18-17 伊勢のお土産
昼食を済ませスタバ前の撮影会も済ませた。
そんな俺と彼女はスタバの2階に設けられた席に座り、お茶を楽しみながら、この後の予定を話し合う。
決まってると言えるのは、5月10日(月)に東京へ戻ること。
彼女との結婚を進める話になると、なかなか具体的には進みそうもない。
・結納をどうするか?
・結婚式をどうするか?
・新居をどうするか?
これに加えて俺と彼女で淡路島に住む話になると、さらに話が進まなくなる。
・淡路島にいつ戻るか?
・会社をいつやめるか?
・その後の生活は?
「センパイ、考え出すとキリがないです」
「そうだね、由美子の言うとおりだ。ここで考えても話し合っても結論は出ないな」
「まずは桂子お婆ちゃんへのお土産を買いましょう!」
「お土産?」
「今度は伊勢のお土産ですよ、何にします?」
「隠岐の島のネットショップで買ったのが届くのは、いつ頃だろう?」
「早くて土曜日だと思います」
「遅いと日曜か来週か⋯お酒とおつまみが、今週中に届かない可能性があるな」
「そうでしたね。けど、今日は伊勢のお土産で、来週は隠岐の島のお土産と考えましょう」
「そうだね。お酒とおつまみ、後は⋯お茶かな?」
「じゃあ、お酒とおつまみとお茶ですね。センパイ、行きましょう!」
彼女の号令でスタバを出て、彼女の案内に従って石畳の通りを少し歩くと、面白い看板に出くわした。
『ひもの塾』
どうやら干物を扱う店のようだ。
通りから見ても、幾多の干物が見える。
「ここは帰り道に寄りましょう」
彼女の言葉で店先から見える範囲だけの立ち寄りとなった。
だが店の軒先八分ほどに渡る注連縄に、『笑門』と墨書きされた札を見つけた。
俺が今まで追いかけてきた『淡路陵の門』『米軍の門』『隠岐の島の門』『伊勢の門』に続く新たな『門』なのか?
新たな『門』の登場なのか?
周囲の店を見ると、同じ様な札の着いた注連縄が見える。
隣の店も同じだ。
改めて見れば、この通りに面した全ての店に『笑門』の札が着いた注連縄が掲げられているようだ。
師走から新年を向かえる頃ならば、店の軒先に注連縄が付けられているも理解できる。
今は既に新緑萌える5月。
こんな時期まで、注連縄を掲げ続けるのは意味があるのだろうか?
もしかして『笑門』の注連縄を掲げている店の全てが、『笑門』の守人だとしたら⋯
そんなことを考えていると、目の前に積み上げられた酒樽が見えてきた。
「よし!酒家さんも確認!」
そう告げる彼女の手にはスマホが握られていた。
「ここも後です。干物屋さん、酒屋さん、後はお茶屋さんですね」
「もしかして、里依紗姉さんから⋯事前聴取済みとか?」
「当然です!姉さんは伊勢の事前リサーチでは大事な情報源ですよ」
そう答える彼女の意気込みに、スマホ片手に質問を繰り返される里依紗さんの姿が思い浮かぶ。
「お酒とおつまみ、それにお茶まで調査済みとはスゴいね(笑」
「クフフ。お婆ちゃんにお母さん、それに姉さんから桂子お婆ちゃんの好きそうなものを聞いて、そのお店を紹介して貰っただけです」
お婆ちゃん=京子さん、お母さん=吉江さん、この二人がバーチャんの好みを知っているのは少しだが理解できる。
姉さん=里依紗さんが、何でバーチャんの好みを知ってるの?
「『赤福』発見!」
彼女が絡めた腕を離して俺の前に出る。
彼女の向かおうとする先を見れば、大きな金文字で『福赤』と書かれた看板が見えた。
福赤?
ああ、古くからの店だから逆から読むんだな、『創業宝永四年 赤福』と読むのが正しいんだな。
宝永四年って西暦何年だ?
「これもお土産の候補だよね?」
「センパイ、当然です!」
そう言いながらも素通りし先に行こうとする彼女を追いかける時、俺の視界に『まねき猫』が見えた気がした。
「おかしいなあ、お茶屋さんが⋯」
「そこじゃないの?詰め放題とか出てるよ」
「そこです!」
うっかり通り過ぎたらしい彼女が戻ってきて、俺の左腕に手を絡ませる。
「これで全て揃いました(ニッコリ」
「そうだ!追加して良い?」
「えっ?追加ですか?」
「漬物が欲しいかな⋯」
「漬物ですね⋯えぇ~と⋯はい、大丈夫です。まずはお茶を買いましょう」
俺の漬物の発案に承諾が得られ、伊勢のお土産購入が始まった。
◆
俺の両手には、お土産の紙袋がぶら下がっている。
買い物の時に発揮される彼女の能力で、1店舗毎の滞在時間は短いのだが、1店舗毎に紙袋が増える。
お土産の紙袋が4つになった時点で、彼女が器用に入れ直してくれたので2つにはなったのだが⋯重さは変わらない。
伊勢茶、赤福、伊勢漬け、伊勢うどん、伊勢蒲鉾、伊勢醤油⋯
正直に言って、俺は漬物を提案したのを少し後悔しています。
漬物を買うために向かったのが、『おかげ横丁』と呼ばれる観光客相手のお店が連なる場所だったのだ。
視界の隅に見えた『まねき猫』は『おかげ横丁』への入り口で、そこに足を踏み入れたことで、お土産が一気に重くなった。
まだお酒も買っていないのに、干物も選んでいないのに、俺の両手はズッシリとしたお土産の詰まった紙袋で塞がっている。
「センパイ、後はお酒と干物です」
「ごめん、干物はパス」
「えぇ~ 桂子お婆ちゃんに怒られます~」
「その分お酒を買おう!」
「うしっ!了解です。最後にお酒ですね」
「はい、それで最後にしてください⋯」
その後、俺は再び自分の言葉を後悔した。
干物よりも酒の方が重かったのだ。