3-7 違和感の正体
「バーチャん。急にどうしたの?」
「二郎が英語で困っとらんか見に来たんじゃ。」
バーチャん優しい。
けど日本語版があるなら先に教えてね。
「これ。壊れとるんか?」
バーチャんは俺のノートパソコンの画面で、『親指と人差し指でつまんで広げる(ピンチアウト)』な操作をするが何も起きない。
「バーチャん。それPadじゃないから」
「どうするんじゃ?」
「5番目って言うとこれかな?」
俺はバーチャんの隣でマウスを操作し、『\\LAN-DISK5』のフォルダをクリックして開いてみせた。
相変わらず大量のファイルがある。
先ほどと同じく『19XX-XX-XX-XXX』形式のファイル名で、大量のファイルが画面を埋める。
試しに先ほど開いたファイル名と同じ
「1945-07-16-001」をマウスのダブルクリックで開くと日本語が表れた。
1945-07-16-001
トリニティ核実験で魔石が鮮やかな色に変わった。
この魔石を使ってこれから門を開く。
「これじゃ。言うたとおり5番目からが日本語じゃ。」
「…」
「どうじゃ。日本語なら二郎も読めるじゃろ。」
「バーチャん…」
俺は一瞬だが、バーチャんに誰が翻訳したかを尋ねるのを躊躇った。
だが今までのバーチャんの話と俺の違和感に向き合うため、思い切って尋ねることにした。
「これって、誰が翻訳したの?」
バーチャんの顔が一瞬だがハットした感じがする。
そして今まで俺に向けていた顔を少しうつむき気味にして、こう答えた。
「多分だが国の連中じゃ。」
「…」
その言葉に俺は、自分が感じていた違和感の正体に近づいた気がした。
「日本?アメリカ?」
「米軍も関わっとる。」
バーチャんの言葉で俺は確信した。
昨夜のバーチャんの話に出てきた、お爺ちゃんを育てた米軍の関係者とかバーチャんの養育に関わった日本のお役所とか。
そうした連中が、零士お爺ちゃん、一郎父さん、礼子母さんの日記をデジタル化してるんだと。
それに、今見た限りでは日記と呼ばれるファイルには『トリニティ核実験』の文章があった。
昨夜のバーチャんの話では、零士お爺ちゃんは幼い姿でトリニティ核実験で開かれた米軍の門から出て来たはずだ。
それならば今この目の前にある文章。
『トリニティ核実験』に関わる文章はお爺ちゃんが書いたものではない。
お爺ちゃんを育てたと言う、米軍の関係者が書いたものだ。
英文で書かれた原文があり、日本語に翻訳された日本語版が目の前にある。
つまりは日本と米軍で、何らかの共同作業をしていると言うことだ。
「バーチャんは翻訳に関わってるの?」
「ワシは頼まれてカンシュウしとる。」
はい。確定しました。
今バーチャんは『頼まれて』と言いました。
〉多分だが国の連中
〉米軍も関わっとる
〉頼まれて監修
ここまで言葉を重ねられたら、両国が共同で作業しているのは確定だ。
俺はさらに違和感の正体に近づくため、バーチャんに次の質問を投げかけた。
「このLAN-DISKとかWi-Fiは、やっぱり国の人が準備してくれたの?」
「そうじゃ。長ったらしい肩書きの名刺と手土産を持ってときおり来よる。そんでこの部屋で1時間もしたら帰るんじゃ。」
「もしかして、バーチャんが使ってるPadも?」
「Padだけじゃない。そのノートパソコンもそうじゃ。」
そう言って座卓の上に前から置いてあった、LANケーブルを抜き取られたノートパソコンをバーチャんが指差した。
俺はそのLANケーブルの繋がっていないノートパソコンを眺めていたが、急にゾワリとした鳥肌のたつ感じを覚えた。
俺は国が準備してくれたネット環境を使って、平気で会社に繋げてテレワークしちゃったよ。これって大丈夫なのか?
後からお叱りとか受けたらどうするんだよ。
「Supervision work is an important side job of mine.」
バーチャん。
少し落ち込んでる孫に英語で話しかけないで…
流暢な英語を喋るバーチャんの顔は、ニヤリとしていた。