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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月25日(日)☀️/☁️
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7-11 明晰夢その2


 バーチャんの湯上りビールにも付き合った。


 2本目のビールの途中で、バーチャんは録画済みのテレビドラマを見始めた。

 俺も付き合ってテレビドラマを見ながらビールを飲み進めた。

 バーチャんが「外れじゃ」と言いながら録画を削除する度に、グラスの中のビールを飲み干す。

 そして空のグラスを俺に突き出す。


「3本目を開けますか?」

「二郎が付き合うなら開けい!」


 まずい。

 バーチャんが酔ってる気がする。

 前に絡まれたのを思い出す。


 冷蔵庫から3本目のビールを取り出し栓を抜く。

 自分のグラスに半分ほど入れて飲み干し、残りはバーチャんの前に置く。

『眠くなった。おやすみなさい。』と告げて仏間を出た。


 就寝前の歯磨きをして、昔使っていた部屋で布団を敷きもぐり込む。


 布団の中でPadを操作し、礼子母さんの『米軍の門』への拘りと、一郎父さんが『淡路陵の門』を離れようとしなかった理由を調べる。


 すると急激に眠気に襲われた。

 飲み過ぎたのかな?


 少しだけとPadを手放して目を瞑ると、俺は深い眠りに入っていった。



「二郎さん。今日はごめんなさいね。」


 あれ?若奥様(女神様)?

 どうしてここにいるの?


 あぁ。これって夢なんだ。

 自分で夢であると自覚しながら見ている夢。

 『明晰夢めいせきむ』って奴だな。

 つい先週も見た気がする。

 確か帰省した初日だったよな。


 微笑む若奥様は、今日の来訪と同じ服装で俺の向かい側に座っている。

 ここって何処だ?座敷か?

 神棚もあるし、俺が準備した座敷机も座布団もあるから座敷だな。


 座敷机の上には…

 勾玉の入った箱が置かれている。


「二郎さんは、礼子さんと一郎さんの拘り(こだわり)が知りたいのね。」


 若奥様がそう述べた途端に、景色が変わった。


 この景色を俺は知っている。

 小山のような森の手前には砂利が敷き詰められ、石造りの柵に囲われた先には石造りの鳥居が座している。


 淡路のみささぎだ。


 砂利が敷き詰められた手前の垣根に学生服姿の男女、後ろ姿が見える。

 その男女の会話らしきものが聞こえてきた。


「Ichiro atgriezās sākotnējā pasaulē?」

 何語だ?


「あら?変ねえ。言葉が違うわよ。」

「失礼しました。」

 俺の隣から若奥様とメイドさんの声がした。

 あれ?メイドさんも居るの?

 声の方を見ると、若奥様とメイドさんが並んで立っていた。


 メイドさんが後ろ姿の男女に手を突き出す。

 するとビデオの巻き戻しのような映像が見えた後で日本語が聞こえる。


「一郎は元の世界に戻ったことがあるの?」

「この世界に来て直ぐに戻ろうとした。まだ光っていたから中に入れた。勇者様と魔王が魔法を放っていた。」


「お父様と魔王が?!」

「勇者様を手伝おうとしたら、綺麗な女性に手を引かれて連れ戻された。」


 この男女は一郎父さんと礼子母さんだ。

 顔は見えないが二人で間違いない。


「僕は勾玉を使って門を開いて元の世界に帰る。礼子は?」

「私はアメリカに行く。」


「アメリカに鍵はあるの?」

「零士父さんはあると言ってる。それにアメリカはいつも開けてるから。」


「じゃあ、向こうで会おう。」

「うん。待ってる。」


 二人の会話を聞いて、俺は全てを理解した。


 礼子母さんが『米軍の門』に拘ったのは、元の世界に帰るためだ。

 一郎父さんが『淡路陵の門』から離れなかったのも、元の世界に帰るためだ。


「二郎さんは理解できたかしら。」


 若奥様の声がしたと思ったら、景色が戻っていた。

 再び座敷に戻り、目の前には座敷机があり、その中央には勾玉が納められた箱が置かれている。


「理解できました。ありがとうございます。」


 俺は深々と頭を下げた。

 その途端、夢の中なのに強い眠気が襲ってきて深く寝入ってしまった。



 俺は、ふと目覚めた。

 カーテン越しの窓からは朝日が差し込んでいる。

 そして鳥の鳴き声がする。

 廊下の向こうでは足音がする。


 またしても変な夢を見た。

 けれども今回の夢は理解できる夢だ。


 一郎父さんと礼子母さんの拘りに、薄々だが俺は気がついていたのだと思う。


 礼子母さんが日本を離れてまで『米軍の門』の実験に参加したのは、門を使って何かをしたかったのだ。

 一郎父さんも礼子母さんと同じだ。

 一郎父さんも『淡路陵の門』でやりたいことがあったのだ。


 それが、自分の元居た世界に戻る事だとは思いもよらなかった。


 一郎父さんも礼子母さんも、バーチャんや零士お爺ちゃんのように門に関わって、この別世界で生きて行くことを選んだと思っていた。


 けれども戻れるのならば戻りたい気持ちは理解できる。


 誰かに迷惑をかけないのならば。

 周囲の誰にも迷惑をかけないのならば。

 自分のやりたいことを優先するのは、誰かに後ろ指をさされることじゃない。


 そうした気持ちは理解できることだ。


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