3-4 課長の無断欠勤
実家の母家で着替えを終えると、バーチャんが洗濯すると言ったので作業着は洗濯かごに放り込んだ。
他の洗濯物も出せと言われたので、遠慮なくお願いした。
昼飯は洗濯の後だろうと考え、社内メールだけでも確認しようとお爺ちゃんの部屋でノートパソコンを開く。
既に朝方に社内メールを見ているので、未読なメールは数通だった。
それらの未読メールを眺めていると、社内チャットで個室会議への勧誘ダイアログが出てきた。
会議室3番 1名 秦由美子
【参加する】【後で参加】【お断りする】
悪戯心で【後で参加】を選んでダイアログを閉じ、社内メールの続きに戻る。
程なくして、俺のIDに向けてメッセージが届いた。
秦由美子:センパイ参加してください
再び画面に先程と同じ内容で、個室会議への勧誘ダイアログが表示される。
【参加する】を選ぶと個室会議の窓枠が開く。
今までの社内チャットでは、社内チャットにログインしている全員に見えてしまう。
簡単な会話ならばそのまま続けても良いのだが、誰でも見れて誰でも参加できてしまっては社内全体に聞こえるよう大声で喋るのと同じだ。
以前、社内チャットが導入されてまもない頃、昼前に女性社員同士で昼食の相談をする会話が大量に流れているのを見たことがある。
当時の彼女たちは、そうした機能性を知らなかったのだろう。
自分達がどこで食事するかを、社内にばら蒔いていたのだ。
後に個室会議機能に目がつけられ、昼食の相談はそちらでされるようになったらしい。
それでも『お誘い』と言う意味で考えると、少し怖さを覚える。
女性社員同士での「誘う」「誘わない」が、仲間はずれに繋がるからだ。
開いた個室会議の窓枠内に彼女のメッセージが流れる。
秦由美子:集団見合いはどうですか?
門守二郎:お断りする
秦由美子:出なかったんですか?
門守二郎:その話題ならチャットはお断りする
秦由美子:ゴメンゴメン
門守二郎:急ぎの用件か
秦由美子:課長が無断欠勤
門守二郎:ふーん
秦由美子:部長が来てる
門守二郎:?
秦由美子:山田が課長に連絡
ここまでの彼女とのチャットで俺は察した。
昨日の午後に課長が部長に呼ばれて青い顔で戻ってきて早退。
翌日の今日は無断欠勤している。
部長が山田に課長への連絡をさせているが捕まらない。
門守二郎:巻き込まれるな
門守二郎:必要なら電話しろ
門守二郎:周囲に聞かれるな
門守二郎:特に山田と部長
彼女が不安がることを気にして、単発&連発で返信してみた。
秦由美子:わかった
彼女の返信を確認して、社内チャットからログアウトした。
ここで少し考えを深めてみた。
部長が課長を呼び出したのは、上司と部下だからあり得る話だ。
わからないのは、部長が課長への連絡に山田を使っているらしいことだ。
その付近は彼女から電話が来た際にでも確認してみよう。
ここまでで、昼時のテレワークを終わらせるべく社内ネットワークからログアウトした。
さて、次は朝にバーチャんから聞いたLAN-DISKに取りかかろうとしたら、ガラリと部屋の戸が開けられた。
「二郎。飯じゃ。」
時計を見れば既に昼時を過ぎていた。