4-6 混乱の後継者
「バーチャん。ただいま。」
玄関から入り、廊下の先に声をかけるが返事がない。あれ?
「ただいま~」
仏間に入りながら声をかけると、バーチャんが仏壇に合掌していた。
俺も隣に座り合掌し、墓参りさせて貰ったことを心の中で伝える。
仏壇前の供物台には、今朝は見なかった白い箱と名刺らしきものが3枚置かれていた。
合掌を終えたバーチャんは名刺を回収し、桐でできているでろう木箱に納める。
白い箱は台所に持って行き冷蔵庫にしまった。
「おかえり。」
仏間に戻ってきたバーチャんは、ようやく俺に答えてくれた。
けれども何か静かな感じだ。
思いきって俺はバーチャんに尋ねた。
「何かあったの?」
「あった。」
「何があったの?ネットのこと?」
「二郎のことじゃ。」
「えっ?俺のこと?」
「ああ、二郎のことじゃ。」
何があったんだ?
「二郎は英語が喋れん。」
「はい。無理です(キッパリ」
「カンシュウは継げんじゃろ。」
あぁ~。そう言うことか。
今はバーチャんがやってる翻訳の監修だが、俺では継げないという話だな。
「それに『門』に関する知識もないじゃろ。」
「全く。というかこれからでしょ?」
「実はのう…」
それからバーチャんは『国の人』との今日の話をしてくれた。
俺が帰省する以前から今日は『国の人』が来る予定だった。
俺が『勾玉』と共に帰省したことで、バーチャんは俺と『国の人』を会わせようと考えた。
その為に今日は俺に一日予定を空けさせた。
けれども昨日からの俺との話で、まだ早いと判断して会わせるのはやめたそうだ。
ここまでの話を聞いて、昨日のバーチャんの『継ぐ』という言葉を思い出した。
「バーチャん。そもそも俺には『門』に関する経験が一切無い。だから日記に書かれている事が事実かわからない。」
「そうじゃ。」
「だから翻訳の監修は継げない。」
「そうじゃ。」
「それが… 俺のことなの?」
「そうじゃ。」
あれ?なんか変だ?
そもそも俺は
・『門』についての知識が無い
・『門』についての経験が無い
・英語ができない
これだけ条件が揃ったら、翻訳の監修なんて無理に決まってる。
それを継ぐとか考えること自体が間違いじゃないのか?
バーチャんも『国の人』も、継がせる相手の選別からして間違っているよ。
「じゃから当分はワシが続けるしかないんじゃ。」
はいはい。
バーチャんのおっしゃるとおりです。
俺は後継者にはなれません。
「じゃが、血筋は両方を持っとる。」
血筋?
両方?
なんのこと?
バーチャんが混乱してる感じがする。
これ以上はバーチャんと話しても無駄な気がしてきた。
バーチャんも考えが纏まらない感じがする。
それに今の俺もマクドでメスライオン3匹の餌となって疲れきっている。
「バーチャんごめん。ちょっと仕事を見てくる。」
「…」
俺はバーチャんとの話を打ち切って、お爺ちゃんの部屋に向かった。
◆
お爺ちゃんの部屋に入って、置かれている物の並びが今朝と違うことに気が付いた。
座卓の上には以前から置かれていたノートパソコンが戻され、新たなLANケーブルで繋がれている。
俺が持ち込んだノートパソコンは脇にどけられているが、LANケーブルは朝のままだ。
「これって…明らかに見てるよな…」
俺は自分のノートパソコンを座卓の上に置いたままで部屋を空けたはずだ。
それが入れ換えられているのだ。
俺のノートパソコンからLANケーブルが外されていないということは、俺が勝手に実家のネット環境を使っている証拠になる。
「もう。バレバレだな。」
半ば諦めた。
『国の人』に知られてるならそれでいい。
勝手に使ってダメなら後で叱られよう。
既に先方は俺が勝手に使ってるのを知ってるだろう。
それでも止めなかったら『国の人』も同罪だ。
俺はそう考えながら自分のノートパソコンを開き、社内ネットワークにログインして社内メールを読み始めた。