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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月19日(月)☁️/☁️
6/279

1-5 センパイ


 無事に新幹線の自由席を確保できた。


 出入り口の直ぐに席を確保できたので、キャリーバッグは自席の後ろだ。

 夕刻前の車内は空き気味だったので、二人席の窓際に座り隣にはパソコンの入った専用ケースを置いている。

 ちょっと贅沢な使い方だ。


 誰か来たら専用ケースは俺の膝の上だなと考えていると、ウエストポーチから振動を感じる。


 電話? また会社からか?


 スマホを取り出すとLINEの着信だった。画面に意味不明な言葉が出てくる。


「集団お見合いですか?センパイ!」


 添えられたスタンプはクックッと笑っている感じで、少しイラッとする。


「誰がお見合いだって?」


 そう返すと、暫くして返事が返ってくる。


「課長が言いふらしてる」


 再び課長に左フックをプレゼントしたい気分になった。


「祖母の様子見を兼ねた帰省だよ」


 そう返すと既読がついた。


 俺をセンパイと呼ぶ彼女。


 彼女とは先輩&後輩な関係ではない。

 確かに年齢的には俺が年上だが、同期入社の同僚だ。

 俺が就職留年なので年上だと言うことから、俺のことを『センパイ』と呼んでくる。

 彼女は俺が就職留年しているのを知っている。

 同じ大学だったからな。


『先輩ですよね?』


 入社後のオリエンテーションで、声をかけてきた女性がいた。

 それが彼女だ。

 リクルートスーツを着こなし、真っ黒な髪はショートボブ。

 まさに新入社員な装いの女性から『先輩』と声をかけられる繋がりはないはずだ。


 大学最後の就職留年した1年は、ジム通い、バイト、大学ゼミの手伝い、そして就職活動のローテーションで過ごした。

 彼女を作った記憶もない。

 ほぼ女性との接点なしで過ごしたのだ。


 彼女の顔は入社面接でも見かけなかった。

 けれども手伝っていた大学のゼミにいた一人なのを思い出した。


 そんな彼女が、何でこの会社にいるんだと思ったのも今では少し懐かしい。


「私も参加できますか?」


 えっ?


「その集団お見合い、私も参加できますか?」


 意味の無いLINEを続ける気にならず、マナーモードで放置することにした。



 乗客の移動する音で目が覚めた。


 少し寝てしまったようだ。

 車内は更に空いた感じがする。

 それなりの人数が新大阪で降りたのだろう。


 二人かけの隣席。

 結局は誰も座ろうと尋ねてこなかったので、ノートパソコン専用カバンは置いたままだ。


 ウエストポーチからマナーモードにしていたスマホを取り出すと、不在着信とLINEの着信を確認した。


 どうせ不在着信は会社だろうとLINEを開くと、


「センパイの田舎、どこですか?」15:08

「山田くんが連絡待ち。」16:00

「山田くんが連絡待ち。その2」16:14

「山田くんがウザイ!」16:31


 俺の個人情報を聞き出そうとする彼女の言葉と、山田の必死そうな様子が笑えた。

 最後のLINEスタンプは怒りを表している。


 車内アナウンスが新神戸の到着を知らせる。

 降りる支度をしようとスマホをウエストポーチに戻そうとすると、一瞬だけスマホが震えた。


 不在着信を見るのは面倒な感じがしたので見ない。


 ここからバスに乗り換えて郷里に向かう。



 俺が育った郷里。

 バーチャんの住む所。


  淡路島


 それが俺を『センパイ』と呼ぶ彼女にも教えていない、俺の郷里だ。

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