18-12 正宮
「ここから先は撮影禁止です」
人数制限をしている警備員さんが参拝客 or 観光客へ呼び掛けている。
だが入場を待っている方々は、軒並みスマホを正宮へ向けて撮影している感じだ。
隣の彼女も正宮へスマホを向けているし、後では天使さんが正宮を背景に見習い女神さんをスマホで撮影している。
おいおい良いのかよ⋯と考えながら周囲を見ると、どうやら石階段の上がり始めからが撮影禁止なようだ。
その時、背後から思わぬ声がかかった。
「ここは何が祀られてるんですか?」
大胆にも天使さんが山本さんへ声を掛けたのだ。
「なんと知らんのか?!」
「金ちゃん言い方」
天使さんの言葉に親衛隊の金ちゃんが驚きの言葉を口にし、それを山本さんが嗜めた。
「すまんすまん。天照大御神の⋯」
「天照大御神の御霊が宿る⋯」
「御霊が宿る八咫鏡が祀られとる」
親衛隊の御三方が微妙なハモリ方で天使さんと見習い女神さんへ説明を始めた。
「その八咫鏡って、見れるんですか?」
「「「ワハハハ」」」
「天皇でも見れん」
「伊勢の大宮司でも」
「畏れ多くて誰も見れんのじゃ」
今度は見習い女神さんが問いかけた。
その問いかけに親衛隊な御三方が解説付きで答えている。
その解説を聞いていると、彼女がスマホを操作して見せてきた。
「クフフ。センパイ、これって⋯」
「⋯プッ」
彼女がスマホで見せてきた画像を見て、俺は思わず笑いが漏れてしまった。
見せられた画像が、最近、見た気がするものに似ていたのだ。
「ここから先は撮影禁止です。スマホはしまってください」
俺達一行の前で入場を制限していた警備員さんから声が掛かった。
その声に、天使さんが上着の内ポケットにスマホをしまった。
彼女も同じ様にカゴバッグにスマホをしまった。
皆の準備が整ったのを見計らい、警備員さんが俺達一行の入場を許可した。
彼女と腕を絡め、目の前の鳥居を見ながら石階段を上がって行くと、鳥居の奥に厳かなたたずまいの社殿が見えてきた。
あれが伊勢神宮の内宮、その正宮の社殿で、あの奥に八咫鏡があると静かに心の中で思い描く。
階段を上がりきる頃には、なぜか隊列が崩れ俺と彼女の後に天使さん、その隣に見習い女神さんが続いていた。
石階段を上がりきり鳥居の前で一礼し、鳥居をくぐった時に、それは起きた。
あの参集殿で起きた周囲の物音が消える感じだ。
それまで聞こえていた周囲の音が無くなる。
木々が風に揺れる音も消えた。
参拝客 or 観光客のザワザワした声も聞こえない。
足元の玉砂利を踏む音も全てが消えた。
そして何故か目の前に見える正宮の社殿が半透明になり、その中を誰かがこちらに向かって歩いてくる。
「センパイ⋯」
「ああ、見えてる⋯」
腕を絡めていた彼女の声に応えると、目の前には八咫鏡を両手に持つ若奥様(女神)さんがいた。
「二郎さんと由美子さん。ようやく夫婦になる報告に来れたのね♡」
そう告げた若奥様(女神)さんが、俺の手に八咫鏡を渡してきた。
俺は両手を前に伸ばし、若奥様(女神)が差し出す八咫鏡を両手で受け取っていた。
隣の彼女が絡めていた腕をほどき、その手を俺の背に充ててくる。
俺は伸ばした両手の先、八咫鏡に触れる指先全てに『魔素』が流れるのを意識した。
背中に充てた彼女の手から温もりが伝わる。
俺の体内から『魔素』が指先に向かう。
俺の背中に充てられた彼女の手を通じて、俺の体の全てが彼女の『魔力』に包まれているのがわかる。
そして俺の『魔素』が八咫鏡へと流れ込むのがわかる。
「「それでは、ここで失礼します」」
天使さんと見習い女神さんの声が聞こえた途端に、周囲の音が戻った。
足元の玉砂利をはむ音、ザワザワとした周囲からの音、全ての音が戻っていた。
周囲の音が戻ったことに気が付き目を開ける?
あれ?俺はいつから何で目を瞑っていたんだ?
開いた目に入って来たのは、白い布が舞う光景だった。
いつも俺の左側に立つ彼女に目をやれば、祈る手をほどこうとする彼女がいた。
「由美子、ありがとう」
俺は思わず彼女に礼を述べていた。