4-2 農協と墓参り
「おお、二郎くんじゃないか。久しぶりだなぁ~」
「ご無沙汰してます。」
収穫した新玉ねぎを、ショッキングピンクの軽トラで農業協同組合の作業場に持ち込む。
軽トラの運転は、筋肉痛も取れてきたので俺が運転した。
作業場には他の方々からも大量に持ち込まれており、倉庫のような作業場は玉ねぎの香りで埋め尽くされている。
「何処に降ろします?」
「そっちの未計量に降ろしてくれ。」
俺は農協の制服を着た職員さんの指示に従って、新玉ねぎが詰まった農業用コンテナを降ろして行く。
「今日は二郎くんがいるから…」
「少し元気の無い二郎じゃが…」
バーチャんと農協の職員さんの会話には耳を貸さない。
今さら止める気にもならない。
「これで全部ですね。」
「選別と洗浄も手伝ってくか?」
農協の職員さんが聞いてきたのでバーチャんを見ると、首をふっている。
「すまんが頼めんか?手間賃は引いといてくれ。」
「わかった。いつものとおり引いとく。」
どうやらバーチャんは販売出荷のための洗浄や選別作業は、いつも手伝ってはいないようだ。
作業場には農協の職員さんの他におばちゃんが数名おり、この方々がやってくれる。
このおばちゃんたちも、手間賃をもらって作業しているのを俺は知っている。
高校の頃に中学時代の友人に、こうしたバイトに誘われたことがあるからだ。
俺はバイトは断ったが、友人は参加してバイトで得た金で中古の原付を買ったのを覚えている。
「それでは、後はお願いします。」
農協の職員さんに声をかけ運転席に乗り込み、バーチャんにこの後の予定を尋ねた。
「バーチャんこの後は?」
「墓参りに行かんか?」
昨夜に相談する予定だった墓参りの話をバーチャんからしてくれた。
「行こう。墓参りに行こう。」
俺はバーチャんの提案に大いに賛成した。
◆
一旦実家に戻り、作業着から着替える。
朝のテレワークをしようか、今朝方に彼女に頼んだ件の返信が来ていないかが気にはなった。
けれども昨夜の様子を思い出し、彼女に返信を催促するのは得策でないと考えやめることにした。
スマホを見たが着信は入っていなかったので、念のためにスマホだけは持ってきた。
着替えを終えてバーチャんとショッキングピンクの軽トラに乗り込み、途中で花を買い求め墓に向かう。
久しぶりに見た墓は雑草一つ生えていなかった。
随分と手入れがされている感じがする。
バーチャんが間を開けずに来ているのだろう。
それでも風雨にさらされる墓は、それなりに汚れるので掃除から始めた。
墓前で合掌してから枯葉などの目立つゴミを拾う。
墓石に水をかけながら雑巾で汚れを落として行く。
掃除が終わったら手桶にきれいな水を汲み柄杓で墓石に打ち水をして清める。
花立にお花を入れ水鉢(墓石中央のくぼみ部分)に水をいれお供え物を置く。
最後にお線香をあげ、バーチャんと俺で合掌する。
「お爺ちゃん。父さん母さん。俺は皆の残してくれた日記を読み始めました。バーチャんの言うとおりに皆の思いを理解できるように努めます。あたたかく見守ってください。」
俺はこれから皆が残したものから何を学ぶのかもわかっていない。
それでも皆が残したものを読み込み学ぶことになる。
俺の一方的な好奇心から学ぶのだ。
そうした行為は皆が残した畑を踏み荒らすに等しい行為かも知れない。
それでも俺が学ぼうとしている姿勢でいる今は、あたたかく見守って欲しいと願った。
ちなみに墓参りでのお供えは、合掌後は持ち帰ることをおすすめする。
残して行く風習もあるそうだが、墓が荒れることを考えれば残さない方が良いそうだ。
墓参りを済ませ墓地の駐車場に駐めたショッキングピンクの軽トラに乗り込もうとすると、同じ駐車場に大きな黒塗りの車が駐められているのを見かけた。
こんな地方であんな大きな車はあまり見かけない。
しかも黒塗りとは、それなりのお方が乗っているのだろう。
軽トラを出そうとした時に、黒塗りの車の助手席から眼鏡をかけた細身なスーツ姿の男性が降りてきた。
その場でこちらに軽く会釈をしたような気がしたが、俺には黒塗りの車に乗る知り合いはいないはずなので特には気に止めなかった。