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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月20日(火)☁️/☀️
29/279

2-18 バーチャんの願い


 ちゃっちゃかちゃかちゃか

 ちゃんちゃんちゃーん


 急にバーチャんのPadから音楽が流れた。

 公共放送の料理番組、オープニングに使われている音楽だ。


「二郎、まだ続けるか?」

「いや、今日はこれ以上は無理。一度にいろいろ話を聞いても受け止めれない。」


「そうか、ワシも見たいテレビがあるんで助かるわい。」

「明日も話してくれる?」


「かまわんぞ。明日はどこから聞きたい?」

「その前にお礼が言いたい。」


「お礼?」

「ここまでの話でバーチャんとお爺ちゃんとは、母さんや父さんに俺までも血の繋がりがないのがわかった。」


「…」

「それでも育ててくれてありがう。」


「よかよか。気にするな。」

「本当にありがとう。」


「ワシはテレビ見とるけん。風呂入ってこい。」

「ああ、そうする。」


 俺は正座して深く頭を下げ、バーチャんに心から礼を述べた。

 どうしても育ててくれたお礼を言いたかった。


「じゃぁ、風呂入ってくる。」


 そう言ってバーチャんの顔を見ると、今までで一番優しい顔を見た気がする。


 俺は自分の言葉に酔ったのだろう。

 目が熱くなり汗が出るのがわかった。



 ゴーゴーゴー

 ジャグジーの音の中。

 一人で考えてみた。


 バーチャんの話からすれば、バーチャんもお爺ちゃんも、この世界の人間ではない。

 一郎父さんも礼子母さんも、この世界の人間ではない。


 もしかして俺も?

 少し不安になったが俺には別世界の記憶はない。

 それにバーチャんに聞けばわかることだ。


 「さすがに考えすぎだな(笑」


 自分で考えて自分で笑ってしまった。


 この後は会社のメールでも見て、バーチャんの話で出て来た核実験とかを調べよう。

 特に『セダン核実験』を調べていて気になった件も知っておきたい。

 それに今日は詳しく聞けなかった、お爺ちゃんが亡くなったという『阪神淡路大震災』も調べておきたい。


 久しぶりにネットを見ながら寝てしまいそうだ。



 風呂から上がった俺は、買ったばかりのパジャマに着替え仏間の前の廊下に座っていた。


 風呂が空いたことをバーチャんに伝えに来たが、仏間の障子戸の向こうから聞こえるバーチャんの声に足を止めてしまったのだ。



 お爺さんや

  あの子に話す時が来ました。

  何もかも話します。


 礼子や

  あの子は優しい子に育ちました。

  実に立派な人間になりました。


 一郎や

  あの子は『守る』に相応しいかい。

  安心おし相応しい人間に育ったよ。


 バーチャん…

 きっと仏壇の位牌に向かって話してるんだろう。

 だめだ、こんなシーンに触れたら目が汗をかいてしまう。


 俺は立派な人間なんかじゃない。

 パワハラ課長に仕事を増やされ、心が疲れてしまうような人間なんだ。

 仕事が辛くて逃げ出してしまうような人間なんだ。

 バーチャんに頼って実家に逃げ帰るような人間なんだ。

 お爺ちゃんやバーチャんのように、奴隷の経験も無い。

 全く知らない世界で生きてきた経験だって無いんだ。

 まだまだ弱い人間だよ。



 二郎や

  早く曾孫を見せとくれ。



 …

 ……


 バーチャん!

 俺が聞いてるって知ってるだろ!


 俺は思わず仏間の障子戸を開けて叫んでしまった。


「やっぱり居たんじゃな?」


 俺が障子戸を開けると、バーチャんが仏壇に手を合わせながらニヤニヤと笑って俺を見ていた。


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