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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月24日(土)☀️/☀️
72/279

6-4 サツマイモ


「今日は、ありがとうございました。」

「二郎くん。また頼むよ。」


「こちらこそです。じゃあ来週、トラクターを借りる時に連絡しますね。」

「おう。待ってるぞ。」


「それじゃあ、お疲れさまでした。」


 今日は本当に整備工場親子に世話になった。

 整備工場親子が自分達の畑を耕した後で、バーチャんの畑も耕して貰った。

 これをバーチャん一人にやらせたら大変だっただろう。


 バーチャんの畑で残っている新玉ねぎは、バーチャんの判断で来週に全て収穫する事になった。

 収穫が終わった畑を耕す際に、整備工場のオヤジさんがトラクターを出すと言ってくれたが俺が取りに行くことで説得した。

 来週ならば、俺も有給休暇中で手伝える。

 俺が居る間は俺がバーチャんを手伝いたい思いがある。

 整備工場親子の手伝いを、毎度あてにするわけには行かない。



 畑からの帰り道、運転は俺が申し出た。


「バーチャんの『いなり寿司』、旨かったよ。」


 俺は実家に引き上げる車中で、バーチャん手作りの『いなり寿司』を誉めた。

 俺の言葉に、バーチャんは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


 バーチャんお手製の『いなり寿司』を食べたのは久しぶりで、本当に旨かった。


 俺は明日の予定を聞いてみる。


「そうだ、明日はどうするの?」

「明日は休みじゃ。二郎も毎日の畑は辛かろう。」


 大丈夫だと言おうとしたが、逆にバーチャんの体調を考えてしまった。

 毎日のように、80歳を過ぎた老体を畑に向かわせるのは問題だろう。

 そうしたことも含めて、バーチャんは新玉ねぎの後作には、サツマイモを選んだのだろう。



 実家に到着したら、バーチャんの持ってきた番重を先に母家に運ぶ。

 バーチャんには申し訳ないが洗い物をお願いした。


 その間に俺はショッキングピンクの軽トラを車庫のような建物に納め、充電装置を繋ぐ。

 充電が始まったことを確認して母家に入ると、洗い物を終えたバーチャんがスマホに向かって悪態をついていた。


「今度文句を言ったら、全部引き上げるぞ。」

 バーチャん。何を引き上げるの?


「おまいさんも6月に辞めるんか。」

 バーチャん。何を辞めるの?


「たかだかサツマイモで煩いんじゃ。」


 そう言ってバーチャんは通話を切った。


 サツマイモ?


 さっきの整備工場親子との会話でも出てたよな?

 バーチャんが叱り飛ばしてる相手は誰だ?

 まさか整備工場親子じゃないだろうな?

 来週には、俺がトラクターを借りに行くんだ。喧嘩しちゃ不味いだろ。


 そんなことを考えていたらバーチャんと目があった。


「二郎か。電源は繋いでくれたか?」

「うん。繋いどいた。今の、誰?」


「組合の馬鹿じゃ。」

「あぁ…」


 俺は察した。

 整備工場親子が言っていたバーチャんの組合情報の事だ。


 バーチャんが、事前に農協組合内部の話しを知ってるらしき事を言っていた。

 整備士親子のマクド店長が、農協組合で聞いてくると言ってた件だろう。

 事前に知られていない筈の話を問われたら、農協組合も驚くだろう。


「あの馬鹿は幾つになっても変わらん。馬鹿は馬鹿のままじゃ。」

 バーチャん。怖いんですけど。


「ごめんバーチャん。先に風呂を済ませて良い?」


 俺はバーチャんの怒りを反らすのと、体を纏う埃と玉ねぎの匂いを消すため風呂に入ることにした。



「バーチャん。お風呂ありがとうね。」

「晩御飯はどうする。」


 本日もジャグジーを楽しんだ俺は、仏間でお茶を啜るバーチャんに風呂が空いたことを報告する。

 するとバーチャんは晩御飯の打診をしてきた。

 そう言えば、今日の晩御飯は鯵の開きを焼く予定だ。


「いなり寿司が残っとるんじゃ。」

「どのくらい残ってるの?」


「かなりじゃ。」

「かなり?」


 台所に繋がった食卓を見ると、黄色い小山が見える。

 これって昼食で食べたのと同じ、いやそれ以上ある気がする。


「バーチャん。これって明日も大丈夫だよね。」

「今朝作ったで、明日一日は大丈夫じゃろ。」


 バーチャんやらかしたな。

 さて、どうするか?

 鯵の開きは明日でも大丈夫だと思うが、明日のすき焼きが遠のく…


「作ってから気づいたんじゃ。今日の人数が気になって電話したら二人だけと言うで残ったんじゃ。」

「晩御飯はこれで十分だよ。」


「そうか。なら豚汁でも作るか?」

「ありがとう。明日の朝も同じで良いよ。」


「ほな、豚汁は2回分で良いな。」

「うん。お願いします。」


 朝御飯も同じにすれば、バーチャんの朝の負担も無くせて、少しは楽をさせれるだろう。


「明日は畑も休みでしょ。バーチャんも少しは休もう。」

「二郎は優しいのう。」


 こうして明日の朝は、バーチャんもゆっくりできることが決まった。


 バーチャんが台所に行ったので、俺はお爺ちゃんの部屋に向かった。

 だが部屋の前で足を止めた。

 社内メールを見ようと思ったが止めた。


 この土日は仕事を考えずに、有意義に過ごすと決めたんだ。

 社内メールを見るのは止めよう。


 バーチャんを真似て仏間でくつろぎながら日記を読もう。

 明日はもっとのんびりと過ごそう。


 そう考え直し、昔使っていた部屋に入り充電していたスマホを見るとLINEが入っていた。


「土日は休みです。センパイも休んでください。」12:02


 彼女も土日は休めるようだ。

 俺は少し安心しながら、充電器からPadを外して仏間に戻った。


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