18-29 2本立て
二人が見たがっていたテレビドラマに付き合っていたが、見慣れないテレビドラマには飽きがくる。
「ごめん。先に寝るわ」
(ウィスキーがお好きでしょぉ~)
俺が二人に声を掛けると、再びCMの音楽が流れる。
その音楽に反応したのか、テレビドラマが終わったからか、目の前で二人がハイボールのジョッキを煽るように飲み干す。
「今日は木曜だで2本立てじゃ」
「じゃあ、もう一杯ですね!」
「由美子はようわかっとる」
そう言って二人が空のジョッキを俺の前に突き出す。
「あれ?一杯だけの約束は?」
「「???」」
俺の言葉に二人が首を傾げた。
こいつら、さっき俺が言った言葉を忘れてる。
俺はジョッキを手にし、台所に行き自分の使ったジョッキを洗う。
二人のジョッキにハイボールを作り、仏間で天気予報に見いっている二人に差し出す。
「ほれ、明日は1日雨じゃ」
「本当だぁ~」
「はい、これが最後ね。俺は先に寝るから」
「おお、二郎はもう寝るんか?」
「センパイ、おやすみなさい~」
二人から就寝の挨拶が返ってきたので、俺は仏間を後にした。
歯を磨きトイレを済ませ、寝泊まりしている部屋に入り、並べられた布団の内いつも使っている布団に潜り込む。
枕元のPadを手に取り、Saikasのマニュアルを開いて読み直す。
こうして改めてSaikasのマニュアルを読むのは何日ぶりだろうか。
前にマニュアルを読み込んだ際には、簡易INDEXと応用INDEXを使って検索できることで満足してしまった。
その機能で『淡路陵の門』と『米軍の門』については、ある程度学ぶことができた。
だが伊勢に向かう途中で『伊勢の門』で検索し、1万件以上の検索結果が示されて挫折した。
あの時から心のどこかで感じていたが、佐々木元課長が簡易INDEXや応用INDEX程度の検索機能で終わらせるとは思えない。
もっと絞り込んだ検索や、かなりの応用を効かせた検索が可能な気がする。
それにSaikasが各門の記録(日記)を、クラウド形式で保有しているであろうことも気になった。
『淡路陵の門』についての記録(日記)は、この実家のお爺ちゃんの部屋に置かれているLAN-DISKに納められている。
そのことから『隠岐の島の門』に関わる記録は、彼女の実家で進一さんか剛志さんの管理下に置かれているのだろうと伺える。
さらに踏み込んで考えれば、彼女の実家で無線LANを設定する際に、2つのWi-Fi電波を拾った。
近隣にあるらしき『国の人(彼ら)』の施設のどこかに、『隠岐の島の門』の記録(日記)が保管されているとも考えられる。
佐々木元課長はSaikasに登録されている全ての門での記録(日記)にアクセスしている可能性がある。
かといって、佐々木元課長が全ての門の全ての記録(日記)を読み込んでいるとは思えない。
全ての門の全ての記録を読んでいたら、全ての門の当代になる知識を持ってしまうからだ。
それに進一さんは俺の記録(日記)を読んでいる。
そうした状況を総合的に頭の中で整理しながら組立ながら考えてみる。
もう少し整理して考えてみたくなり、絵図を描いてみるかとメモ用紙を探すが見当たらない。
たしかノートパソコン専用バッグにメモ用紙が入っていた筈だとノートパソコン専用バッグを探すが見当たらない。
専用バッグは⋯お爺ちゃんの部屋だと思い出して布団から起き出し取りに行くことにした。
お爺ちゃんの部屋に入り、ノートパソコン専用バッグからメモ用紙とペンを取り出す際に、USBメモリが出てきた。
ああ、ノートパソコンへのSaikas導入もしないと⋯今やるか?
いや、そうした作業は東京に戻ってからでも出来そうな気がする。
俺の使っているバーチャんのお古のPadは⋯東京に戻る際には置いて行くのか?
う~ん。
どうせなら、進一さんやバーチャんの使っている新型Padが欲しい気がする。
あれなら東京に戻ってもバーチャんや進一さんとも繋がりを持ち続けることができる。
明日にでも、山本さんに会ったら聞いてみるか?
何か山本さんに『おねだり』するようで気兼ねしてしまう。
だが、この先、俺が淡路島に戻ることを考えたら、今から手に入れておくべきだろうとも思える⋯
まてまて、俺は当代を『継ぐ』のか?
当代を『継ぐ』前提ならば、学習のためにも新型Padは必要だろう。
けれども『継ぐ』意思も持っていないのに新型Padが欲しいと言えるのか?
鶏が先か?卵が先か?
そんな思考の深みに入ってるな(笑
メモ用紙とペンを手に、寝泊まりしている部屋に戻ろうとすると、彼女と廊下で鉢合わせした。
「あれ?終わったの?」
「あれ?センパイ、寝てないんですか?」
「いや、ちょっとPadの勉強してたら目が冴えてきちゃって⋯」
「⋯⋯」
待てよ。
彼女は佐々木元課長と一緒に、Saikasを売込みに行った経験があるよな。
その時に『国の人』の眼鏡さんとも会っている筈だ。人違いだと言われたらしいけど⋯
彼女なら俺がSaikasについて知りたいことを知ってるんじゃないのか?
「由美子、ちょっと教えて欲しいことがある、部屋で話せるかな?」
「⋯⋯⋯」
何故か黙っている彼女と共に部屋に入ると、急に彼女に抱きつかれてしまった。
慌てて彼女を抱き締め、布団の上に倒れ込む。
「おいおい、急にどうしたんだ」
「センパイ!デリカシーに欠けてます!」
「えっ?」
布団に倒れ込んだ俺に彼女が馬乗りになる。
「『ご褒美』を待ってたんじゃないんですか!」
「えっ?ご褒美?」
「門を開けた『ご褒美』です!」
コラコラ、俺の上で腰を振るんじゃない!