4-5 軽トラの秘密2
話題に飢えた同級生ママさん3人から、俺は質問責めをされた。
東京の会社は何処だ
まだ一人なのか
東京に彼女はいるのか
うちの旦那(同級生)が会いたいって
いつ空いてる
いつまでこっちにいるんだ
嫁を連れてきたのか
桂子おばあちゃん元気だよね
うちの姑うるさくて
うちなんて出戻りの小姑までいる
どうして彼女を作らないんだ
あの娘が彼氏もいないから紹介しようか
今連絡するね
出戻りの小姑引き取る気ある
それは桂子ばあちゃんと大喧嘩するよ
だめだぁ~出ない~
あっ携帯気にしてる
彼女でしょ~
質問に愚痴が混ざってる気がするんですけど…
それにスマホを見たのは、着信を確認しただけです。
着信は無かったけど…
◆
疲れた。目一杯疲れた。
遊び疲れた子供達が戻ってきて皆が帰ることになり解放された。
ママさん3人は帰るとなったら素早い。
とっと子供の手を引いて消えていった。
俺は食事した気になれなかった。
スマホを見れば14:00。
あれから俺はきっちり2時間も餌となっていたのだ。
ママさん3人と会話していて中学時代の様子を思い出した。
そういえば、いつもあの3人で行動していたような記憶がある。
ママさん3人は同じ高校に進んだはずだ。
中学卒業後も結婚した後も、ママになってからも、あの3人は仲が良いままなのは微笑ましく思えた。
きっと自分が餌でなければ、今は笑顔でいられただろう。
ここでふと思った。
俺には中学時代から今まで、あそこまで仲の良かった友人がいただろうか?
農協のバイトに誘ってくれた友人とは高校が別だった。
だがバイトに誘ってくれるほどの仲ではあった。
けれども彼は原付きを手に入れた後に、さらに大きなバイクを手に入れ夜中に爆音で街中を走り回る行動に生きがいを求めた。
そうした行動にどうしても理解を示せなかった俺は、彼とはその後は疎遠になってしまった。
さらに考えてみれば、俺のいた中学から同じ高校に進んだのは、全学年で20名ほどだった。
バーチャんのすすめで遠距離だが進学校に入ったため、少なかったのだ。
その少なさからか、高校で出会っても軽く挨拶する程度だった。
これでは、あの同級生ママさん3人のような仲は築けないだろう。
そもそもの分母が少ないのだ。
「お疲れ。」
テーブルを掃除に来た店長の声が優しい。
けれどもあなたは、俺をメスライオンの檻に押し込んだ飼育員なのを忘れないで欲しい。
そうだ、このお兄ちゃんに聞きたいことがあった。
「あの軽トラって市販してるの?」
その言葉に店長は俺を見る。
「市販してると思うか?」
ですよねぇ~
俺の質問が悪かったです。
疲れた俺はそれ以上の質問を店長にする気になれなかった。
◆
実家に戻ると、黒塗りの車は既にいなかった。
ショッキングピンクの軽トラを車庫のような建物に納め、昨日バーチャんが軽トラと接続していた装置を見る。
それは軽自動車で有名な企業のロゴが入った充電装置だった。
装置に書かれた説明を見ながら充電ケーブルを繋ぎボタンを押すと、充電中を知らせるランプが着いた。
この充電装置もセットで置いてくれたんだろう。
元整備士で、今は店長なお兄ちゃんの言葉では市販していないと言っていた。
だが、充電装置にはしっかりとロゴが入っている。
きっと近日中に市販されるのだろう。
疲れた俺の頭では、その程度の思考しか出来なかった。
俺は勝手にそう信じながら、バーチャんの待つ母家に向かった。