4-8 会社の製品
確かに俺の言葉に配慮が足りなかった。
特に有給休暇を取ってから、配慮不足で俺の失言が増えているのかも知れない。
仕事から離れて緩んでるのかな?
それでも「お試し」の言葉に過剰に反応しすぎだよ。
その後、なんとか彼女をなだめて「お試し版」のマニュアルをメールで送付して貰った。
送付して貰ったメールには、怖い言葉が書かれていた。
『今後は私宛の社内チャットは禁止!』
こ、怖すぎる…
恐怖のメールを閉じた俺は「お試し版」のマニュアルを読み込んだ。
だが「お試し版」での制約事項を読んでつまずいた。
実家の日記が納められている環境とは、相性が悪そうなのだ。
「お試し版 Trial version」
検索方式:随時検索
常設サーバ:不要
クライアント数制限:1
原文書フォルダ数:1
原文書数:100
導入価格:0円
この制約では、俺がこれから格闘する大量の日記には太刀打ちできないことが明確だ。
どうするか?
「お試し版」を導入して操作性だけでも試してみるか?
けれども俺が大量の日記から確実な知識を得るには、制約が邪魔をしそうだ。
単純に比較しても
原文書フォルダ数:1 ⇒ 5
原文書数:100 ⇒ 2万件以上
「お試し版」を導入して、操作性に慣れてしまうと制約無しで使いたくなるだろう。
そうだ、製品版でも俺の求める要件に合っているのか?
最後に製品版を導入した場合に、実家の日記が納められている環境とは相性が悪かったら意味がない。
俺はそう考えて、最初に送って貰ったプレゼン資料を開き直した。
最上級クラスの設定を見ると
「製品版 for Big user」
検索方式:バックグラウンド検索
常設サーバ:要設置
クライアント数制限:なし
簡易INDEX:3万語
原文書フォルダ数:無制限
原文書数:無制限
導入価格:1,200万円
かなり良さそうだ。
お値段も良さそうだ。
俺の年収の倍以上だ。
「お試し版」で試してみるかをどうかを悩んでいると、部屋の扉がガラリと開いてバーチャんが入ってきた。
「どうじゃ。進んどるか?」
「ダメ。悩むだけで前に進めない。」
「そうじゃ。ネットは使って良いと言うとったぞ。」
「許可してくれたんだ。バーチャんが言ってくれたの?」
「いや。帰りがけに言うとった。」
そう言いながらバーチャんは俺の隣に座ろうとしたので、俺は横にズレて場所を空けた。
俺のノートパソコンには先ほどまで見ていたプレゼン資料の「製品版 for Big user」のページが表示されたままだ。
「ほぉ~1,200万円か。高いのぉ~」
そう言いながら、バーチャんは昨日と同じようにPadを操作するように画面を指先で触り操作しようとする。
俺は気を利かせてバーチャんの指先の動きに合わせて、マウスでプレゼン資料をスクロールする。
数ページ見て飽きたのか、バーチャんは俺の顔を見て質問してきた。
「これが二郎の仕事なのか?」
「そうだよ。この資料は俺の会社の製品の紹介資料だよ。」
そういえば、俺の会社の製品をバーチャんに見せるのは始めてだな。
「ほぉ~二郎の会社のか。」
「俺は扱ったことは無いけど、俺の会社の製品だよ。」
どうやら、孫の仕事に少し興味を持ってくれたようだ。
「それより秋刀魚を焼いてくれんか?」
「おっと、もうそんな時間?」
バーチャんは立ち上がりながら晩御飯の準備を催促してきた。
そう言えば俺も腹が減ってきた。
お腹が空いたら、孫の仕事よりも晩御飯の方が優先順位は高いよね。