3-14 最後の酔っぱらい
日中は新玉ねぎの収穫。
大量の日記との格闘。
酔っぱらいな同僚を電話でなだめること小一時間。
心身共に疲弊した俺は、風呂に入って寝ることにした。
仏間のバーチャんへ風呂を貰うと告げに行くと、バーチャんは既にパジャマのような物を着ていた。
先に風呂を済ませたんだな。
そう言えばさっき、風呂に入れと言っていた。
「風呂、入るね。」
バーチャんは机に置いたPadを見つめていた。
「…」
まださっきの黙りが続いているのだろうと、再度声をかけようすると慌てたようにPadの画面を袖で拭いていた。
「ワシはもう済ませたで…(ズズズ…」
少し鼻を啜るような音。
あれ?もしかして泣いてる?
きっと日記を見て泣いていたのかもしれない。
俺はバーチャんの泣いてるかもしれない様子に触れずに、風呂に入ることにした。
◆
ゴーゴーゴー
ジャグジーの音の中。
明日のことを考えてみた。
明日は、新玉ねぎの収穫を手伝う。
それが終わったらテレワークして、何もなければ大量の日記に戻る。
いやいや、テレワークした時に彼女からお客様に提案した件の話を聞くのが先だな。
その後は…
その後は……
おいおい、俺って実家に帰ってきたのに何も予定が無いじゃないか。
前に実家に帰ってきた時は地震の後片付けをした。
他には少し農作業を手伝って…
他に何かをしたような…
大学時代の帰省ではバーチャんに大学の様子を話して。
友人ができたことを話して。
御飯食べて。
昔の風呂に入って。
少し農作業を手伝って…
他に何かをしたような……
他の人は、実家に帰ったら何をしてるんだろう?
今回の帰省は俺が原因だから、俺の心が落ち着けば良いよな。
日記のこととかバーチャんやお爺ちゃんが別世界の人間だとか。
父さんや母さんまでも別世界の人間だとか。
いろんな話を聞けて…
そうだ!墓参りに行ってない。
前の帰省では墓が壊れてないか見に行ったし。
大学時代も墓参りに行ったじゃないか。
ダメだね。
久しぶりに帰省すると、そうした大切なことを忘れちゃうよ。
風呂からあがったらバーチャんに墓参りを相談しよう。
◆
「バーチャん。お風呂ありがとうね。」
風呂から上がり仏間のバーチャんに声をかけると、バーチャんからビールを飲まんかと誘われた。
「二郎、ビールでも飲まんか?」
バーチャんの言葉に、俺は彼女たちが飲んでいたのを思い出した。
時々は飲んでも良いよな。
日頃のストレス発散と考えれば良いよな。
けれどもほどほどだな。
泣き出した彼女などは、元々が泣き上戸なのかもしれない。
そう言えば彼女とは数回しか飲んだことがなかったな。
彼女もストレスがたまっていたんだろう。
今夜久しぶりに飲んで気が緩んだのかも知れない。
「飲む。」
「じゃあ、出してこい。」
バーチャんにすすめられ、台所の冷蔵庫を覗くと瓶ビールが冷やしてあった。
もしやと思い冷凍庫を見れば、グラスまで凍らせてある。
「バーチャん。準備万端じゃないか。」
凍らせたグラスと瓶ビールを持って仏間に戻るとバーチャんが待ち構えていた。既に一人で一本飲んだようだ。
シュポン!
新たに瓶ビールの栓を抜く。
凍らせていたグラスにビールを注ぎ、バーチャんのグラスも満たす。
「おつかれさま」
と声をかけて軽く乾杯。
グビグビグイ。
ぷはぁ~
旨い。
湯上がりのビール。
最高!
どれどれ。
もう一杯。
おっとバーチャんのグラスも満たして。
グビグビグイ。
ぷはぁ~
旨いなぁ~
「二郎や。」
「なに、バーチャん?」
「別れ話か?」
ブハッ。思わずビールを半分ほど吹き出しちゃったよ。
「違う、違う。別れてない。」
「さっき慰めてるようじゃったが?」
「バーチャん。聞いてたの?」
「若い女が泣いたら慰めるんじゃのう。」
「向こうの勘違いだよ。俺は何もしてないし。」
「さっき、ワシが泣いても慰めてくれなかったのう。」
さっきのバーチャん。
やっぱり泣いてたの?
「やっぱり泣いてたの?」
「二郎が慰めなかったのう。ワシが泣いてもダメじゃのう。」
バーチャん。酔ってるでしょ。
「若い女は慰めるが、年寄りは慰めんのか?ん。慰めんのか?」
お願いです。
酔って絡まないでください。
更に疲れそうなんです…