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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月6日(木)☁️/☁️
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18-21 ストレス


 俺は女性が泣くのに胸を貸したことは⋯


 俺もこの年齢だから『それなりに』はある。

 だが、それらの結末については記憶から消したい過去だ。


 そうした過去と今はまったく違う。

 目の前で涙を見せたのは、俺の大事な彼女だ。


 こうした時に何と声を掛ければ良いのか⋯

 俺は彼女の背中に手を置き、彼女が泣き止むのを待つしか出来なかった。

 彼女の気持ちが落ち着くのを待つしか出来なかった。


「ごめんなさい、シャツに口紅が⋯」


 泣くのを止めた彼女が顔を起こす。

 彼女がティッシュを出し、俺の胸元に着いた口紅を拭っている。

 ひととおり口紅が落とせたらしく、彼女は自分を納得させるための言葉を呟く。


「今日直ぐに洗えば落ちます、うん、落ちます」

「ああ、ありがとう」


 変な感じでお礼を述べて彼女の顔を見れば、少し目が腫れぼったい感じだ。

 元が可愛い彼女の、これまで見たことの無い顔に戸惑っていると、彼女が俺の座る側の窓を指差す。

 何だろうと彼女の指差す側を見ると、河口のような水面に傾き行く陽の光を写した景色が見える。


「センパイはそちの景色を見ててください。こっちを見ちゃダメです!」


 何だ?

 普段は見れない彼女の顔をもう少しだけ見たかったのだが、泣いている時に何も出来なかった俺だ。

 そんな俺が、今さらマジマジと彼女の顔を見るのも悪いと思い、言われたとおりに窓からの景色を眺め続けた。


 隣に座る彼女の方からは、ガサゴソと音がする。

 何をしてるんだ?

 暫くして、ガサゴソした音がしなくなった。


「はい、センパイ。良いです」


 そう言われて彼女に目をやれば、化粧を直したのか幾分目の腫れが治まった感じだ。

 いつもより、少し恥ずかしそうな顔で彼女が俺を見ている。


「落ち着いた?」

「ええ、なんとか(笑」


「それにしても嫌なもんだね。由美子の言葉に考えさせられるよ」

「えっ?何がですか?」


「俺も素性の知れない奴から、そんなことをされたら、由美子と同じだよ」

「センパイ⋯」


「けど、俺は由美子とは違って嘘を着いたり、自分を守る言葉に後悔はしないし、自分を責める考えは持たないと思う」

「⋯」


「むしろ、反発して相手を攻めてしまうだろう。それでこそ、由美子がされたと知ったら鬼になるかもしれない」

「⋯⋯」


「俺が鬼になる様子は、由美子には見せたくない。その時には俺を見ないで欲しい」

「わかりました。そっと目をそらします(ニッコリ」


 彼女の顔に笑顔が戻ったことにして、話題を変えてみる。


「そうだ、由美子は警護隊の二人に渡したい?」

「あぁ、渡したいですね」


 俺は暗に『心付け』の事を話題にしたのだが、彼女は直ぐに察してくれた。


「センパイ、二回渡すのってありですか?」

「二回渡す?」


「ええ、運転手さんにもう一度渡したくて⋯」

「良いと思うよ。今回の伊勢行きでは随分と運転手さんに気を使って貰ったし、昨日のは前回分と思えば渡しても良いと思うよ」


 そんな会話をしていると、彼女が少し欠伸あくびを我慢するような仕草をした。


「少し寝たら?疲れただろ」

「ええ、ちょっと(笑」


 彼女は暫く外を眺めていたが、直ぐにコックリコックリし始めた。

 きっと、泣き疲れたのだろう。


 彼女のトラウマな話を聞き、俺はこの先、彼女を守って行きたいと強く思った。

 彼女を『門』に関わらせないと言うより、『門』を取り巻く連中から守りたいと思った。

 隠岐の島で進一さんや剛志さんから聞かされてはいた。

 無礼極まりない行動や言動をする奴らの存在を、今回の伊勢詣りと彼女の話から痛感した。


 彼女の感じている悲しみは、つきたくもない嘘をつく自分へ向けたものだ。

 きっと、そうした状況は彼女にとって多大なストレスなのだろう。

 彼女が嘘を付かなくてはならない状況から、ストレスを受ける理由は何処にもない。

 天使あまつかさんや見習い女神メイドさんが神の使いだったとして、その正体を俺や彼女が問われる理由は一切無いのだ。


 神の使いだと思うならば、そう思った、そう感じた本人が追いかければよい。

 ワザワザ、俺や彼女に質問を繰り返して、確認の答えを求める理由は何もない。

 例え理由らしきものがあるとしても、それは問う側の好奇心だけだろう。


 己の好奇心を満たしたいのならば、己が努力すれば済むことだ。

 他者に安易に答えを求めて縋るのは、他者からの答で満足を得ようとするのは、傲慢ごうまん以外の何ものでも無い。

 自分が信じれるものを信じればよいのだ。


すぅ~すぅ~


 彼女の寝息を聞きながら、淡路陵で心に決めた言葉を思い出す。


〉俺が自分で学んで考える。

〉俺が自分で考えて学ぶ。


 他者に問うことで答えを得る。

 これは問いかけた側には、答えを得た利得があるだろう。

 しかし問われた側には、何の利得もないのだ。

 むしろデメリットばかりだ。


 俺は色々と隠岐の島で、進一さんや剛志さんから学んだ。

 俺は進一さんや剛志さんに無礼だっただろうか?


 『門』に関わる何らの信念も持たずに、彼女の実家の方々に接していたんじゃないだろうか?


 目をつむり、そうした考えを巡らせていると徐々に睡魔が襲ってきた。


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