18-24 無意識
ゥウォン
俺と彼女の座る席の少し離れた場所から咳払いが聞こえる。
咳払いの元を見れば、山本さんが立っていた。
「そろそろ⋯お時間ですが?」
山本さんの言葉に、いくぶん慌てて彼女との戯れを中断して二人で席を立つ。
少々恥ずかしいところを見られたようで、バツが悪い感じだ。
細マッチョ2名や運転手さんにも見られたのか?!
店内を見渡せば、店の出口付近に細マッチョ2名が立ち、こちらを見てるような見ていないような⋯
優しく気のきく運転手さんは背を向けて出口から出て行くところだ。
山本さんを先頭に、俺と彼女が続いて駐車場に戻る際に、当然のように彼女が俺の腕に手を絡めてきた。
彼女に腕を掴まれた際に、一瞬、躊躇ってしまったが『魔素』に止まれと意識して駐車場へと向かう。
俺と彼女が乗り込むのを見届けた山本さんは、自身が乗り込む前に片手を上げて細マッチョに合図をする。
合図と共に細マッチョ二人が乗用車に乗り込んだ。
山本さんが助手席に乗り込むと運転手さんが声を掛けてくる。
「シートベルトの着用をお願いします。それでは残り40分程度の予定です。出発します」
そろそろと黒塗りの車が動き出すと、それに合わせて細マッチョの車も動き出した。
細マッチョの車が先に進み、俺達の乗る黒塗りの車が後に着く、恒例の形での走行となった。
「門守さん秦さん。すいませんが区切らさせていただきます」
車が動き出して直ぐに、山本さんが半透明の板を操作してきた。
ここまでの彼らの態度の全てに、つくづく、見せてはいけないものを見せてしまった気がする。
だが、そんなことよりも、俺はさっきの出来事が気になり、区切りが上がりきったところで彼女に問い掛けた。
「由美子、さっきのは何?」
「私が聞きたいぐらいです。センパイは何かしました?」
彼女も俺と同じ気持ちなのか、いつもより明瞭な感じで返事をする。
「何もしていない⋯いや、由美子に『魔素』が吸われてる気がして『止まれ』とは意識したけど⋯」
俺の言葉に彼女が少し考えて、自分なりに整理しながら語ってきた。
「⋯センパイに手を触られて、あの家族から目を離して、センパイを見ながら⋯センパイとの家族を想像してたら、そう、急にセンパイの手から『魔素』を感じたんです。そしたら急にセンパイの金色が見えて⋯」
「ちょっと待って、由美子は俺の『魔素』を見ようとしたの?」
「う~ん⋯したかも?」
どうやら、その付近は曖昧なようだが、多分、彼女は俺の『魔素』の色を『無意識』に見ようとしたんじゃないのか?
「由美子は、意識して俺から『魔素』を取り出そうとはしなかったんだよね?」
「それは無いです。センパイを『魔石』に見立てたりはしません。安心してください」
「けど、最後はやろうとしたんだろ?(笑」
「てへぺろ」
『てへぺろ』って何ですか?
「けど、あれでセンパイから『魔素』を取り出せるのがわかりました(ニッコリ」
「由美子さん。それを続けたら俺は命を落とすかも?(笑」
「センパイ、安心してください!ちゃんと看取りますから♡」
おいおい、看取りじゃなくて『魔素』を吸われつくして、あの割れて粉々になった黒曜石のように、俺が壊れるのを心配してるんですけど。
「由美子は進一さんや市之助さんから、人から『魔素』を吸い出したり取り出す話は聞いたことあるの?」
「無いですよぉ~ さっきセンパイから出来て驚いたぐらいです」
「由美子の得意な『回復』は⋯あれの時には『魔石』から『魔素』を吸い出したり取り出すのを意識しないの?」
「しないですね。元気になって欲しい思いの方が強いかな?」
「じゃあ、実家でやったペンダントで『魔素』を移動した時、あの時に『吸い出す』とか『取り出す』みたいなことは意識したの?」
「う~ん⋯してないと思うんです。『移す』気持ちは強いと思いますよ⋯センパイはどうなんですか?」
彼女に言われて、思わずハッとしてしまった。
俺が『Double魔石』を作った時はどうだったんだろう⋯
彼女と同じで『移す』気持ちが強かった気がする。
『魔石』から『取り出す』とか『吸い出す』とか意識しただろうか?
何かやってたような、やってなかったような⋯何故か明確に思い出せない。
つい数日前にやったことなのに、あの時に『何を』意識していたかが明確に思い出せない。
「由美子、お願いがある」
「な、何ですかセンパイ、急に改まって⋯」
「これから俺の手から『魔素』を感じたら、教えてくれないか?」
「???」
彼女が俺の言葉に首を傾げる。
それも無理がないと思う。
俺も自分で変なことを言っていると自覚しているからだ。
「さっき由美子は俺から『魔素』を感じたんだろ?」
「え、えぇ感じました」
「あの時、俺は意識して出したわけじゃないんだ、こう⋯『無意識』に出してた気がするんだ」
「???」
「なんか『無意識』に『魔素』を出すのって、こう、なんか自分で制御できてなくて変な気がするんだ」
「⋯⋯⋯」
彼女は首をかしげたままだ。
どうすれば俺の考えが彼女に伝わるのか?
どう説明しようかと悩んでいると、彼女が口を開いた。
「センパイ、それって⋯ずぅ~~っと手を繋いで過ごすってことですか♥️」
うん、そう考えても良いよ⋯
俺はそれも楽しそうだと思って納得することにした。
プルル
俺と彼女の二人の世界を邪魔するように、俺のスマホが鳴る。
スマホの画面を見れば『バーチャん』と表示されている。
「はい」
「二郎か?」
「はい。あなたの孫の二郎です」
「今はどこじゃ?」
「淡路島、あと30分ぐらいで着く」
「そうか。『国の奴ら』は何人じゃ」
「えぇ~と、4人?」
「わかった」
プツン
それだけ述べて、バーチャんが電話を切った。