舎あるあるかも知れない。



「今日はニラか。選別と洗浄は?」

「無理じゃ。畑に置いてきたで。」


 農協の制服を着た職員さんとバーチャんが会話している。


 バーチャんは耕耘機を置いてきた事を理由にして、ニラの出荷前の選別と洗浄作業は任せるのだろう。

 例によって、作業場には農協の職員さんの他におばちゃんが数名いる。


「桂子さん。私達に任せて。」


 おばちゃん達がバーチャんに声をかた。ありがたいことだ。


 その時、乗用車が急ぐように作業場まで入って来た。


 駐車場があるのに何だこの車は。

 作業場に近いのに危ない奴だ。


 すると車からスーツ姿の年配の男性が降りてきた。


「門守さん。ちょっとお話しさせてください!」


 大きな声でこちらに話しかけてくる。

 どこかで見たことがある顔だ。


「お前か。車で入ってくるな。危ないじゃろ!」

「すいません。こちらに来てると聞いて急いでしまって。」


「何の用じゃ。ワシも忙しいんじゃ。」

「お願いです。話をさせてください。」


 何だ?かなり必死だぞ。


「二郎。先にセンターで石灰積んでこい。」

「バーチャんは?」


「こいつに説教しとくで。」


 作業場のおばちゃん達がクスクス笑ってる。

 スーツ姿の年配の男性は、作業場の事務所に促すようにバーチャんを案内している。


 バーチャんの言う『センター』とは「肥料センター」と呼ばれる農協組合の肥料販売所のことだ。

 農協組合から肥料を購入する農家は、この肥料センターで現物を受け取るのだ。


 さて、あの年配の男性は誰だろう?

 見覚えがあるというか誰かに似てるんだよな。

 思い出そうとしていると制服を着た職員さんが話しかけてきた。


「肥料センターに連絡しとくか?」

「ああ、お願いできますか。苦土石灰くどせっかいを5kgの10袋で。」


「5kgを10だね。連絡しとくよ…あ、理事長が事務所に居るのか、電話しにくいな。」


 なるほど、あの人は農協組合の理事長だったんだ。



 肥料センターで準備されていた苦土石灰5kgの10袋を積み込み作業場に戻る。


 作業場に戻ると、既に理事長が乗ってきた乗用車は居なかった。

 奥の方からは賑やかな声がする。

 バーチャんの声も混じっていた。


「あの慌てた顔は笑えたよ。」

「あいつは自分が一人で偉くなったと勘違いしとるんじゃ。お前さんもたまに説教してやれや。」

 理事長さんご愁傷さまです。


「バーチャん。行けるかな?」

「おお、お迎えが来たで。ほな、またじゃ。」

「桂子さん。きをつけてねぇ~」


 作業場のおばちゃん達に見送られてバーチャンが助手席に乗り込んできた。

 いつになく明るそうなバーチャんの顔に俺の気持ちも明るくなる。


「説教は終わったんだね(笑」

「ああ、こっちが疲れたぞ。」


 俺は畑に向けて運転しながら、理事長が慌てていた理由を聞いてみた。


「なんで理事長がバーチャんを探してたの。かなり慌ててたみたいだけど?」

「サツマイモの件じゃ。あれは今度の理事長選で、あいつの隠し玉とか言うとった。」


「理事長選の隠し玉?」

「二郎も気付いとるじゃろうが、最近は年寄りが増えたろ。」


 バーチャんの言うとおりだ。

 バーチャんを含めて周辺の農家は高齢化が進んでいる。


「高齢化対策で組合は人材育成とか言う派遣を始めとるんじゃ。」

「へぇ~派遣って人手を貸し出すやつでしょ。」


「そうじゃ。二郎はよう知っとるのう。」

「東京の俺の仕事でも派遣は多いね。」


「そうか。今はそう言うもんか。」

「その派遣が何か問題になってるの?」


「なっとる。組合で若手を集めて雇用促進とか言うとる。結局はワシらに仕事を教えるのを押し付けとる。」

「わかるわかる。」


「ワシら年寄りは、歳に合わせて作物を作った方が楽なんじゃ。それを無視して自分らの思惑を押し付けとる。」

「それで?バーチャんは何か言ったの?」


「そのまんま伝えたんじゃ。年寄りでも作れて人手のかからん物を作らせろとな。」

「なるほど、それでサツマイモか。」


「ところが人手が掛からんと組合は派遣が減るじゃろ?」

「確かにそうだね。それで理事長が慌てたのは?」


「あいつは理事長になった時に、その矛盾に気付いたんじゃ。」

「ふ~ん。気付くだけまともだよね。」


「そうじゃ。それで理事長はそうした人手のかからん作物を、組合でも取り上げると言うとったんじゃ。」

「それなら、バーチャんも皆も問題ないと思うんだけど?」


「じゃが、今度の選挙前にあいつが欲を出しよった。」

「欲を出した?」


「自分が理事長選で勝つために、派遣をやりたい奴らに良い顔して、ワシらにはサツマイモで口説いてきたんじゃ。」

「それで隠し玉か?」


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