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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月6日(木)☁️/☁️
268/279

18-20 彼女のトラウマ


 俺達の乗る黒塗りの車と細マッチョの車は、給油を終えて何事もなく出発した。


 彼女はさっきからスマホの操作を続けている。

 一方の俺は、流れ行く窓からの景色を眺めながら思考を巡らす。


 バーチャんがスマホの電源を切る程とは、いったいどんな電話が掛かってきたんだ?

 まったく『伊勢の門』に関わる守人や、伊勢を担当している『国の人』には呆れるばかりだ。


 呆れていても仕方がないので、これからを考えてみる。

 今日これから淡路島に戻り、バーチャんから煩い電話の話を聞く。


 その後は⋯そうだ、日記でも書くか!


 あまりにも変な話をバーチャんにしてきているなら、そいつの愚かさを晒す意味でSaikasに日記で書いてみるか?

 そうした方法で愚かしい輩に対抗して行かないと、彼女の実家やバーチャんに迷惑を掛け続けそうな気がする。


「センパイ、皺が寄ってます」

「えっ?」


 それまでスマホを操作していた彼女が、急に『しわ』の話をしてきて戸惑ってしまう。


「センパイは仕事で悩んでる時、眉間に皺が寄りますよね(笑」

「えっ?そ、そうかな?」


 慌てて眉間を手で押さえ、皺を伸ばそうとしてしまう。


「鈴木さんが『門守さんに皺です。秦センパイ出番です』とか言うんです」


 彼女がおどけた感じで、それでいて同じ課の鈴木さんの真似をするように言ってくる。


「な、なにそれ?」

「みんな知ってますよ(笑」


 『みんな』と言うことは、同じ課の田中君もか?


「実家の方は、全員にメールしましたから、誰かから返事が来ると思います」

「ありがとう、助かるよ」


 俺は出来るだけ眉間に皺を寄せないように注意しながら、彼女に礼を言う。


「クフフ。センパイって『門』に関して楽しい話ってあります?」

「『門』に関わる楽しい話?う~んどうなんだろう?」


「私は幼い頃、兄や父、それに市之助さんと『魔石』や『魔法』や『魔法円』で遊ぶのは楽しかったんです」


 急に彼女が自身の幼い頃を語り始めた。


「父は『魔法』は使えなかったけど、一所懸命に練習してました。私も父を真似て兄に教わって使えた時は楽しかったんです」

「⋯⋯」


「けど、市之助さんが亡くなってから、周囲に変な人が寄ってくるのが気持ち悪かったんです」


 おいおい、これは彼女がトラウマになってる話じゃないのか?

 俺は彼女に語らせて良いかを迷った。


「由美子、その話って⋯自分で口にして、その⋯大丈夫なの?」

「ええ、センパイには聞いておいて欲しいんです」


すぅ~ はぁ~

すぅ~ はぁ~


 そこまで言って彼女は深呼吸をした。


「市之助さんが亡くなってから、『魔石』を持ってないかとか『魔法円』を譲ってくれとか⋯」


 初代で当代だった市之助さんが亡くなって、孫である彼女にそうした話をされても困っただろう。


「延々と聞きたくもない神話の話をされて、挙げ句に自分は当代になるために『魔石』が必要だとか言われたら困ると思いませんか?」

「ああ、それはかなり酷いな」


 そんな酷い輩もいたのかと驚きつつも、彼女がトラウマになるのもわかる気がする。


「もっと酷いのは、中学生の私に結婚してくれと言い出すんですよ」

「なんだよそれ、頭がおかしいんじゃないの?」


「しかも知りたくもない神話の話を延々として、最後に『俺は神の家系の生まれで本物だから信用しろ』とか言われて⋯信用できます?」

「無理だろう、いや、絶対に信用出来ない奴だなそいつは」


 何となくだが、彼女が隠岐の島で神話の話になった時に、場を外した理由がわかってきた。

 まったく人の迷惑を考えない奴がいるんだと呆れてしまう。


「通学の帰りに待ち伏せされて、声を掛けてくるんですよ」

「それって『お巡りさん!あの人です!』みたいな事案な話だな」


「センパイ!真面目に聞いて!」

「は、はい。スンマセン⋯」


 彼女の気持ちを和らげればと思い、少し冗談を交えて返事をしたが叱られてしまった。


「そうした時に、アマツカさんやメイドさんが助けてくれたんです」

「えっ?!」


 彼女の言葉に驚いた。

 彼女が中学生の頃の話だよな?

 今から20年以上前の話だぞ。


「そんなに昔から天使あまつかさんや見習い女神メイドさんと会ってたの?」

「ええ、だけど困ったことも増えました」


「困ったこと?」

「あのお爺ちゃん達みたいに、アマツカさんやメイドさんの正体を知りたがる人達です」


 なるほどとも思えるが⋯大丈夫なのか?

 『国の人』の眼鏡さんや、この車に同乗している山本さんは、神の存在を追いかける部隊だぞ。


「お爺ちゃん達『神様の使いだろ?』とかしつこく聞いて来たじゃないですか、あれって嫌になると思いませんか?」

「それは⋯」


「アマツカさんやメイドさんが神様の使いかどうかは、本人の気持ちですよね?それを色々聞いて確認するのって変だと思いませんか?そんなことに付き合わされる側は勘弁して欲しいと思いませんか?」

「⋯⋯」


 俺は彼女の言葉に何も言えなかった。


「けど、私もズルいですよね⋯」


 ん?何がズルいんだ?


「そうした『魔石』や『魔法円』を欲しがる人達に『何の事ですか?』『知らないです』で逃げてきたんです。嘘を着くことを覚えたんです⋯」

「⋯⋯⋯」


 いや、それは逃げて当たり前だと思う。


「兄が当代の宣言をしてからは、『兄に聞いてください』『兄に許しを貰ってください』みたいな感じで答えてたんです」

「いや、由美子はそれで正しいよ」


「センパイ⋯ありがとうございます」

「いや、俺こそお礼を言いたい。由美子、話してくれて⋯ありがとう」


 俺の返事を聞いた彼女はカゴバッグからハンカチを取り出し、涙を拭き始めた。


 俺はそんな彼女の顔を、自分の胸に抱き寄せるしか出来なかった。


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