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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月25日(日)☀️/☁️
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7-9 電気製品


 白い増設コンセントを見つけ、バーチャんから話を聞いた俺は、お爺ちゃんの部屋に戻るのをやめた。


 以前に俺が使っていた部屋。

 俺が実家で寝泊まりしている部屋が気になり確認した。

 結果的に何も出てこなかった。


 バーチャんが言うには、仕掛けられたとしても、先程のようにメイドさんかメガネ執事さんが見つけてると言う。


 それでも気になって、実家の周囲を散歩がてら歩いてみた。


 既に午後の光は薄れ、周囲には夕暮れの気配が混じり始めていた。


 この長閑のどかな田園風景にそぐわないスーツ姿の人物はいない。

 他県ナンバーの車も見当たらない。

 むしろ8年ぶりに帰省した俺自身が異質に思えてしまった。


 考えてみれば、既に白い増設コンセントが外されてから3時間は過ぎている。

 仕掛けた側が異常に気づけば、直ぐに撤退するのは当たり前だとも思えた。


 実家の母家に帰り、洗面台で手を洗い顔も洗い気を取り直す。

 仏間を覗けば、バーチャんがいつもどおりにお茶を啜りながらPadを操作している。


「なんか見つかったか?」

「いや。何もなかった。」


 そんな会話をして俺は寝泊まりしている部屋に戻り、畳んだ布団に寄りかかりスマホの着信を見るが何も入ってはいなかった。


 自分が盗聴されるなんて思いも寄らなかった。

 バーチャんの話では『国の人』は交代した新任がやったことだろうと言う。

 より早く成果を出そうとしての行為だと言う。

 そうした思考の人物は目にかかることが多い。

 つい先週まで、会社で顔を会わせていたパワハラ課長が例に上げられる。


 実行した人物はバーチャんとも面識のある眼鏡スーツな男性だと言う。

 上司に命令されると倫理観を無くし、疑念も抱かずに従ってしまう。

 山田などが正にその類いだろう。


 自分の成果を出す。

 自分の評価を高める。

 己の立場を守る。

 自分の欲求が満たせれば良い。


 そうした感情を持った者は、いとも容易く倫理観を捨てれるのだと思えた。

 部長もそうした人物なのだろうか…


 俺は頭の中にいろいろなことが渦巻いた。

 今までそうしたことを深く考えたことは無かった。

 自分の人生の中で他者との関わりを、こうした視線でこれ程までに深く考えたことは無かった。


 そんな自分を少し哀れんでしまった。


 ガラリ。


「二郎や。そろそろ鯵を焼かんか?」


 そうだねバーチャん。

 俺もお腹が空いてきたよ。



 晩御飯は残り物の『いなり寿司』と鯵の開き、そして味噌汁になった。


 味噌汁の具は玉ねぎと卵だ。

 俺はこの具が好きだが、大学時代には好奇の目で見られた。

 むしろ皆が言う茄子とか大根、ほうれん草なんて俺には2番手3番手な感じがした。

 こういうのって、実家でどんな味噌汁を飲んで育ったかで違うんだと感じた。


「朝昼晩と『いなり寿司』で飽きんか?」

「美味しいから飽きないけど?」


 俺の誉め言葉にバーチャんが笑みを浮かべてくれた。


「それにバーチャんの作った味噌汁もあるし。」

「二郎は玉ねぎと卵が好きじゃな。」


「話したっけ。この味噌汁を大学の時に周囲に話したら驚かれたよ。」

「お爺さんも礼子も一郎も好きじゃった。二郎も好きになって嬉しいぞ。」


「へー。みんな好きだったんだ。」

「二郎の嫁さんの条件になりそうじゃな。」


 ブフッ。

 味噌汁を吹きそうになってしまった。


「大事なことじゃぞ。食の好みは。」


 バーチャん。確かにそうだね。



 晩御飯の洗い物を済ませ、グリルも磨き仏間でバーチャんと一緒にお茶を啜る。


 バーチャんには、聞いておこうと思うことがあった。


「国の人が来て何かすると、ケンタさんや若奥様が来るの?」

「何を言っとるかわからん。」


 先程の白い増設コンセントは『国の人』がやらかしたことで、それを見つけたのはコスプレ集団だ。


「ごめん。今日みたいに『国の人』が盗聴器とか仕掛けると、神様や女神様が来るの?」

「メイドや執事が来ることが多いか…」


「一人で来るの?それとも二人で?」

「どっちもありじゃが、来ないこともある。」


「来ないこともある?」

「お爺さんの部屋のテレビとかこのテレビとか…」


「ちょ、ちょっと待って。このテレビって、これも『国の人』が持ってきたの?」

「そうじゃ。」


「最初に持ってきた時は映ったが、急に映らんくなった。」

「何だそれ?」


「眼鏡がいるじゃろ。」


 バーチャんの言う「眼鏡」とは、付き合いが長いと言っていた『国の人』の眼鏡スーツな男性のことだろう。


「あいつが持ってきたんじゃ。『テレビドラマが好きな桂子さんへ』とか言うて置いてった。何か全局見れる箱も置いてった。」

「えっ?」


 俺はテレビの脇に置かれたリモコンでテレビをつけ、更にリモコンを操作して番組表を出してみた。

 前にバーチャんが操作している時には気付かなかったが、これって都内と同じ局に関西方面や淡路島テレビまで入ってる。


「ケーブルテレビ?」

「そうじゃ。いろんなドラマが見れるぞ。」


 これって最初は盗聴器とか入ってたんじゃないのか?


「眼鏡が持ってくる電気製品は直ぐに壊れる事が多いんじゃ。だが便利じゃから助かっとる。」


 それって壊れるというか…

 『国の人』にしてみれば壊れるで合ってるな。


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