3-1 The diary in a LAN-DISK
「今朝も元気だのう。」
「バーチャん。やめい!」
バーチャんが俺の下半身部分だけ布団を捲って、無駄に元気な息子を鑑賞してニヤニヤしている。
俺は少し筋肉痛な体を慌てて起こす。
カーテン越しの朝日がまぶしい。
「朝飯じゃ。」
バーチャん。俺はもう30過ぎなんだから中学生を起こすような朝は勘弁してくれ。
「そうだ。バーチャん。その段ボール壊しちゃった。ごめん。」
「かまわん。もう使わん。」
昨夜か今朝方か、トイレに行く際に壊した『Reiji』と書かれた段ボールを指差すと、バーチャんはあっさりと許してくれた。
「あの音はお前か。中身はLAN-DISKに入っとる。」
夜中に段ボールを壊した音は、バーチャんも気がついていたようだ。
LAN-DISK?
あのネットワークに接続して使うやつ?
そんな物まで実家に設置してるの?
どこに設置してあるんだ?
そうしたことも気になったが、段ボール箱の中身が壊れていないかも気になる。
手をついた際に『メキメキ』なんて音もしていたし…
俺は思いきって段ボールを開けてみた。
中には手のひらサイズのプラスチック製の正方形で少し厚みのあるカードのような…
「3.5インチFDD」
「ほぉ~ 二郎は知っとるか?」
「うん。お客さんに見せられたことがある。」
「そうかそうか。はよ着替えてメシ食べい。」
◆
身支度を整え神棚に手を合わせ、続けて仏壇に手を合わせる。
今日も健やかに過ごせるように願う。
食卓に着けば、いつもの実家の朝御飯が準備されている。
本当にありがたい。本当に美味しい。
朝御飯を食べながらバーチャんに聞いてみた。
「あのフロッピーディスクの中身がLAN-DISKに入ってるの?」
「好きに見ていいぞ。お爺さんや一郎、礼子の日記なんかもある。」
日記?
お爺ちゃんや一郎父さん、礼子母さんの日記?
LAN-DISKの設置場所も気にはなったが中身も気になった。
故人の日記を見て良いのか?
けれども見てみたい気もする。
昨日のバーチャんの話とかを考えれば、『米軍の門』とかをもっと詳しく学べるかも知れない。
どうしようか?見ても良いのか?
少し思案しているとバーチャんが背中を押してくれた。
「お爺さんや礼子の日記などは普段からワシも見とる。二郎が『門』について知りたいなら見とくとよか。」
「ありがとう。見させてもらうよ。」
「直ぐに見たいか?見たいなら二郎は今日は留守番するか?」
「いや。慌てて見る気はないよ。今日は新玉ねぎの収穫でしょ。それが終わってからゆっくり見るよ。」
「そうかそうか。じゃあ気張って手伝え。」
「まかせて!」
今日は新玉ねぎの収穫を手伝うとバーチャんに約束したんだ。
それが終わってから見ても、大して時間差はないと思う。
ゆっくりと見させて貰おう。
お爺ちゃんや一郎父さん礼子母さんの日記は逃げはしない。
LAN-DISKに入ってるならば、バーチャんの言うとおりいつでも見れる。
それにしても家にLAN-DISKまで設置するなんて、バーチャんはどこまでIT環境に精通してるんだ?
昨日、会社とのテレワーク環境を整備した際に『俺の実家のネット環境は優秀』なんて自慢してみたが優秀なんて代物じゃないな。
バーチャん。Good job.