3-6 Padとは違う
「あんなにあるとは思わなかった…」
少しぼやいてみたが、バーチャんはニヤニヤした顔を見せるだけだ。
俺はバーチャんが入れてくれたお茶をのみ干し気を取り直す。
「けれども読まないと何も始まらない。」
「良い心がけじゃ。」
俺はニヤニヤした顔のバーチャんから応援を受け、再びお爺ちゃんの部屋に向かった。
ノートパソコンの前に座り『\\LAN-DISK1』のフォルダを開く。一番ファイル名が若そうなファイルを見つけ開いてみる。
1945-07-16-001
The Trinity nuclear test turned the magic stone into a bright color.
げっ!英語で書かれている。
思わず目眩を感じた。
全てのファイルが英語で書かれていたら、俺はこの大量の日記を読むだけでどれだけの時間を要するかわからない。
しかも理解を深めようとしたら、それでこそ莫大な時間が必要になるだろう。
ファイルを開いたままで腕組みをし思案する。
1.ネット翻訳を使う
ネット翻訳を使えばそれなりの日本語で読める文章になるだろう。
けれどもネット翻訳には安全性に懸念がある。
場合によっては親族の日記をネットに晒すことになりかねない
⇒ 危険すぎるので却下。
2.翻訳ソフトを購入して翻訳する
翻訳ソフトを使っても同じ様な気がする。
自分以外の誰かが作ったものに100%の安全性を求めるのは自ら安全性を放棄するのと同じだ。
⇒ 従ってこれも却下。
3.読めるように英語を勉強する
う~ん。
う~~ん。
⇒ 論外なので却下。
今の俺ではこの程度の策しか思い付かない。
それでも諦めないで、先程の文章を見返してみた。
The Trinity nuclear test turned the magic stone into a bright color.
The Trinity = トリニティ
nuclear test = 核実験のことか?
turned the magic stone = ???
into a bright color = 明るい色?
『magic stone』とか不明な語句だけネット翻訳する手もあるが、そうした不明箇所を洗い出すだけでも大変な作業だ。
日記は残り2万件以上あるかもしれないのだ。
その時、ガラリと部屋の戸が開けられた。
「Can you read a diary written in English, Jiro?」
「…」
バーチャん。日本語でお願いします!
「二郎は英語で書かれた日記が読めるんか?」
「無理です(キッパリ」
「なら、日本語版を読めば良かろう。」
「えっ?翻訳したのがあるの?」
「ある。全部じゃないがある。」
「どこにあるの?」
「直ぐに答えを欲しがるのは変わらんなぁ。貸してみい。」
バーチャんはそう言って、俺を脇に退かす仕草をする。
俺がノートパソコンの前を空けると、今まで俺が座っていた場所にバーチャんがちょこんと座った。
「5番からが日本語の筈じゃが…随分と小さい字じゃのう。」
そう言いながらバーチャんがノートパソコンの画面をPadで操作するように触る。
けれどもPadじゃなくてノートパソコンだから何も起きない。
「なんじゃ壊れとるんか?」
この時に俺はバーチャんの仕草に違和感を受けた。
今朝はバーチャんがIT環境に精通していると誉めたが、この実家の環境の全てをバーチャん一人で整えたとは思えなかった。