7-6 Write a diary
仏間で仏壇に手を合わせるバーチャんを残し、俺は座敷の片付けをしていた。
4人に出された湯呑みを台所に運び、座布団を片付け座敷机も片付ける。
神棚に置かれた勾玉の入った箱が気になり、神棚に一礼して箱を取り出し蓋を開けてみた。
やはり勾玉の色合いが、俺が受け取った時よりも鮮やかな感じがする。
手に取ってみると、鮮やかな色合いの勾玉は神々しい感じがするほどだ。
蓋を閉めて神棚に戻し一礼する。
台所で湯呑みを洗いながら、コスプレ集団+若奥様の正体を考えてみた。
・サンダースさん
神様なの?
『ホッホッホ』とか神様っぽい喋り方だった。
・若奥様
神様の側仕え(そばづかえ)?
けれどもサンダースさんにタメ口だった。
・メガネ執事さん
あの方こそ側仕えだな。運転手だし。
廊下で立ったままだったから護衛も兼ねてる感じだな。
・メイドさん
この方も側仕えだと思う。
勝手に焼香してたからお爺ちゃんや一郎父さんと礼子母さんに関わりのある方なんだろう。
◆
来客用の湯呑みを洗い終え、新たにお茶を入れ直してバーチャんがくつろぐ仏間に運ぶ。
礼服から普段着に戻り、髪も下ろしたバーチャんはいつもの姿だが化粧が僅かに残っている。
そんなバーチャんは相変わらずな姿勢でPadを操作している。
バーチャんにお茶を出しながら仏壇前の供物台を見ると、白い包み紙に被われた箱が置かれていた。
メイドさんの供え物だろうと手にとって、白い包み紙に透けて見える文字を見る。
「中身は何じゃ?」
「赤福かな?そんな文字が見えるよ。」
「赤福なら伊勢に寄ったんじゃな。」
白い紙に包まれた赤福を供物台に戻し、お茶を啜りながらPadを操作するバーチャんに視線を戻す。
バーチャんは今日のことも日記に書くのかな?
そんなことを考えて、俺はハットした。
バーチャんはどうやって日記を書いてるんだ?
ついこの間、日記の監修作業で直し方を見せてくれた。
その際にキーボードを叩く様子も無かった。
間違いと思える場所を指定してボタンを押すだけ。そんな感じだった。
それなのに俺が学んでいる大量の日記の中には、バーチャん視線の日記もあった。
一郎父さんは…
『gate』を『gaye』と入力ミスするんだから、自分でキーボードを叩いてるんだよな。
零士お爺ちゃんは?
監修の副業。最初はお爺ちゃんの仕事だと言っていた。
ならばお爺ちゃんは、自分で入力していたんだろう。
礼子母さんは?
お爺ちゃんの仕事を引き継いだとか言ってたから、礼子母さんは自分で書いてるんだよな。
バーチャんは?
まてまて。メールの使い方を教えた時に自分で入力してたよな?
けれども俺が帰省してから、バーチャんがキーボードを操作して日記を書いてるのなんて見てないぞ。
例えば今日のサンダースさんの来訪なんて格好の日記材料だ。
当然、バーチャんは日記に書くよな?
「バーチャん。今日のことは日記に書くの?」
「何がじゃ?」
「サンダース…神様と若奥様が来て勾玉に…」
「ふふふ。書くと思うか?」
えっ?書かないの?
「あの三人のことは日記には残さん。前に書いたら国の奴らが知りたがって煩くて煩くて。二度と書かんと言うたら黙りよった。」
『国の人』。ご愁傷さまです。
「そういえば、バーチャんは自分で日記は入力してるの?」
俺がそう聞くと、バーチャんがニヤリと笑う。
バーチャんはテレビ台の引き出しを開けて、小振りなキーボードを取り出してPadに接続して俺に聞いてきた。
「二郎も少し揉まれるか?」
「えっ?揉まれる??」
「何事も経験じゃ。」
そう言ってバーチャんはキーボードをカタカタと叩き、次の文章を見せてきた。
Today was her first visit in a long time.
When she touched the comma-shaped gem, the light returned.
I am not interested in receiving questions or answers on this matter.
バーチャん。
そこで日記を英語で書く理由を教えてください。