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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月6日(木)☁️/☁️
273/279

18-25 タッパー


 何事もなく実家に到着した。


 山本さんが先に降りて誘導し、俺達の乗る黒塗りの車は玄関先に着けられた。

 車が停止すると玄関に明かりが灯る。

 玄関戸を開けてバーチャんが顔を見せてきた。

 俺と彼女は手荷物を手に車を降り、バーチャんの元へと向かう。


「バーチャん、ただいま!」

「二郎、お帰り。可愛いお嫁さんを連れてきたな」

「あらためまして、由美子です。よろしくお願いします」


 彼女が深々と頭を下げる。

 バーチャんも応えて頭を下げる。


「由美子さん、堅苦しいのはここまでじゃ」

「はい、ありがとうございます」


 無事に挨拶が出来たのか、バーチャんも彼女も安堵の笑顔を見せてくれた。


「バーチャん、晩御飯は『いなり寿司』なの?」

「おお、たくさん作ったぞ。二郎、皆を待たしとけ」


 そう告げたバーチャんは、母家の中に急ぎ足で戻って行った。

 そんな俺達とは別に、山本さんの指揮で運転手さんや細マッチョがトランクから荷物を降ろして行く。

 全ての荷物が玄関に続く廊下に並べられ、運転手さんが確認の声を掛けてくる。


「荷物はこれで全てですね」

「はい、ありがとうございました」


 俺は運転手さんに応え、続けて山本さんに声を掛ける。


「山本さん、運転手さんと警護隊のお二人に礼を述べたいのですが?」


「わかりました」


 そう言って山本さんは玄関から出て細マッチョを手招きする。

 山本さん、細マッチョ2名、運転手さんが玄関の前に並んで立った。

 並び立つ皆の前に彼女と共に立ち、皆に聞こえるようにお礼の口上を述べる。


「今回は皆さんのお陰で、無事にお伊勢詣りができ、こうして無事に帰ってこれました。全て皆様のおかげです。ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 俺が皆への口上を終えて御辞儀をすると、彼女も俺の隣で御辞儀する。

 すると目の前の皆が応えて御辞儀を返してくれた。


 俺は山本さんに歩み寄り声を掛ける。


「山本さんは、少し残ってください」

「はい、他の者は解放しても?」


「由美子、お願いできますか?」


 俺の声掛けに彼女が応えて皆の前に立つ。

 俺は山本さんを玄関の土間口に招き入れ、進一さんからの荷物が届く話を切り出す。


「隠岐の島の進一さんから荷物が届くと聞きました」

「はい、私も聞いております。それで明日の夕刻に再びお邪魔しますがよろしいですか?」


「はい、連日でお手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」


 その時に廊下の奥からバーチャんがタッパーを重ね、両手に持ってやってきた。


「山本さん、駄賃じゃ。容器は返さんで良いぞ」


 そう言って重ねたタッパーを4つ、山本さんに差し出した。

 山本さんはバーチャんの差し出すタッパーを慌てて両手で受け取った。

 見るからに『いなり寿司』が全てのタッパーに詰まっている感じだ。


「桂子さん、これって?」

「『いなり寿司』じゃ。貰ろうてくれ」


「はい、ありがとうございます。それではここで失礼します」


 山本さんがタッパー両手に玄関から出ようとすると、彼女が入ってきた。


「秦さん、今日はここで失礼します。明日、また来ますのでよろしくお願いします」

「兄からの荷物ですね。こちらこそよろしくお願いします」


 両手の塞がった山本さんが玄関から出て行き、彼女が見送るように玄関の戸を閉めた。


「さあ、由美子さん疲れたろう。風呂にするか?晩飯にするか?それとも録画を見るか?」

「⋯⋯」


 由美子、迷ってないよね?


「バーチャん!晩御飯にしよう」

「はい、お腹が空きました!」


 俺と彼女の声に、バーチャんは朗らかな笑顔を見せてくれた。


 母家に上がり、脱衣所から雑巾を持ってきてキャリーバッグのキャスターに着いた汚れを拭き取る。

 俺がキャリーバッグの世話をしている間に、彼女は伊勢のお土産の入った紙袋を仏間へと運んでくれた。


 そうした作業をしていると、バーチャんがとんでもない言葉を掛けてきた。


「由美子さんは、今日はどこに寝るんじゃ?」

「「⋯⋯」」


 思わず二人で固まっていると、バーチャんから追い討ちを掛ける言葉が続く。


「布団は二郎の部屋に置いてある。座敷を使っても良いが布団は自分達で運ぶんじゃ(ニヤニヤ」


 バーチャん、わざとだろ!

 そう思っていると彼女が俺の腕を掴む。


「一緒に寝て良いんですか?!」


 由美子さん、そこで満面の笑顔ですか?


「ワシは気にせんぞ。一郎と礼子も気が付いたら一緒に寝とった(ニヤニヤ」


 バーチャん、そのニヤニヤした顔を親子二代に見せたんですか?


 気が付けば、彼女がさっさと自身のキャリーバッグを運ぼうとしている。

 俺はどうしたものかと思いつつも、彼女の後に続いてキャリーバッグを運んだ。


 部屋に入ると景色が変わっていた。

 段ボールが重ねられ、新たに大阪のホテルで発送した段ボールと、USJのお土産らしき段ボールが置かれていた。

 そしてバーチャんの言うとおりに、布団が二組置かれていた。


「センパイ、ちょっと出ててください。それとも私の着替えが見たいんですか?」


 はいはい、そこでクネクネしなくても出ます。


 彼女に追い出された俺は、一旦、仏間に戻ったがバーチャんが見当たらない。

 台所に行くとバーチャんがガスコンロの前で鍋をかき回し、何かを温めていた。


「バーチャん、もしかして豚汁?」

「ああ、直に温まるで」


 そう言われて台所に続く食卓に目をやれば、黄金色の小山が見えた。


 山本さんに押し付けたのと同じぐらいの量があると思える『いなり寿司』の小山だった。


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