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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月25日(日)☀️/☁️
76/279

7-1 淡路陵


 鳥の鳴き声とカーテン越しの明かりで目が覚めた。


 今朝はバーチャんが起こしに来ない。

 俺は自分で起きて着替えも済ませ布団も畳んだ。


 顔を洗うときに鏡を見た。

 昨夜は目から汗をかいたせいか、少し目の回りが腫れぼったい。


 座敷に入り神棚に手を合わせる。

 続いて仏間でも手を合わせる。


「バーチャん。今朝はどうしたの?」

「今日は日曜で休みで放置じゃ。」


 台所で豚汁を温めるバーチャんに声をかける。

 そうか今日は日曜日なんだ。

 有給休暇を取得したのが月曜日。

 もう一週間が過ぎるんだ。


「目が腫れとるで。」

「そ、そうかな…」


「日記で泣いたか?」

「バーチャん。それだけど…」


「なんじゃ?」


 日記のことを聞こうとして、俺は自分で止めた。


「何でもない。」

「そうか。そうか。」


 バーチャんの気持ちを聞いてどうする。

 バーチャんの気持ちはバーチャんのものだ。

 俺がそれを聞き出してどうする。


 食卓に座り豚汁と『いなり寿司』で朝御飯を済ませる。


「今日はバーチャんも休みだろ?」

「休みじゃ。昨日は夜更かししたんか?」


「いや、気がついたら寝てた。」


 半分、泣きながら寝たんだけど、俺は言えなかった。



「ちょっと散歩してくる。」


 朝御飯の洗い物を済ませ、俺はバーチャんに散歩してくると告げ外に出た。


 今日も空が青い。

 ピヨピヨと聞こえるのはヒバリの鳴き声だろう。

 青空の下、県道の両脇には田園風景画広がる。

 その田園風景の中に、鬱蒼とした木々が茂った小山が見える。

 田園の真ん中に森が鎮座しているようなこの景色は、見る人によっては違和感を覚えるだろう。


 小山の正面まで近寄ってみる。

 砂利が敷き詰めらた厳かな佇まい。

 石造りの柵に囲われた先には、石造りの鳥居が座している。


 人が入れるのは、砂利が敷き詰められた庭を囲う低い垣根の手前まで。

 石造りの柵や鳥居までは近寄れない。

 石造りの柵の手前には屋根付きの案内板が置かれている。


 淳仁天皇 淡路陵


 一、みだりに域内に立ち入らぬこと。

 一、魚鳥等を取らぬこと。

 一、竹木等を切らぬこと。


  宮内庁


 そう、ここが『淡路陵』である。


 こうして淡路陵の前に来ると、自分の存在意義を考え直してしまう。


 あの鳥居の奥。

 あの鬱蒼と茂る森の中。

 そこに別世界に繋がる『門』がある。


 その門からバーチャんは現代世界にやって来た。

 その門から一郎父さんは日本にやって来た。

 そして俺を育んでくれた。


 考えてみれば礼子母さんも別世界から来たのだ。

 バーチャんは一郎父さんも礼子母さんも日本人ではないと言った。

 そんな二人から生まれた俺も日本人じゃないのだろう。


 先週の今頃は休日出勤で職場に向かっていた。

 そしてついに心が折れた。

 別世界の人間をここまで酷使する組織に何故に俺は縋る(すがる)のか。


 俺は何なのか。

 俺が自分で学んで考える。

 俺が自分で考えて学ぶ。

 これからは、そうした生き方をしよう。


 そうした思いを心に強く抱いた。



「バーチャん。ただいま。」


 朝の散歩を終えた俺は実家に戻った。

 母家の玄関を入り、バーチャんに声をかけるように帰宅を伝える。


「おう。お帰り。」


 仏間の方から声がする。

 俺は声のした仏間を通り過ぎ、神棚のある座敷に入る。


 俺は神棚に手を合わせ祈る。

 淡路陵は亡くなった天皇を奉った場所だ。

 そこに詣らせていただいたことを、手を合わせながら神棚に向かって伝えた。


 合わせた手を解き、今度は仏間に入り仏壇に手を合わせる。

 お爺ちゃんと一郎父さんに、淡路陵に詣ったことを心の中で伝える。


 そんな俺をバーチャんは見て見ぬふりをしてくれた。


「バーチャん。今日は買い物の予定とかある?」

「今日はないぞ。」


「なら、昼までお爺ちゃんの部屋に籠るね。」

「おお。わかった。」


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