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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月22日(木)☀️/☁️
52/279

4-7 お試し


 社内メールの未読を全て読んだ。

 俺個人に宛てたメールは1通だけ。

 俺が今朝送信したメールへの返信だった。


門守二郎さんへ


 標題の件、承りました。

 本日は終日デスクですので、いつでも連絡ください。


 秦由美子



 電話よりはネット会議の方が良いだろうと準備を進める。

 ネット会議用のソフトを起動し彼女のIDに参加要求を送ると、彼女の顔がノートパソコンの画面に映し出される。


「門守です。見えてます。聞こえますか?」

「秦です。見えます。聞こえてます。」


「接続は大丈夫そうですね。」

「はい。大丈夫です。」


「課長は大丈夫?」

「課長と山田は欠勤です。」


 課長は欠勤2日目か。山田も欠勤?

 部長と何かあったのか?


 あの二人のことよりも、今は例の件だ。


 俺は記憶をたどりながら、彼女がお客様に提案した件の話をした。


「あの案件ですね。」

「関連する資料って手元に残ってるかな?」


「あります。メールで送りますね。」

「おお。ありがとう!」


 そう言いながら画面の中の彼女は、マウスを操作しつつカタカタとキーボードを叩く。


「はい。送りました。」

「早いなぁ~。さすが!」


「それよりセンパイ…」

「ん?なんだ?」


「昨日はすいませんでした。」


 昨日と言えば、彼女が別れ話と勘違いして泣いてしまった件だろう。


 改めて彼女の顔を見ると笑いが込み上げてくる。

 カメラ越しの彼女が、鼻を啜りながら泣いている姿を思い浮かべると、本当に笑いそうだ。


「気にしてないから。」


 俺は出来る限り真面目な顔をする。

 昨日は何も無かった。

 何も気にしてない。

 そんな顔を作って答えた。

 それでも笑いが込み上げてくる。


「半分笑ってるでしょ?」

「いやいや。笑ってない。」


 ダメだ我慢できない。

 思わずカメラから顔を背けて笑ってしまった。

 なんとか笑いを押さえて体をもとに戻すと、それまで彼女が映っていた画面は真っ黒になっていた。

 彼女はネット会議から抜けたのだろう。


 俺もネット会議を閉じて、彼女が送ってくれた社内メールを見る。


「これです。」


 とだけ書かれた一文の下には、プレゼン用資料が添付で貼られていた。


 プレゼン用資料をざっと見る限り、確かに彼女が以前にお客様へ提案したものだ。

 それが更に磨き上げた感じに修正されている。


 なかなか良くできた資料だったため、俺はついのめり込んでしっかりと読んでしまった。

 資料の後半には、お客様自身でセットアップして使える『お試し版』の提供が可能と記されている。

 更に資料を読み進め導入事例を見れば、官公庁や外資系企業の名が並んでいる。

 その導入していただいた企業一覧の中に、懐かしい会社名を見つけた。

 俺が以前に担当し、山田の付き添いで土下座謝罪に行った会社だ。


 資料を全て読み終え、これなら使えそうだと判断した俺は「お試し版」を入手するべく社内チャットで彼女のIDにメッセージを送る。


 門守二郎:秦さん。お試しできる?


 少し待ったが反応が無い。

 社内メールに戻ろうとした時に社内チャットで個室会議への勧誘ダイアログが出てきた。


会議室12番 1名 加藤美奈

【参加する】【後で参加】【お断りする】


 加藤美奈?


 もしかして彼女の同期=俺の同期で人事の美奈か?

 昨夜、勘違いで泣いてしまった彼女を送ってくれた姉御肌な女性だ。


【参加する】を選ぶと個室会議の窓枠が開く。


 加藤美奈:由美子にお試し?随分と大胆ね♪


 違います。あなたの勘違いです。


 その時スマホに着信が入った。会社からだ。


「はい。門守の携帯です。」

「秦です。何のお試しですか!」


 口調が厳しい。


「人の仕事を増やさないでください。ブチッ!」


 そう言って電話がガチャ切りされた。

 気がつけば個室会議の窓枠も閉じていた。


 ノートパソコンの社内チャットの画面には、


 お試しって何?

 お試しって、同棲?

 門守くんだいた~ん

 おいおい

 :

 あの二人ってやっぱり?

 これってプロポーズ?


 延々と続く言葉の羅列に、自分の失敗を思い知った。

 俺の言葉で、彼女の仕事を増やしたことを理解した。


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