18-22 白いカード
(ええ⋯これから桂子お婆ちゃ⋯)
(お母さん!大丈夫です!)
話し声がする⋯
彼女が実家に電話しているのか?
完全に覚醒していない寝起きで彼女と目があってしまった。
「あっ、起きたみたいです」
俺が起きたのに彼女が気付き、明るい笑顔を見せてくれる。
「センパイ、実家と繋がりました」
俺は彼女の言葉で一気に意識を覚醒させた。
「スピーカーに出来る?」
彼女がスマホをスピーカーモードにして俺に向けてくれる。
「もしもし、二郎です」
「二郎さん?」
吉江さんの声だ。
「お伊勢様は無事に終わったのね?」
「はい。何事も無く由美子さんと一緒にお詣りすることが出来ました。ありがとうございます」
「あら、お礼を言うのは私の方よ。由美子をよろしくね(笑」
「はい、大事にします」
「由美子から聞いたけど、桂子さんの方は大変みたいね」
「ご心配を掛けてすいません。たぶん大丈夫だと思います。後で桂子から連絡させます」
「落ち着いてからでいいわ。桂子さんにも気にしないように⋯フフフ 桂子さんなら気にしないわね(笑」
「ハハハ」
思わず乾いた笑いが出てしまう。
やっぱり吉江さんは、色々な意味でバーチャんを理解しているようだ。
「進一が話したいって」
「由美子、二郎くん。聞こえるか?」
吉江さんがそう述べた途端に聞こえてきたのは進一さんの声だ。
「進一さん?二郎です」
「お兄ちゃん聞こえてるよ」
(進一、スピーカーに⋯)
んん?
剛志さんの声が聞こえる。
「父さんも参加するけど良いかな?」
「ええ、私は良いです。由美子も良いよね?」
「はい、大丈夫です」
俺はそう答えた彼女の手をそっと握る。
それに応えるように、彼女は少し微笑んでくれた。
「じゃあ、まずは父さんから」
「剛志だ。二郎君、聞こえるか?」
「はい、大丈夫です」
「不束な娘だがよろしく頼むぞ」
「はい、大事にします」
剛志さんの言葉に、思わず吉江さんへ向けたのと同じ返事をしてしまった。
「それで『伊勢の門』は開いたらしいな?」
「ええ、開いたと聞いてます」
「『聞いてます』? 進一、二郎君は知らないみたいだぞ?」
「父さん、僕らも里依紗の実家や彼らから聞いただけだから同じだよ。ククク(笑」
「「⋯⋯」」
何とも返事が出来ない会話になってしまったが、進一さんの言葉から里依紗さんの実家からも連絡があったのがわかった。
俺と彼女で『伊勢の門』を開いたことは、幾多の方面へと話が広がっているのを強く感じる。
それと共に、彼女の実家の方々に迷惑をかけている気がしてきた。
「とにかくだ⋯二郎君、『おめでとう』と言わせてくれ」
「僕からもだ。二郎くん『おめでとう』」
「ありがとうございます」
「うんうん」
俺はそれしか返事が出来なかった。
一方、嬉しそうにうなずく彼女は、俺の腕をつかみブンブンと揺さぶってくる。
「由美子、良かったな。二郎君は本物だぞ」
「はい。センパイは本物です!」
由美子、腕がもげそうだから⋯
「由美子、今日の昼に彼らが持って出たから明日には届くはずだよ」
「「??」」
急に進一さんが『届け物』の話を始める。
何の事だろうと彼女と顔を見合わせる。
「由美子、鍵は持ってるよな?」
「鍵って⋯ああ、あれの事ね」
そう返事をした彼女がカゴバックの中をガサゴソと探し始めた。
「今日の便で本土に向かったから、明日には桂子さんの所に届くはずだよ」
もしかして、彼女が欲しがっていた『魔石』のペンダントの事か?
「あった!お兄ちゃんこれですよね」
彼女がカゴバッグから何やら白いカードらしき物を取り出し、プラプラとさせている。
「ククク。由美子、『これ』って言われても見えないんだけど?(笑」
「ハハハ」
進一さんの言うとおりだ。
彼女は少しバツの悪そうな顔を見せる。
「由美子にはペンダントで、二郎くんには⋯一方的なお願いで申し訳ないが手紙を送ったから、読んで欲しいんだ」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「わかりました。まずは読んでみます」
ペンダントが届くことに彼女は嬉しそうだ。
一方の俺は進一さんからの『手紙』の内容が気になる。
だが、今のこの場で進一さんが具体的な話をしないことから、俺だけに伝えたいことだろうと判断することにした。
「母さんと父さんは何かある?」
(ないわね)
締めの言葉を進一さんが口にすると、後ろから吉江さんの声が聞こえてくる。
彼女を見ればプルプルと首をふっている。
「こっちも特にありません」
「じゃあ、切るぞ」
プツッ
あっさりと通話が切られると、彼女が先ほどの白いカードを渡してくる。
俺がそれを受けとると、彼女はスマホをカゴバックにしまった。
俺は彼女に渡された白いカードを見ると、カードの白地に黒色でカード全体に数本の直線が描かれ、その直線が交わりそうな箇所に小さな丸が描かれている。
そんな、絵、いや模様らしき物が描かれているのだが、俺は何が何だかわからない。
カードを縦にしてみたり横にしてみるが、やはり何を表しているかがわからない。
「由美子、これって何なの?」
「これは『魔石』のペンダントとかを送る時に使う鍵です。これを使わないと開けないんです」
彼女の説明を聞くが、今一つ理解できない。
「明日、荷物が届いたらわかりますよ」
彼女が意味深な言葉を口にし、俺から白いカードを取り返しカゴバッグの奥にしまい込んだ。
コンコン
その時、半透明の板をノックする音が聞こえた。