2-17 勇者繋がり
「バーチャんのFF好きは置いといて、ドラクエの世界で話していいかな?」
「かまわんぞ。」
「バーチャんとお爺ちゃんがいた世界って『ドラクエ』の世界に似てるよね。」
「確かに似とるのう。ワシもお爺さんも遊んでみたが似とった。」
お爺ちゃんもバーチャんも、遊んだことがあるのね。
「向こうの世界に『勇者』っていたの?」
「勇者か…礼子の父親じゃな。」
「…… マジっすか?」
「一郎は勇者見習いだったそうじゃぞ。」
一郎は俺の父で礼子は俺の母だ。
二人とも『勇者』の関係者なの?
「ワシとお爺さんは勇者には会ったことはないんじゃが、一郎は勇者と一緒に魔王に挑んどる。」
「…(一郎父さん、やるじゃん。)」
「礼子が勇者の娘と気付いたのは一郎じゃったんだ。」
「そうかもね。だって勇者と一緒に魔王に挑んだんだから。むしろバーチャんやお爺ちゃんみたいに幼馴染みとか?」
「いや、二人は向こうの世界では会っとらんのじゃ。」
??? どういうこと?
「一郎父さんは勇者見習いでしょ?それに礼子母さんは勇者の娘だから、会ってたんじゃないの?」
「まあ、落ち着いて聞くんじゃ。礼子はかなり幼かったんじゃ。そう。ワシとお爺さんが21歳の時じゃ…」
そう言って、バーチャんは礼子母さんの話を始めた。
その話には、お爺ちゃんがこちらの世界に来た『米軍の門』が、またしても絡んでいた。
再び核実験で門を開き、その開いた門から礼子母さんが出て来たそうだ。
しかもわずか3歳ぐらいで。
「ごめん。バーチャん。ちょっと確認させて。」
俺はバーチャんの話を止めて、スマホで『トリニティ核実験』を再び開いた。
続けてアメリカが関わった核実験を調べて、その回数の多さに何とも言えない思いを抱いた。
もしかして核実験の度に門を開いたんじゃなかろうかと。
「こんなに核実験をしてる。」
「そうじゃ。何度も米軍は門を開いたんじゃ。」
思わず核実験の回数を口にした俺に、バーチャんは答えてきた。
その答えから、やはり米軍は何度も門を開いていると確信した。
「バーチャん。礼子母さんが出て来たのって、どれ?」
「セダンじゃ。」
バーチャんの『セダン』の言葉に反応して、俺は『セダン核実験』を調べた。
> 1962年7月6日にネバダ核実験場の…
そして少し気になる語句を見つけた。
だが、今はバーチャんの話を聞こうとスマホを操作するのを止めた。
「この核実験で礼子母さんが3歳で出て来たんだよね。だとしたら、お爺ちゃんと同じく米軍の関係者が礼子母さんを引き取ったの?」
「最初はそうだが、直ぐにお爺さんとワシで育てたんじゃ。お爺さんとの結婚は礼子がきっかけじゃ。」
???
今日何度目の『?』なんだろう…
「礼子が門から出て来て、幼いながらも口にした言葉が『王国語』だったんじゃ。」
「そうか!同じ言葉とわかれば、お爺ちゃんやバーチャんと同じ世界から来たと考えるのが妥当だね。」
「礼子がこちらの世界に来た知らせがお爺さんに届いて、直ぐに淡路陵にいたワシにプロポーズしに来たんじゃ。」
バーチャん。
そこでニヤけてどうする。
「国際問題とかあったのに、礼子母さんが出て来たことで随分とすんなりと結婚できたんだね。」
「まあ、その当時はワシもお爺さんも一緒になろうて思うとったから、良い切っ掛けじゃ。」
「最初はバーチャんをアメリカに連れて行こうとするほどだったのにね。米軍も随分と緩くなった感じだね。」
「ケネディさんも忙しかったんだろ。」
『ケネディ』ってケネディ大統領のことだよね。
そのとき俺は、自分が勉強不足だと思い知った。
お爺ちゃんやバーチャん。
そして一郎父さんや礼子母さん。
皆が生きてきた戦後の日本や世界情勢について、かなり知識が足りないと感じた。
バーチャんから新たな言葉が出る度に、スマホで調べそうになっている自分に気がついた。