18-14 歓喜
神楽殿で御札を手に入れ、俺達一行は参集殿へと戻ってきた。
驚いたことに、細マッチョ1号が入り口で待ち構えていた。
「山本は間もなく来る筈です。それまで応接室でお待ちください。運転手さんは申し訳ありませんが私と1階で待機をお願いします。」
細マッチョが毅然とした言い方をして来る。
山本さん不在で応接に行くとなると、俺と彼女、そして親衛隊の御三方か⋯
「二郎君と由美子さん、無理にとは言わんが少しだけ話をさせてくれ。何とか頼む!」
俺の心配が通じたのか、金次さんから頭を下げられてしまう。
気が付けば源三さんも正美さんも揃って頭を下げていた。
彼女を見ると軽く頷いてくれたので、俺は了解することにした。
親衛隊の御三方、俺と彼女の5人で応接室に入り、来た時と同じ配置で座る。
ウホォン
皆が座ったのを確認した金次さんが咳払いをし、続けて御三方が口を開いた。
「二郎君、やはり君は本物だ」
「さすがは零士さんと桂子さんの孫だ」
「一郎さんと礼子さんの息子だけある」
「はあ?」
「グッ」
普段ほめられたことの無い俺は戸惑ってしまった。
彼女はサムズアップで笑顔を向けてくる。
「由美子さん、お兄さんの進一さんの話をして良いかな?」
「ええ、聞かせていただきます」
進一さんの名が出たことで彼女が返事をして座り直し、金次さんが話を続けた。
「進一さんは、伊勢に二回来とるのはご存じじゃろ?」
「ええ、兄から聞かされております」
「ワシらは1回目の時、門の前というか多数の守人の後で控えとったんじゃ」
「急に門が開いてのう⋯「中から神様が出てきたんじゃ」」
源三さんと正美さんが金次さんに続く。
「最初に「出てきたのが「あの女性じゃった」」」
「「あの女性?」」
「ほら正宮の前で『八咫鏡』が見れるのかと聞いてきた女性じゃ」
「「⋯⋯」」
金次さんの言葉に、俺と彼女は何と返事をすれば良いのか迷ってしまう。
「なあ、二郎君それに由美子さん。あの御方は「「神様の使いじゃろ?」」」
彼女を見るが、彼女は俺と目を合わせず、御三方から視線を外さない。
俺は彼女のトラウマな思い出に触れていないかが心配になってきた。
「由美子、大丈夫か?」
「えっ?あっ!センパイ、大丈夫ですよ」
彼女は俺の心配に気づいたようだ。
俺の声にどこか作った感じのある笑顔を見せてきた。
「それでじゃな「あの御方と「いつから⋯」」」
「待ってください!」
俺は手を突き出し、親衛隊の御三方の質問を制した。
「「「⋯⋯⋯」」」
「その質問は、いつまで続くのですか?あなた方は幾つの質問をするのですか?全ての質問に私が答える必要がありますか?」
自分でそう言いながら、隠岐の島での進一さんとのやり取りを思い出す。
〉この後、二郎くんは
〉何個の質問を重ねるんだろう?
〉どこまで質問を重ねるんだろう?
:
〉二郎くんは、アマツカさんの正体を調べたいのかな?
「「「⋯⋯⋯」」」
「私としては、進一さんが門を開けた話には興味がありますから聞かせて貰えるなら嬉しいです」
俺はそこで一拍置いて、彼女の手を握る。
「ですが⋯申し訳ありませんが、あなた方の質問責めには、全く興味がありません」
「それは⋯」「まあ⋯」「⋯」
彼女が俺の手を握り返してきた。
その手の温もりに彼女を見れば、ほっとした表情を見せてくれた。
「どうします?話を続けますか?」
「うぅ⋯」「まぁ⋯」「そう⋯」
親衛隊の御三方は自分を取り戻したのだろう、話を止めて思案顔になってくれた。
その顔を見て、俺は進一さんに言われたあの時に、こんな顔をしていたのだろうかと少し考えてしまう。
「皆さん、お茶でも飲みませんか?」
場の空気を変えるように、彼女が笑顔で皆に聞こえるように声を出してきた。
「おぉ、そうじゃな。すまんすまん」
「正美、頼めるか?」
「おう、たしか⋯その電話で⋯」
「じゃあ、私が頼みますね」
そう言って、内線電話に一番近い彼女が席を立とうとした時、
コンコン
応接室をノックする音と共に、ドアが勢いよく開き山本さんが入ってきた。
「お待たせしてすいません。『伊勢の門』が開きました!」
絶叫するような喜ぶような、山本さんの歓喜の声が応接室に響いた。
彼女が座り直し俺に寄りそい腕を絡ませて来る。
「センパイ!やっぱりセンパイは本物です!」
「あ、ありがとう⋯」
彼女の顔に完全に笑顔が戻った。
俺は彼女の喜ぶ様に圧されてしまう。
「二郎君、見事だ!」
「ようやった二郎君!」
「うんうんやっぱり二郎君は本物じゃ!」
親衛隊の御三方にも笑顔が戻り、俺を称えてくる。
「門守さん、ありがとうございます!」
山本さんが深く頭を下げお礼を述べてきた。
その様子に俺は何も返事が出来なかった。