6-2 畑を耕す
「じゃあ、二郎くんは残りの葉っぱえを拾ってくれるか。」
「了解です。どこからやります?」
「オヤジは脇から入るから…あ、来た来た。」
畑に通じる農道を見れば、こっちに向かってトラクターがゆったりと進んでくる。
黄色の方向指示器を両側に4個づつ付けて、それら全部を点滅させながら向かってくる。
トラクターには畑を耕すための機械が付けられている。
その上部には大きな文字で、『公道走行許可済み』と書かれた看板が据えられていた。
こうした畑を耕すための機械を『作業機』と呼び、以前は公道を走行する際には取り外していた。
警察も取り締まる際には、作業機を付けているかを基準にすることがある。
何故なら、方向指示器が見えるかどうかで整備不良を指摘できるからだ。
「オヤジー。どっちから入れる!」
店長さん。相変わらず声が通る。
「廃棄を道路側に寄せてくれ。奥からやるからぁ~!」
オヤジさんは声が大きい。
「二郎くん。奥からやろう。拾ったのは持ってきた袋に入れてくれ。」
とおる声と大きな声で作業の流れが決まった。
俺とマクドの店長で畑の奥に行き、畝の両側に立って玉ねぎの葉を拾っては袋にいれて行く。
少し歩いては葉を拾うためにしゃがみ込む。
拾った葉を袋に入れる度に玉ねぎの香りが広がる。
畑の土は昨日の雨でそれなりの湿り気が残り、その湿り気が歩きやすさを作ってくれる。
きれいな青空の下で軟らかな土の上を歩くのは、舗装された都心を急ぎ足に歩くのとは違った感覚だ。
足腰に優しい感じがする。
それでも立って歩き、しゃがんで拾うの繰り返しは下半身に負担を感じる。
これは明日も筋肉痛だな。
筋肉痛は明後日じゃないよな?
畝を3本分を終えた付近で、オヤジさんがトラクターを動かして畑を耕し始めた。
俺と店長は次の畝へと移動し、トラクターに追い付かれないようにどんどん拾って行く。
「あの方向指示器が公道走行キットなの?」
「オヤジは着け過ぎだよ。」
「あれだけ着けないと公道を走れないかと思いましたよ(笑」
今も畑を耕しているトラクターは、全ての方向指示器を点滅させている。
「あの看板は?あれも必須なの?」
「あれは着け替えさせた。前は『公道走行キット販売中』に電話番号まで書いてたんだ。」
「そ、そうなんですか…」
オヤジさん。商売熱心で何よりです。
それにしても整備工場親子の畑は広い。
昨日はどれだけ新玉ねぎを収穫したのかと気になるほどだ。
この大きさと比較したら、隣のバーチャんの畑がまるで家庭菜園に見える。
陽が高くなり暑さが増してきた。
何とか畑全面の葉を拾い終えると、オヤジさんの運転するトラクターが最後の畝を耕す。
そんなトラクターの向こう側に、ショッキングピンクの軽トラが見えた。
バーチャんが来たと言うことはもう昼時か。
以外と頑張れたな。
やはり早寝早起きが良かったんだな。
◆
「二郎くんは、桂子ばあちゃんの畑も拾っとけ。拾い終わったらオヤジが耕すから。」
「すまんなぁ。二郎や頼めるか。」
「お兄さん店長、葉は一緒にしても良い?」
「一緒にしとけ。まとめて出すから。」
マクド店長とバーチャんの声に答えて、俺は一昨日に収穫したバーチャんの畑に入る。
葉切りと根切りで捨て置かれた物を拾い集め袋に入れて行く。
この作業をバーチャんが一人でやっていたのかと思うと、考えさせられてしまう。
もうバーチャん一人じゃ無理なんじゃないだろうか。
やはり俺が戻ることを本気で考えないと…