4-3 黒塗りの車
「一昨日と同じスーパーで良いの?」
墓参りからの帰り道。
せっかく車を出したのだから、晩御飯の買い物を済ませたいというバーチャんの提案でスーパーへ向かうことになった。
一昨日プチ同窓会になったスーパーだ。
軽トラの液晶パネルの時計を見れば未だ昼前。
スーパーで買い物を済ませ、昼時に戻ってテレワークをすれば問題ないだろう。
そんなことを考えながら駐車場に車を駐め、バーチャんと共にスーパーに入ると制服姿の女性に声をかけられた。
中学時代の同級生だった女性だ。
「桂子おばあちゃん。こんにちはー」
「おお、今日も買いに来たんじゃ。安くせい。」
バーチャん。ジョークだよね。
スーパーで値引きは難しいと思うよ。
「門守くん。帰省中なんだって?」
「2週間ほどね。」
社交辞令が混じっていると思いたい言葉で適度な会話を済ませ、俺もバーチャんを見習いジョークを一つ。
「今日のおすすめは?」
「ここはスーパーだから全部ですね。(ニッコリ」
はいはい。俺の負けです。
その言葉は俺の突っ込み用です。
先に言われては俺の負けです。
「二郎のジョークはオヤジ混じりじゃ。」
ば、バーチャんに言われると凹むんですけど。
少し凹みながらも買い物を済ませる。
今日の晩御飯は俺のリクエストで秋刀魚の開きになった。
もちろん明日の晩御飯用に鯵の開きも購入した。
「俺が来てから毎日が焼き魚だけど、バーチャんは飽きたりしない?」
「かまへん。グリルさえ洗ってくれればよか。」
バーチャん。
俺の我儘に付き合ってくれて、本当にありがとう。
◆
ショッキングピンクの軽トラで実家に近づくと、実家の前に黒塗りの大きな車が駐まっている。
墓地の駐車場で見たのと同じ車だ。
こちらの軽トラに気が付いたのだろう、助手席から俺と同い年ぐらいの眼鏡をかけたスーツ姿の男性が小走りにやって来る。
最初は俺の座る運転席側に向かってきていたが、バーチャんが助手席に座っているのを見るなり助手席側に回った。
「まだ昼飯前なんじゃ。」
バーチャんは助手席の窓を開け、平然と眼鏡スーツな男性に声をかける。
バーチャんの知り合いだろうか?
「早かったですね。申し訳ありません。」
「さっき見たで来ると思うとった。」
「出直しましょうか?」
「…」
バーチャんが一瞬黙った。
続けて驚く言葉を口にした。
「どうするかのう。二郎は挨拶しとくか?」
「挨拶?」
その言葉で俺は察した。
この人はバーチャんが言っていた『国の人』じゃないだろうか?
「お、俺は… ごめんなさい。」
俺は思わず謝ってしまった。
実家のネット環境は『国の人』だか『米軍』な方々が整備したものだ。
それを勝手に使って俺は実家からテレワークしているのだ。
そのことを思い出し謝ってしまった。
「そうじゃな。二郎にはまだ早いな。」
「では、私も挨拶は無しでご容赦ください。」
ええ?勘違いしてる?
いや待て。ちょうど良いかも?
心構えの出来ていない今の俺では、急に『国の人』から挨拶されても受け止められない。
「今日は2時間ぐらいで済むか?」
「はい。2時間で済ませます。」
バーチャんからの時間制限に眼鏡スーツな男性は素直に答える。
「二郎。スマンが2時間出とれ。昼飯はマクドで我慢じゃ。車は貸しとく。」
バーチャんはそう言うと、助手席のドアを開けて軽トラから降りて行った。
「バーチャん。買い物は俺が運んどく。」
俺はスーパーで購入した物を冷蔵庫に入れる必要があるのを思い出し車を降りようとすると、眼鏡スーツな男に制された。
「それは私が運びます。」
そう言って眼鏡スーツな男は、俺から買い物袋を受け取ると前を行くバーチャんを追いかけて小走りした。
眼鏡スーツな男はそのままバーチャんを追い抜き、買い物袋を片手に大きな黒塗りの車に小走りで近寄る。
運転席の帽子を被った運転手と言葉を交わしたらしく、大きな黒塗りの車は実家の敷地へと入って行く。
眼鏡スーツな男性は、バーチャんが実家に向かって歩いているのをじっと待っている。
買い物袋を片手な姿が少し微笑ましい。
俺は半分呆気に取られながら、この様子をフロントガラス越しに眺めていた。